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乙女ゲームの正統派ヒロイン、いいえ武闘派ヒロインです。  作者: sirosugi
学園編

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38 ミサ 一年生 蹂躙する1

ミサVSライオネル殿下と筋肉集団

 木刀を正眼に構えて意識を集中する。目の前の相手とそれ以外を無意識に分けて必要な情報を脳で選別して想像する。想像は創造となり現実の動きとなる。

「行きます。」

 合図とともに繰り出されるのはこちらの頭を狙ったするどい槍の一撃。頭をふってかわしながら深く踏み込む、その頭上を払われた槍が通り過ぎて風圧で髪が舞う。構わず突っ込み、持ち手の足を狙う。だが引き戻された槍の速度が思った以上に早くてあきらめて横に飛ぶ。

「もらいですー。」

 飛んで空中に対空したタイミングを狙って横から大槌の攻撃が襲ってくる。身体を捻って剣をたたきつけて軌道をずらしつつ直撃を避けるけど、思った以上に距離が離されてしまう。手も少しだけしびれた。

「やるわね。」

 日課の訓練とはいえ、気を抜けばケガをする。この緊張感がたまらない。

 剣を片手に持ち替えて半身になり、じりじりとすり足で槍との距離を詰める。迎え撃つのは嵐のような槍の連続突き。その一つ一つの穂先に剣劇を当てて迎撃する。互いにその場に留まっての我慢比べだけど、足を止めればそこを突くように大槌の攻撃が飛んでくる。ならばと立ち位置を調整して大槌の攻撃が槍使いを巻き込むように調整する。じりじりと焦れるような視線を感じながら槍使いとの距離を詰める。

 ただ相手もなかなかで柄を使った動きも混ぜながらこちらの剣劇を捌く。まるで重たい水の中を進んでいるような重さと密度。そして隙を伺うように動く大槌の有効な範囲に入らないように気を配らないといけない。と思ったら槍使いごと巻き込むように大槌が振るわれ、私たちは示し合わせたように飛んでそれをよける。

「おしーい。」

 とんでもない攻撃に肝が冷える。そういったところで、修了を告げる鐘の音がした。

「ふう、最後のは危なかった。」

「ラニーニャ、今のは私も巻き込んでなかった?」

「うーん、ベルカならよけれーるかなって。」

「むちゃくちゃだな、なら最初からそうしなさいよ。」

「えー、そしたら反撃されるじゃん。」

 軽く出た汗を拭きながら、訓練相手のベルカとラニーニャを見ると二人ともへたり込みながらブツブツと文句を言いあっていた。

 ベルカとラニーニャは私たちの世話役であり護衛、なによりお目付け役だ。いざとなったら二人掛かりでケガをいとわなければ私は止められてしまう。だけど訓練ではお互い無駄にケガをしたくないからその限りではない。ちなみにベルカはベンジャミンの、ラニーニャはグラートの娘でその才能を受け継いでいる。これだけでヘイルズ先輩たちの思惑は打ち砕けるだろう。女子だって男子よりは強いんだ。でも二人はそういったことはしない、せいぜいが私の訓練の相手をするぐらいだ。

 まあ準備体操としては、十分だろう。

「じゃあ、行こうか。」

「「はい、お嬢様。」」

 多少の疲れなどなかったかのように居住まいを正す二人を引きつれて私はゲストハウスから、指定された訓練場へと向かった。


(ラグ視点)

 世界の広さを知ってきなさい、学園に入るときにベガ父様からそう言われた。

 確かに僕の世界はソルベの訓練所とミサ姉さんとファル、あとはライ兄さんとのやり取りだけだった。だから、僕は弱いし、臆病だ。ミサ姉さんとの訓練は未だに泣きそうになるし、ファルに嫌われるのは怖い。ライ兄さんの話や提案にはワクワクするけど、自分に実行できるほどの度胸はなかった。だから姉さんの後を歩いたし、ライ兄さんの提案に協力するのが僕の日常だ。

 学園に入ると、たくさんの男子と出会った。同年代の男子というのはラグ兄さんしか知らなかったけど、男同士というのはなんとも気楽で楽しかった。ヘイルズ先輩たちのノリはちょっと苦手だけど気の置けない関係というのはうれしかった。ファルと姉さんの関係をうらやましく思っていたのかもしれない。

 なるほど男同士というのはこんなにも気楽で楽しいものだったのか、ベガ父様の言葉の意味がわかるし、父ちゃんが若い頃、国中を旅していたのもきっとこんな気持ちだったんだと思う。

 こんな感傷的な気持ちになるのはどうしてだろう。

 いや、わかっている。わかっているけど、現実を直視したくないんだ。

「さて、ラグ、どう思う。」

「絶望的です。」

「ははは、相変わらずラグは臆病だな。」

 そういって苦笑しているライ兄さんだけど、その笑顔は少し引きつっている。

「ははは、殿下、ラグの言う通りですよ、女子一人にこの人数はやりすぎですって。」

 何もわかっていないヘイルズ先輩と一緒になって笑っている先輩たちがうらやましい。毎朝僕たちは一緒に訓練をしているし、何かと気を使ってくれる人達だ。尊敬もしているし、親しみも感じている。そんな親衛隊を自称している人たちが10人。思い思いの武器をもって訓練場でたたずんでいる。

「いや、足りないな、レイランドを、いやせめてマイルも参加させるか。」

 真剣に検討しているけど、ライ兄さん、もう遅いです。

 優れた兵士は、敵の存在を感じ取るセンスも求められる。空気の揺らぎとか音、経験による勘。そうラグ・ソルベが姉であるミサ・ソルベの気配を見逃すはずがない。

 そして、姉がめっちゃやる気でなおかつ激おこなことを。


 訓練所に入るとラグと殿下、あとは先日みた筋肉集団の12人。あとは離れた観戦用のシートにマリアンヌ様とファルちゃん、レイランドさん、トリダート先輩となぜかメイナ先輩も座っていた。

「ベルカ、ラニーニャはマリアンヌ様達のお相手を。」

「はい。」

「おじょうーさまー、ほどほどにしてくださいねー。」

 緊張感もなく離れていく二人を見送りながら、堂々と訓練場の真ん中まで進む、お互いの距離は10メートルもないだろう。

「ミサ、久しぶりにやる気でうれしいぞ。」

 両手を広げ歓迎の意を示す殿下だけど、ふふふ、少しだけ震えている。

「ははは、勇ましいなあ、ラグの言っていたことはわりと本当かもしれないな、これはやりがいがある。」

 ヘイルズ先輩は丸い盾と大き目の剣を持って陛下の前に立っていた。防壁を自称するほどだ、こうして武器をもって立ち会うとその体の大きさがはっきりする。たしかに示威行為や威嚇的な護衛ならヘイルズ先輩はふさわしいだろう。

 ただ。

「もしかして、お1人でお相手するつもりですか?」

「ははは、さすがに女子相手にこの人数で挑むのはあれだ。それに訓練だからな、安心してくれケガはさせない。」

「ふふふ。」

 一体、ラグはこの人たちにどんな話をしているんでしょうか。尋ねるようにラグに視線を向けると慌てて首をふる。まあ、いいや。

「殿下、ルールは?」

 ノウキンの相手も飽きたので、ライオネル殿下に尋ねる。

「ああ、そうだな。いつも通り、俺がやられたら負けだ。」

 入学前からライオネル殿下とのこういったじゃれ合いは多かった。ソルベでのタイマン戦から、魔法あり、ラグも加わった2対1、陛下の護衛も加えた4対1、条件付きでソルベの兵と王城の兵との集団戦。オオカミが出て時に狩り競争なんてこともした。

「では。」

 ただ、こんなおふざけはいただけない。

 一息で踏み込み、呆けるヘイルズ先輩の前に立つ。だめだ、訓練と思ってなめてる。

「行きますよ。」

 ゆっくりと大きな声で言って私は剣を突き出す。

「お、おわ。」

 それでも即座に盾を構えて防御体勢を取るヘイルズ先輩。なるほどいうだけあって反応はそこそこ。

 だが、無意味だ。

「おわ。」

 剣の刺突を止めきれなかったヘイルズ先輩は、勢いを殺すこともおらずただの一撃でその身体を浮き上がらせる。

「覚悟は足りてませんよ。」

 浮いてしまえば体重など関係ない。驚愕するヘイルズ先輩に背中を見せる大振りの回転切りをたたきつける。うんちゃんと盾を狙っているからケガはしないはず。

「せりゃ。」

 衝突後、ヘイルズ先輩は面白いぐらい飛んだ。

 ずさーー、ぐちゃ。そんな音がした後、訓練場は不思議な静けさに包まれた。

 目の前の光景が信じられない、全員がそんな顔をしているけれど。

「この程度で動揺するとか、それでも兵士なんですか?」

 なめている。相手をするのも馬鹿らしい。イライラする。

 なんでこの程度で粋がっていたんだ、こいつらは?

 

長くなったので、次回に続く。

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