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乙女ゲームの正統派ヒロイン、いいえ武闘派ヒロインです。  作者: sirosugi
学園編

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37 ミサ1年生 挑発される

男子の圧に怯えるヒロイン?そんなものはない。

 気づけばテーブルには、私たちを囲むように、トリダート先輩とノウキンことヘイルズさんとラグ、それともう一人、ピラーズという先輩たちが座っていた。

 いや、トリダート先輩はもともと座っていたんだけど。

「しかし、噂にたがわずきれいな姉ちゃんだな。殿下の話を聞いてなければ噂を信じているところだった。」

「先輩、それはライオネル殿下が自ら否定してた話ですから、ここでだすのは。」

「いやいや、マリアンヌ様も気に入っているというじゃないか。これはこれで気になるだろ。」

 ずいぶん失礼な筋肉だな。ニコニコと聞き流しながら私は筋肉への評価をどんどん下げていた。

 聞けばヘイルズというのは、近衛隊の息子で、父親は現王の近衛筆頭を務めているらしい。世代も近く、実力もあることから、ライオネル殿下の取り巻きとして学内では振る舞って居るらしい。なんというか傲慢という言葉を使うのがもったいない、ノウキンである。

「すみません、ミサ様、こいつ基本的に女性の扱いが下手でして。」

 ピラーズという先輩が苦笑してフォローしているが、どこかあざけりを感じる。

「それにしても、ミサ様もそうですか、お仕えしているお二人もお美しい。名前をうかがっても。」

 なんかチャラいというか、二人の本性を見抜けてないあたりダメね。

(これはどういうことなの。弟よ?)

(ごめんなさい、ごめんなさい。】

 視線で優しく聞いてあげると、ラグは焦ったように首を横に振る。

 なるほど、ラグに悪意はない、ただこの状況を防げなかった、いや防ごうとしなかった時点で同類よねー。

「お嬢様、先に食事を済ませてはいかがでしょう、処すのは何時でも。」

「ベルカ、私はそんな手は早くないわよ。」

 私の様子を見かねて耳打ちしてきたベルカにそっと微笑む。あっだめだ、引きつるわー。

「まあまあ、ラグのような立派な男が近くにいるんだ、ミサ嬢がローズ様のような英雄にあこがれるのはわかる。魔法の成績もなかなかと聞いているぞ。」

 母様は伝説的な存在らしいからねー。ただヘイルズさんの言い方はそれを信じていない。

「まあ、ソルベのような田舎では、ほんとの強者というのはいないのだろうしな。お転婆姫が嫁入りしたのも納得だ。」

「おい、ヘイルズ、それはお前の父親が酔っ払って語ったホラ話だろ。」

「ははは、マイル、おやじはたしかに話を盛るからなー。かといって娘であるミサ嬢はこんなにも可憐なんだぞ、があ。」

 何やら盛り上げっているヘイルズ先輩は、急に白目をむいて机に倒れる。

「お、おい、ヘイルズどうした。」

 突然の奇行に慌てる男性陣だが、倒れる直前にトレイをよけたラグは、非難するようにこっちを見ていた。

「姉さん、やりすぎでは。」

「なんのことかしら、それにしても急に倒れるなんてどこかお体の調子が悪いのかしら。」

 私には何もわからない、ただ言えることは、ヘイルズさんの胸元と倒れた先がなぜか濡れていることぐらいだ。

「ずるいですよ、お嬢様、こういうのは私たちの役割なのに。」

「そーですよー。でもこれで終わりなんで――す?」

「面倒だから、これで終わりたいところなのよね。」

 ちゃんと、ソルベ関係者には私がしたことは見えていたらしい。まあ、そのくらい差はあるよねー。

「おお、おお、すまん、急に意識が。」

「そうなんですか、そういうときはお休みなられた方がいいと思いますよ。」

「はは、問題ない、このくらいで休んでしまうほうが問題だ。ミサ嬢。男たるものガッツがないといけないんだ。」

 そういってむんとポージングを決めるヘイルズ先輩。

 なんなのこの人、もう一撃くれてやろうか。

「おお、仲良くやれているようだな。」

 ただその前に邪魔が入ってしまった。

「あら、ライオネル殿下ごきげんよう。」

「ああ、ひさしいな。」

 周囲の喧騒を全く気にしない殿下の登場に対して、私は立ち上がり、礼をする。

「マリアンヌ様も、お会いできてうれしいですわ。」

 なぜなら今日はマリアンヌ様も一緒だからだ。マリアンヌ様の前で殿下に恥をかかせるのは忍びない。

「ふふ、ミサ、口元が笑っていますよ。」

 クスクスと上品に笑うマリアンヌ様に対して私はチロリと舌をだす。猫はしっかりとかぶりますとも。

「はあ、お前は。ともあれ何だこの集まりは。」

「殿下、それはいくらなんでも不自然ですわ。」

 とぼけようとするライオネル殿下をマリアンヌ様が窘める。うん、これはあれだ、二人、あるいはライオネル殿下の差し金ということなんだろう。

「ずいぶんと面白いご学友をお持ちなんですね、殿下?」

 私はその流れに乗ってあげることにした。このむさくるしい空間はともかく、もう一人の人にはちょっと興味があったからだ。

「ヘイルズ程度じゃ驚かせられないと思っていたからな。ミサ、こちらはレイランド・グラファッル。レイランド、ミサ・ソルベ、知っていると思うがソルベの跡取りだ。」

「はっ、ご紹介にあずかりました、レイランド・グラッファルです。恐れ多くも殿下とマリアンヌ様の護衛を務めさせていただいています。」

「これはご丁寧に、ミサ・ソルベ。ソルベの跡取りです。こっちがラグ。私の弟ですわ。」

 きっちりと挨拶を交わす相手は、背の高い女性だった。きりっとした顔に無駄のない佇まい、年のころはベルカやラニーニャと同じくらいだろうか。なるほど本職の近衛さんはそれなりの実力者なんだろう。

「レイランド様、なかなかできますね。」

「・・・ミサ様もなかなかですね。隙がありません。」

 挨拶をしながらもそっと距離を図る私に対して、レイランド様も腰に下げた剣に手をかける。気を抜けば斬られる。でも躱せる。

「おお、レイランド、お勤めお疲れさん。」

「ヘイル、もう少し気を引き締めていただけますか。情けない。」

「はは、見られていたのか、俺自身もびっくりだ、なんでか急に意識が飛んでな。」

「だからですよ。」

 おや、先ほどの悪ふざけをレイランド様は見抜いていたらしい。いや距離的に私が何かしたことに気づいたぐらいかもしれない。

 面白いなあ。

「姉さん、悪い顔になってるよ。」

「あら、おほほほ。」

 われながら、なんだかよくわからない状況にストレスが溜まっていたらしい。ただ、わかってしまえば納得でもある。

「ところで、ミサ、放課後にでも久しぶりに勝負しないか?」

 集団の中という逃げ場のない状況なんて用意しなくてもいいのに。

「ええ、私としても殿下の力を確認したいと思っていました。」

 殿下のお遊びに付き合うのは、貴族の務め。

「正面から叩き潰してあげますわ。」

 挑戦者を叩き潰すのはソルベの義務だ。





 ヘイルズ達の思想自体は、この世界では珍しくない。子どもが大切にされているからこそ、荒事をする女性というのは珍しく、男子は女子を守るものというのは一般的な思想。ただし、どんなときも例外は存在する。

 次回はバトル回

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