36 ミサ 一年生 ノウキンとメガネに絡まれる。
学園生活を謳歌する一同
オータム学園は12歳から20歳ぐらいの子息が学んでいる。
出産の危険があるため、この世界において子どもは非常に大事にされている。だからこそほとんどの子は一人っ子で家族に大事に育てられている。下手をすると学園に入学するまで同世代の子との交流もないなんてことも多い。
まあ、何が言いたいかというと、年ごろの子どもが集まり、親の目も離れればそれなりにやんちゃな子もでてくるわけだ。
「なんか、お前臭くないか。」
「えっそうですか。」
「ねえ、ちゃんとふろはいってる。」
「はいってますよーー。」
「ええ、お前、姉ちゃんと風呂はいってのーーー。」
「ええ、ちが。」
例えばこんなくだらないやり取りをする男子生徒たちも珍しくはない。それが王族から平民まで利用する食堂で昼食を食べながら行われているのも珍しくない。
「ラグの姉ちゃん、美人だもんなー、うらやましいぞ。」
「ちがいますからねー、先輩。」
「まあまあ、あまり後輩をいじめるなよ。まあうらやましいのは認めるぞ、美人の姉に美少女の許嫁、こういうリア充は、持てない俺たちの話のネタにされてしかるべきだ。」
そう弟や姉がいるというだけでこんなからかいはよくあるのだ。ラグが私のことで他の男子生徒からからかわれることも珍しくない。
「ラグ君、すっかり人気者ですねーー。」
「ご学友もずいぶんと増えているようです、お嬢様と違って。」
うるさいぞ、二人。確かに、ラグやファルちゃんがほかの誘いがあるせいで今日はボッチ飯だけど。そういうときはマリアンヌ様とかローちゃんと食べるのに、そっちとも予定が合わない。
「まーまー、たまに私たちと一緒に食べましょーよ。」
「なんなら、切り分けてあーんしてあげましょうか、お嬢様。」
ベルカとラニーニャも一緒に食べているのはちょっと寂しかったからだ。普段は給仕もしてもらうし、ちゃんとお嬢様として振る舞ってますよ、私。
「ふん、召使いと一緒に食事をするくらい人望がないんだな、やはり剣などを振り回すお転婆には友達がいないんだな。」
事実だけど、言い方。というか、隅っこに座っている私のところまでわざわざ来たのか、こいつは。
「あっ陰険メガネ。」
「誰が陰険メガネだ。」
それはいつぞのやの朝に失礼な発言をしていた、ダサいメガネの残念イケメンだ。相変わらずきっちりとした恰好にすらっとした体躯なのに、恐ろしくメガネが似合っていない。
「名乗りもしないで罵倒された相手に礼儀が必要とでも?」
「ちっ。」
うわー露骨に舌打ちしたよ、このやろう。
「マイル・トリダート。2年生だ。」
「ミサ・ソルベです。よろしくお願いします。トリダート先輩。」
そして、さようなら。と私は食事を再開しようとするが、なぜかトリダート先輩は私の正面に座ってきた。よく見ればその手には飲み物と簡単な軽食があった。まさかここで食べるつもりか?
「ふん、知っている、ミサ・ソルベ。ソルベの跡取りで殿下も認める才ある女性と聞いている。しかし、ソルベの姫様がボッチ飯とはな。」
「失礼な人ですね。」
「ふん、こちらとしても不本意だが、メイナに頼まれてな。」
「メイナ様、お知り合いなんですか。」
「えっ、聞いてないのか?」
きょとんとした顔になるトリダート先輩。正直、こんな人からメイナ様の名前が出てくることが不思議でしょうがない。
「ああ、もういい。メイナのことを知っているなら話が早い。あいつから頼まれた、今日はミサって後輩が一人みたいだから、暇があったら声をかけてくださいって。」
「なるほど、トリダート先輩も暇なんですね。」
完全理解。メイナ様はこのかわいそうな先輩のために、私に話し相手になってもらいたいんだな。
「仕方なくだ、俺もそれほど暇じゃない。」
なにやらイライラしていても席を離れようとしない先輩の姿に私は納得する。この人、ボッチだ。
「うわ、腹立つ、その笑顔。」
「何を言っているんですか、トリダート先輩さま、仲間を見つけて喜んでいるだけですよ。」
おいこら、ベルカ。私を巻き込むな。
ただ少し騒ぎすぎてしまったらしく、気づくと周囲の視線が集まっていた。そして、
「おいおいおい、なんだなんだ、けんかか、けんかか。」
なんか面倒なのもきた。
「あれあれ、マイルじゃん、なんだなんだ浮気か、浮気だな?」
紛れ込んできたのは筋肉だった。いやちゃんと制服を着ているのだけど肩幅がやたら広いし、なにより大きい。歩くたびにどすどすと音が聞こえる気がする。
「「暑苦しいな。」」
期せずしてトリダート先輩と声がかぶってしまいいやな気持になってしまう。表情こそ出さなかったが、なんだろうこの状況。
「ヘイルズ、公共の場だ、もう少し静かにできないのか?」
「はは、無理だ、すまんそういうのは無理だ。」
これまた声がでかい。そしてなぜか上腕を見せつけるようなポージングをしている。
「トリダート先輩、このき、暑苦しい人はお知り合いですか。」
「おまえ、もう猫をかぶる気すらないな。」
そんなものは最初からない。多少なりとも礼儀はわきまえているけど、こちとらソルベだぞ。
「ははは、豪胆な子だな。さすがは、ラグの姉ちゃんって感じだな、さすがだ。」
「ラグ、ああそういえば。」
この人、ライオネル殿下の筋トレ軍団の仲間だ。たぶん、きっとメイビー
「おお、覚えてもらえるとか光栄だ。これでも将来は近衛兵を目指しているから光栄だ。でかく、大きく、陛下や殿下たちを守る壁になるために日夜鍛えるんだ。」
「なるほど、頼もしいですねー。」
さすがは殿下、慕う人間も筋肉信仰だ。
ほんとラグに悪影響しかないなあ。処すべきかなー、姉として。
いやそれ以前にもっと、静かに食事をさせてくれないだろうか。
「まあまあ、せっかくだ、一緒に飯にしよう、ミサさん。一度話してみたかったんだ。」
めんどくせー。しかもこのノウキン、自己紹介もしないで席についた。
「おい、さすがに失礼だぞ。」
「だいじょうぶ、だいじょうぶ、ラグの姉ちゃんなんだから、身内みたいなもんだ。」
あれおかしいな、トリダート先輩がちょっとまともに見えてきた。
男子ってバカしかいないのかな?
「姉さん、ごめん。先輩がどうしても姉さんに挨拶したいっていうから。」
弟よ、それならもっと早く来てくれないと困るのだが。
4人分の食事のトレイをもってあとからきたラグに対して私は悲し気な視線を送るしかなかった。
ミサさんの言動がどんどんわんぱくになっていく・・・




