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乙女ゲームの正統派ヒロイン、いいえ武闘派ヒロインです。  作者: sirosugi
ミサ 4歳

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3 ミサちゃん 4歳 かあさまをせっとくする。

父親は納得、でも母親はそう簡単には・・・

 子供七つまでは神様の子と言われるのは、それだけ幼少期の子どもが病気などになりやすいことからきている。そのため一般庶民や食い詰めの家族であっても、5歳ぐらいまでは子どもは大事に育てられる。

 貴族に至ってはもっと過保護で本格的な教育は7歳からとされている。マリーのようなメイド見習いの修業が始まるのもそのころからとされているし、兵士としての訓練にいたっては10歳からが一般的とされている。

「そのあたりはわかっていらっしゃるのですよね、アナタ。」

 それゆえに、愛する夫と、愛する娘のとんでもない提案に対して、ローズ侯爵夫人の視線の温度が低くなるのは当然と言えば当然であった。

「だがな、ローズ、ミサは天才かもしれん、それにその志はすてにソルベのそれだ。」

「それで?」

 だからどうしたといった感じのローズの声色に、ベガはそのまま言葉詰まらせる。美しく、それで気もあう相手であり、生涯の連れ合いと決めた相手だが、夫というものは妻には勝てないものなのだ。

「ことの経緯はマリーから説明を受けました。ミサが木刀を欲しがり城内を走り回っていたこと、そこにいらない知恵を吹き込んだ不届きものが何人かいることも、だからこそ、ミサにはまだ早いと諭す場面なのでは?」

「ごもっともです。」

 叱られた犬のようにうなだれるベガにひとまずの溜飲を下げたローズは、夫のとなりで不思議そうに首をかしげている自分の愛娘を見た。

「ミサ、お父様に言ったことを母様にも教えてくださる。」

「はい!」

 待ってましたとばかりに、ミサは立ち上がえり、父親に言ったことを再び宣言する。

「ミサ、つよくなるの、それで、とうさまも、かあさまも、マリーもみんなをまもるの。とうさまみたいに。」

「くっ。」

 そのまっすぐな瞳、それは自分の愛した男と同じ色、そして自分と似たその美しい容姿、ローズからしても愛してやまない愛娘からのまっすぐな言葉は、それなりにくるものがあった。だが耐えた、ここで我が子のために心を鬼にして現実を告げなければならないからだ。

「そうですか、ミサのその立派な考え、母様もうれしく思います。」

「うん。」

「ですが、アナタはまだこどもです、身体が十分に出来ていないのに、必要以上に鍛えてしまっては体を壊しかねません。私たちはそれを心配しているのです。」

 娘の前にしゃがみ、目を合わせ、ゆっくりと言い聞かせるようにローズは語る。

「見てごらんなさい、私や父様の手を、これは長い修練と経験によってこれほどにまで大きくなったのです。あなたにはまだそういった経験に耐えるだけ、身体ができていないのです。」

 そっと重ねられた母の手は、女性にしては大きく、また固かった。対してミサの手はまだプ二プ二と柔らかく、なにより小さかった。それでもつい先日よりも少し大きくなっていることにローズの心はゆれた。

(ああ、お母さま、お母さまも同じような気持ちだったのですね。親不孝な娘でした。)

 武人としても生きた自分の人生を悔いることはない、ただ、我が子をもったことで自分のお転婆だった少女時代を思い出しそっとローズは身悶えた。

「あなたの強くありたいという気持ち、母様にもわかります。私もかつてそうでした。」

「かあさまも?」

 きょとんと首をかしげるミサがまた可愛く、周囲はそっと口元を隠したり、腹筋に力をいれることになったが、母子は気づいていない。

「ええ、今のミサよりももう少しと大人になったときでした。兵士たちの訓練に参加したいとわがままをいって、特別に加えてもらったの。」

 今となっては若気の至り、今は同じ過ちを娘にさせないがための言葉だった。しかし。

「かあさま、すごい。」

 ミサには逆効果だった。

「そうか、けんだけじゃだめなんだ、ボスピンのいうとおりだ。」

「ボスピン、兵士長のことですか?」

「うん、ボスピンが、けんだけつよくてもやくにたたないぞーって、さけんでた。」

 何やら得意げに目を輝かせる愛娘に対して、国内最強とも言われる夫婦は再び戦慄した。

「ミサ、けんがいちばんとおもってけど、ちゃんといっぱいはしるし、おべんきょうもするーー。」

 待ちきれないとその場でクルクルと走りながら、ミサは自分の中にあった大まかな計画を軌道修正していく、そして、子どもの特有の無邪気さでそれは口からもれる。

「まずは、あしはこび、それからきんとれ、すぶりもたくさんするのーー。」

 無邪気な言葉だが、親たちは冷や汗が垂れるのみだった。

(だれだ、こんなこと教えたの?)

 子どもとくゆうのどこか、舌足らずな話し方でありながら具体的なトレーニングメニュー、それは我が子可愛さに自分たちのそばに置いていた結果という事実を認めたくないだけなのである。

「かあさま、おねがい、わたし、とおさまみたいにつよくなりたいし、かあさまみたいになんでもできるようになりたいの。」

 クルクルしていた勢いそのままにミサは母に抱き着き懇願した。

「くっ」

 あまりのいとおしさに抱きしめたくなるのをぐっとこらえたローズは娘の肩に手を置き、真剣な顔でといた。

「ミサ、たしかに剣だけではだめです、あなたはこのソルベ領を継ぎ、ソルベの民を守るべき人です。」

「あい。」

「ですから、剣だけでなく、勉強もしなくてはいけません、礼儀作法にダンス、刺繍などの淑女としてのたしなみや領地の現状などについてです。それは机に座って長く退屈なものです、それもがんばらないといけないのです。走り回ったり、遊んだりする時間も減ってしまいますよ。」

「べんきょう!!」

 伝家の宝刀である「遊びの時間がへるよ」+「勉強もしなさい」という言葉。だがミサからすればそれすらも喜びだった。

「やったー、べんきょうもできる、ミサがんばる。」

(えええええええええ?)

 再び嬉しそうに跳ねるミサに、周囲はドン引きである。4歳にして賢いミサが勉強の意味も、遊ぶ時間の意味も、そもそも、まだ早いと言っていることの意味も分からないはずもない。そう思っていたからだ。

「ミサ、ほんとにいいのですか、そうなると、母様も優しくはできませんよ。」

「と、父様もだぞ、厳しくて、泣いてしまうかもしれないぞ、あとめっちゃ痛いかもしれないぞ。」

「ミサさま、お菓子を食べる時間も減ってしまいますよ。」

 こうなると慌てるのは大人である。というか対応を間違えたとしか言いようがない。

「うん、がんばる。そしてかあさまみたいになんでもできて、とうさまみたいにつよくなるの。」

 三つ子の魂百までも、勉強も訓練も遊びもミサにとってはご褒美でしかなかった。

「ミサね、うんとつよくなるの?」

 図太い芯の通った願い、その根源を彼女は理解していない。それでもこれは変えられるものではないと周囲を納得させるだけのすごみがあった。

「わかりました。」

 狼狽する大人たちの中で、一番に立ち直ったのはローズであった。

「ミサ、同じ女性として、母としてアナタの幸せを案じていましたが、その覚悟、母は受け止めましょう。今日からこの母とともに学ぶのですよ。」

 そして、割と母親は体育会系だった。

 




両親の説得、いよいよミサの修業がはじまります。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 化物め。後から「やはり嫌だ」、とも言わんでしょうな。どこまで行けるのかは興味深いですが、少しは絶望も経験して欲しいですね。闇落ち悪落ちも大好きなので。
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