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乙女ゲームの正統派ヒロイン、いいえ武闘派ヒロインです。  作者: sirosugi
学園編

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32 ミサ 12歳 可愛い人に出会う。

ヒーローというべきか攻略対象と言い切ってしまうか迷う今日この頃

 学園には1000人近い生徒と教員や職員などたくさんの人がいる。だがほとんどは校舎や訓練場などで過ごしているため、学園内を散策しているときは意外と人に会わない。

「そうではなく、皆さまは乗合馬車などを利用しているんですよ、お嬢様。」

 呆れてついてくるベルカ曰く、放課後に目的もなく校内をふらふらと歩いている物好きは私ぐらいで、多くの生徒は授業が行われる学び舎と寮を往復している馬車を利用している。マリアンヌ様やファルちゃんたちも基本的には個人用の馬車を使っている。

「今日の馬車はラニーニャが買い出しに使ってるからしかたないじゃない。」

「使用人にご自身の馬車を貸し出す物好きもお嬢様ぐらいでしょうね。」

「ええ、だってその方が早いでしょ。」

 私も専用の馬車もいるし、王都にはソルベの別邸もある。私もラグも必要ならば馬車でも人手でも借りたい放題だけど、面倒だから使っていないのだ。いちいち乗り降りすることを考えたら歩くなり走った方が早い。

「まあ、私としてもお嬢様を独り占めできるのでいいんですけど。」

 なにかベルカが言っていたがよく聞き取れなかった。

 

 と歩いているうちに私はきれいな温室を見つけた。

 丁寧に管理されているであろう透き通ったガラスの建物と周囲を囲っている色とりどりの植物たち。ちらっと見ただけでもかなり珍しいものだ。

「アロエに、ハトムギ。こっちの花はシャクヤクかしら。」

「お嬢様、中にはレモンにオレンジもありますよ。」

 それなりに大きなスペースには所狭しと様々な植物が育てられていた。すごいのは目に入ったものが美容に良いとされるものばかりということだ。ここの持ち主はそれなりにセンスがある。

「これかなり質がいいですよ、できたら幾つか譲っていただきたいです。」

 気づけばベルカは温室の近づき目を輝かせながら一つ一つの植物を検分し始めていた。相変わらず仕事よりも欲望に忠実な子である。

「ベルカ、勝手に採っちゃだめだからね。」

「わかっています、そんな拾い食いをするお嬢様のようなことはしません。」

「ちょっ、それは6歳の時の話でしょ。」

 気になった木の実を食べてお腹を壊した、そんな昔のことを掘り返さないでもらいたい。

「あらーーん、これまた美人さんが二人も来てくれるなんて、うれしいわー。」

「ふえ。」

 不意撃ち気味に声をかけれ、私は猫のようにその場で飛び上がってしまった。

「あらあら、驚かせてごめんなさい。あんまりにも熱心に見てくれるから声をかけるタイミングを忘れてしまったのよー。」

 声かけてきた相手は謝罪するが、反省よりもからかいの様子が強い。ただそれ以上にインパクトのある人だった。

「す、すみません。あまりに素敵だったので。」

「うれしいわ。外の植物は地味なのが多いからわからない子には雑草にしか見えないみたいなのよ。」

 中世的な低めの声、植物の世話をしていたのかやや土に汚れた上下のつなぎを着ているが、姿勢がいいのでかなりかっこいい。

 ただその顔は恐ろしく整っていた。きっちりと形を整えられた眉毛に目元には薄いピンクのアイシャドウ、口には真っ赤なルージュが塗られ、長い髪は作業の邪魔にならない程度の大きさの花柄のヘヤピンが止められていた。こんなにもきれいな男性というのは初めて会った。

「あら、私の顔に見惚れちゃったかしら?」

 うふふと手を口元に持ってくる。園芸用の手袋が化粧を落とさないようにギリギリ離しているあたり、器用だ。

「めっちゃ可愛いですね。」

「へっ?」

 身長はラグたちと同じぐらい。それでいて無駄なく鍛えられた身体。なのに化粧の仕方や動作の一つ一つがなにか可愛い。そう思ってしまった。

「はい、肌を明るめに引き立てる化粧の仕方もいいですし、作業服の刺繍のワンちゃんも可愛い。」

 マリアンヌ様とは別方向で突き抜けた人だと思う。

「お嬢様、男性にその評価がいかがなものかと。」

 男性の登場に驚いていたベルカも、私の言葉に正気を取り戻したようだ。


「私は、ローズ・ジャネットよ。この温室を管理している3年生。」

「本年度より入学したミサ・ソルベです。この子はお付きのベルカです。」

 不躾な感想を言ってしまったがローズさんは面白がって私たちを温室の中に招待してくれた。温室の中にはテーブルがあり、私とローズさんは向かい合って座って今に至る。

「ベルカちゃんね、あなたもよかったら座ったら。」

「いえ、私はここで。」

 ベルカは私の後ろに立って空気のように気配を薄めている。まあ、貴族と使用人としては正しい。ローズさんもそれ以上は追求せずにささっとお茶の準備をして座る。

「それにしても、ソルベのお姫様とお茶をする機会がもらえるなんてうれしいわー。噂通りの美人さんでびっくりよ。」

「美人だなんて、そんな。それをいったらローズさんの方が可愛いですよ。」

「可愛い、うれしいこと言ってくれるわね。お世辞でもうれしいわ。」

 お茶を飲みながらローズさんはなぜか自重気味に笑った。あれだ、ベルカの言う通り男性にかわいいは失礼だったかもしれない。

「す、すみません。ローズさんのお化粧とか所作がとても女性らしくて。」

 だーかーらー、何を言おうとしている、私。

「ふっふふ、嘘がつけない子なのね。」

 と思っていたらローズさんは表情がへにゃって柔らかくなった。

「男がこんな格好をしていたら、気持ち悪いって思わない?」

「ううーん、うちの弟なら可愛いと思いますね。あっでもライオネル殿下みたいな筋肉な人とかがしていたら気持ち悪いかもしれません。」

「ぶふー。」

 想像してしまったのだろう。ライオネル殿下ってめっちゃ筋肉の人になってるからなー、

「そうですよ、ラグ、うちの弟と殿下は一緒に訓練しているんですけど、殿下ってすぐに上着を脱いで筋肉の付き方を確認しながら訓練しているんです。あれはきっと脳みそが筋肉に浸食されてますよ。」

「や、やめて、想像したら、おなか痛い。」

 つぼにはいったのかローズさんは声をあげて笑いだした。ガハハハッと豪快に笑う男どもと違ってクスクスと実に可愛らしい笑い方だ。

「いやー、こんなに笑ったのは久しぶりだわ。そうなんだ、ライオネル殿下って学園では貴公子とか王子様って言われてるけど、脱いだらムキムキなのね。」

「そうです、ほんと私とかマリアンヌ様がいるのに脱ぎだすんですよ、あの人。」

「くく、それはだめね。男の子だからって身だしなみは気を付けないと。」

「そうなんですよ。」

 ちなみに後ろではベルカが腹筋に力を入れて力んでいるようだったけど、気にしない。

「ローズさんは農作業中でもきちんとお化粧をされていてすごいと思います。」

「ふふ、もう気づいているかと思うけど、ここは美容とか健康にいい植物を研究しているのよ。だから作業中もできる限り、身だしなみには気を付けているの。ほら、美しくなるための植物なんだから、作る人間も美しくあるべきだと思うのよ。」

「なるほど、すごいですね。」

「大変なのよ。汗とかは気合で、化粧が落ちないようにすることもそうだけど、植物の機嫌を損なうような化粧品や香水は使えないから気をつかっているわ。」

「ああ、たしかにバニラ系の香りがうっすらとあるだけですね。たしかに強い香りがあったら植物の香りとかもわからなくなりますよねー。」

「そうなのよ、アナタわかってるわー。」

 きゃーと可愛くはしゃぐローズさん。

「ああ、もううれしいわ。私の努力とかこだわりをここまでわかってくれる子ってなかなかいないのよ。それもミサちゃんみたいな子だってのは更にうれしいわ。」

「そんな、この温室もローズさんの恰好も素敵なのは事実ですし。」

 改めて温室を見れば、どれも育成が大変なものばかり。商業的な価値の高さも維持の難しさも見る人がみればわかる。

「ふふ、ここの価値が分かる人は結構いるわ。でもね、ミサちゃん、アナタとっても努力しているでしょ。」

「えっ。」

「私も自分を可愛く美しく見せたい努力をしてきたからわかるわ。ミサちゃんそれなりに力強いでしょ。」

「は、はい。」

 周囲からはゴリラとかクマとか言われてます。

「でも見た目にそれが出ていないわ。男の子なら筋肉がついちゃうし、女の子でもどうしても傷とか動きに癖がでちゃうの。でもミサちゃんって強くなることも見た目を磨くことも妥協してないわ。証拠はその髪。」

 ローズさんは言いながら近くの箱から小さな瓶を二つだしてテーブルにおいた。

「お近づきの印に、このオイルを上げるわ。湯上りに使うと髪に潤いがでるの。」

「そうなんですか!!」

 ベルカ、うるさい。

「ふふふ、アナタの分もあるからぜひ使って、試作品だから感想も聞かせてくれるとうれしいわ。」

 そういってローズさんは立ち上がりベルカにも瓶を手渡してくれた。

「女の子は髪が長いほうがいいみたいな流行りがあるけど、称えるべきはそれを維持している女の子の努力よね。」

「それをいったらローズさんもでしょ。」

「そうよ、だからこの髪を維持していることを尊敬するわ。」

 そしていつの間にか手に持っていた櫛で私の髪を好きながらローズさんはニコニコと話す。

 あれだ、マリアンヌ様もそうだけど、私の髪は人を引き付ける何かがあるのだろうか。そして、触ろうとする人間はだれもかれも美容に関してはうるさい。

「ふふふ、まるでシルクね。こんなに細いと朝とか大変そう。」

「いえいえ、お嬢様の髪はこれで何もしなくてもまっすぐにはなるんです。毎朝、この世の理不尽を感じています。」

「そうなの。いるのよねー、そういうずるい子って。」

 そしてベルカも一緒になって私の髪をいじりだす。いつの間にか温室は美容室になったようだ。

 なお、整った髪をみて、マリアンヌ様とラニーニャから自分もいじりたかったと文句を言われることになるが、私にはどうしようもなかった。


 ライナー・ジャネット ローズ・ジャネットと名乗る3年生。植物と美容を愛するオネエ系乙女男子。

この人との絡みはまだまだ続く

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