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乙女ゲームの正統派ヒロイン、いいえ武闘派ヒロインです。  作者: sirosugi
学園編

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30 ミサ 12歳  試験を受ける。

 まーた戦ってるよこのヒロイン

 学生の平均的な実力は理解しつつ、私はちょっとがっかりしていた。国を支える精鋭、そのトップであるSクラスと言ってもこの程度なのかと。

「姉さん、ソルベ基準で考えるものじゃないと思うよ。」

「そうです、それも私たちは別格ですよ。」

 ラグとファルちゃんも分かっているが不満そうだった。まあ、ラグは殿下から、ファルちゃんは家の社交性の高さから一般的な実力をある程度知っているからしょうがないと言えばしょうがない。

「つぎ、ミサ・ソルベ、前へ。」

「はい。」

 まあ教員の実力はそこそこありそうなので、試験自体は期待できる。

「あれって、完全に試験する側になってるよね。」

「それがまたお義姉さまといった感じですけど。」

 二人が何か言っていたけど、もう興味は目の前の教員にしかない。

 選んだ武器は用意された中で一番長いロングソード。私の体格には少々不釣り合いだけど取り扱いには問題ない。剣先を後ろに向け、両手で剣を構える。右からの横振りを前提とした予備動作に教員はわずかに顔をしかめるが剣を正眼に構えて待ちの構えをとる。

「・・・来なさい。」

 利き手とは反対側からくる攻撃というのは割と対処に困るもの。ただこんな見え見えの構えを取られてたなら、避けるなり、受けるなり対応は可能だ。

「いきます。」

 でもあえてそんなテレホンな横なぎを放つと決めていた。数歩の踏み込みで間合いを詰めて教員の胴体を狙って横なぎを放つ。

「ひゅっ。」

 予想以上の速さに驚きながらも教員はあえて下がって攻撃をすかさせる。まともに受けては体格差があっても危ないし、剣の間合い的にはそれが正解だ。

 避けられることは想定していたので、そのまま左肩の上まで剣の柄を上げ、次の踏み込みで教員の頭のアタリを狙って突きを放つ。

「なっ。」

 教員の顔が今度こそ驚きに変わった。そうだよね、私の体格でロングソードをこんな風に振り回せるなんて思わないよね。

「すばらしいな、これほどの実力とは。」

 顔の前で寸止めされた剣を前にこちらを賞賛してくれるのはうれしいけど、ちょっと物足りないな。

「文句のなしの満点です。いや、正直教えることがあるか心配になるよ。」

「初手の相手には通じますけど、次は対応されてしまいますよね。」

「ふふ、油断もないことで加点しておくよ。」

 不本意だけど。私の体格や性別は初見の相手にはとても有効なのだ。まあ少なくともこれで次の訓練からはもっと必死になって相手をしてくれるので満足しておこう。


「次、ファルベルト・ファムアット、前へ。」

 入れ替わるように試験に行くファルちゃんとハイタッチをして私は集団に戻る。魔法の試験はまだかかりそうなので、二人の雄姿も見学しておこう。

「ソルベに続いて、ファムアットか。悪いが油断はしないぞ。」

「失礼ながら、戦闘で油断をすることの方が間違っていると思いますわ。」

「違いない。」

 ああ、教員さんがちょっと本気モードだ、いいなファルちゃん。

「行きます。」

 ファルちゃんはいつもの双剣スタイルで地面を這うように教員に向かって突撃する。ファルちゃんの得意とするスタイルだけど体格差がある相手に対しては足を使って翻弄するのは戦術としては正しい。けど

「まずいわね。」

「えっ?」

 回り込んで背後を取って切りかかるファルちゃんだが、教員はしっかりと目で追って回し蹴りでファルちゃんの剣の片方を叩き落す。

「えっ。」

 驚きつつもファルちゃんは飛び込むようにすれ違ってゴロゴロと転がって距離をとる。

「背後をとれば、なんとでもなると思って油断していたのはそっちだな。」

 平然と言いながら教員は落ちた剣をファルちゃんの方へと転がす。続行ということだ。 

「不覚です。」

 悔しそうに剣を拾うファルちゃんだが、もう次の動きを考えて視線が動いている。

「やっぱり、剣だけじゃないか、あの人戦い慣れてるわね。手札が多い。」

「そうなの、足技で迎撃するのはおどろいたけど。」

「違うわ、あえて足技だったのよ。」 

 ファルちゃんと私たちが訓練で戦うときは基本的に剣は剣で迎撃することが多い。腕や足で打撃をすることは危ないし、剣の方が間合いが長いからだ。だからファルちゃんは片方の剣で牽制して、相手に剣を降らせることで出来る隙をもう片方の剣で攻撃するつもりだったのだろう。対して教員はそれを予想してあえて足で迎撃して手数を残していたのだ。よく見れば肘と膝など要所要所が金属で補強された防具を付けている。剣だけじゃなく全身を使った対人戦が得意な人なんだと今更ながら分かった。

「ファルちゃん、飲まれちゃったかも。」

 最初のやり取りから警戒してしまったのかファルちゃんもいつもの苛烈な攻め方が出来ていない。それでも一般的な兵士や学生なんかよりも断然いいんだけど、ともかく相性が悪い。

「すごいな、ファル、ほんと速い。」

 その動きはラグや他の生徒には素晴らしく映っただろう。だが木刀では致命的に威力が足らない。

「ここまで、充分に合格だ。」

「べ、勉強になりました。」

 5分ほどそんなやり取りが続いたあとで教員は、試験を終了した。さすがに二人とも息がかなり乱れている。うん、やっぱり相性って大事だ。

「そう落ち込むな。ファムアットの剣とは何度もやりあったことがあるから俺が有利だっただけだ。正直ここまで動けるやつは初めてだぞ。」

「ありがとうございます。」

 とぼとぼと戻ってくるファルちゃんの頭を私はなでなでとしながら励ました。

「相性が悪かったね。木刀じゃなければいい勝負になったと思うよ。」

「ぐすん。」

 ああ、落ち込んでる。この子、結構負けず嫌いだからな。

「次、ラグ・ソルベ。前へ。」

 そんな様子とは別に試験は進行し、ラグの番となる。私たちの戦いを見て色々考えていたようだけど、自分の番になったら軽く屈伸をしてリラックスしている。

「行ってくるよ。」

「ラグ、本気でやりなさいよ。ファルちゃんのために」

「だれのためでもなく本気だよ。」

 あらちょっとかっこいい。

 へらへらしているし、訓練も嫌がるけど。真面目なのよね、この子。


 ラグはいつも使っているものと同じ長さの木刀を持って前にでて、まずは教員に深々と頭を下げた。

「よろしくお願いします。」

「おお、丁寧だな。だからって手加減はしないぞ。恨むなら、後ろでニヤニヤしている姉ちゃんを裏め。」

 あら失礼してしまう。学生だからって油断した気持ちを正しただけですよ。

 そして、ラグは剣を左肩の上にまっすぐと上げて半身になる。珍しい、本気でやるつもりらしい。

「お義姉様、ラグ様のあの構えは?」

「うーん、ファルちゃん相手だと相性が悪すぎて使えないやつだから、見たことないかもね。」

 というか性格的にファルちゃんには使えないだけかもしれないけど。

「なんだ、それ。随分とキテレツだな。」

 教員は疑いながらも半身になって剣を前にだして構えた。半身になることで急所を隠しつつ、腕の関節を活かして素早い剣を動かす構えで剣術などの基本として修めている人もいる。

「ほんと手数が多い人だなー。」

 もう少し色々引き出してから試験を終わればよかったとちょっと後悔。

「お義姉さま、心配してないんですね、あの人けっこう強いですよ。」

「うーーん。」

 ファルちゃんはラグのことを心配そうに見ている。うん、許嫁だしファルちゃん的にラグって。

「行きます。」

 宣言とともにラグはすり足で素早く間合いに入って足に力を籠める。わずかにその身体が上下したとおもったら、教員の剣に向かって斜めに剣が振り下ろされる。

「なっ。」

 そこから振り下ろされる斬撃は教員の予想をうわ回る威力だったのだろう、剣で受けながらも身体が流される。ただその威力の代償にラグの身体も前のめりに下がってしまう。

「捨て身の一撃ですか。」

 ファルちゃんが驚いた声を上げる。それはそうだ。ラグの性格的に守りの剣が多い。だからこんな無防備な攻撃をすることは珍しい。

「すごい攻撃だけど、これじゃあなあ。」

 体勢を崩すほどの全身のバネを使った一撃は大抵は一撃できまる。ただ最初の一撃をしのがされると相手の前でしゃがみ込むような姿勢になって致命的な隙となる。ゆえにソルベの兵士たちでも絶対に決まるという状況でしか使わない。

 けど、

「しっ。」

 振り下ろされる剣に対して、ラグは伸びきった左手の手首の力だけで剣を切り返して剣を振る。

「うお。」

 上下の位置関係や体格差、なにより手首しか使えないはずの関係なのにその一撃は教員の剣をはじき返した。とんでもない手先の器用さと筋力の強さである。これは完全にラグの才能だ。

「これは、驚いた。合格だ。」

 飛ばされた剣を見ながら教員が合格をだした。笑っているがその顔はひきつっている。うん、あれ受けると手が痺れるんだよねー。

「す、すごい。」

「真似しない方がいいよ。あれ普通に手首がおかしくなるから。」

 ラグ独自の捨て身の斬撃と手首を使った返し。マジになるとそこからさらに攻撃を繋げられるけど、流石に学園の試験でするほど無茶はしないだろう。

 ちなみにこの攻撃、私もできるけど、やるとしばらく手首が痛くて使い物にならないので父様から禁止されている。

「勝ったよ。」

「バカ言わないの、合格しただけよ。武器を飛ばしたところで満足してる時点でソルベとしては失格よ。」

「ちえ。」

 やや誇らしげに帰ってきたラグをそう批判しておく。別に武器がなくなった程度であの教員が勝負を諦めるはずがない。あくまで試験だからあそこで終わったのだ。きっちりとどめまでもっていかないあたり、ラグもまだまだだ。

「でも、学園でも強くなることができそうね。」

 成長してきたファルちゃんにラグに対して余裕があった教員に、その人達に鍛えられているであろう先輩たち。ライオネル殿下ほどじゃないけど。

 自然とあがる期待と口角。我ながらどうしようない性格だなと思う。


ヒロインなのに、あきらかに戦闘特化した思考になってしまう。なぜだ。

区切りなので次回はEX回

ミサはどれほどのフラグをブレイクしていたのか?

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