29 ミサ 12歳 一般学生の実力を知る。
学園もののテンプレ
学園は基本的に実力主義。身分や出自、男女差で特別扱いをされたり不当に差別されることはない。厳しい入学試験を超えて国の未来を支えるために選抜された人材であるで将来が期待されている証拠なのである。まあポムやあの学生のように足りない部分があれば鍛えることも織り込み済みらしいけど。
ただ平民と貴族では育ってきた環境が違う。例えば私やファルちゃん、ラグなんかは幼いこらから徹底した教育を受けてきたのに対して、平民は読み書きなどを最低限教える公立の施設や私塾などに通い自力で勉強する必要がある。親の意識や財力も実力のうちということだ。
逆に言えば、恵まれているのに学園の入学試験を突破できない子息は無能扱いされる。入学のときに提出された身上書や推薦書などは厳密に審査され、万が一にも不正があった場合は国から罰則が与えられる。
そんなこんなで学園の1学年は次のようにクラス分けが行われる。
Sクラス 上位20人が所属
A 21ー50位 30人
BCD 総合的な成績が均等になるように40人ずつで組まれたクラス 120人 一般
E 留年性や課題のある生徒が所属 30人-40人程度
見事なまでの実力による階層主義である。成績が高くなればより高い教育を受けられるし、怠け者や成績が振るわない者はどこまでも落ちていくらしい。
「姉さん、おはよう。」
「おはよう、ラグ。わかっていても同じクラスに慣れて安心したわ。」
自慢ではないけれど、私、ラグ、ファルちゃんは上位20人が所属するSクラスだ。
「お義姉様は頭一つ抜けてますからねー。」
ちなみに、私は入学主席だ。学業に合わせて実技と色んな所からの推薦分が加味されているので実態は異なるのかもしれないけと、主席は主席だ。
「その主席が入学式に遅刻しそうになってんだからしょうがないよね。」
「事前に通知された時間ぴったりというのがお義姉様らしいですけど。」
そういっているラグはギリギリSクラス入りしたと言っていたけど、単純に推薦点の差だと思う。クスクスと笑っているファルちゃんが2位。まあそんなことより、親しい3人と一緒なことがありがたい。
「ふふふ、ラグ様とお義姉様とこうして過ごせるなんて、夢のようですわ。」
「ファルちゃん、私もそう思う。これからがすっごく楽しみだよね。」
生活の場所こそ違うけどラグがいるのは安心だし、ファルちゃんと毎日会えるのはうれしい。マリアンヌ様も、あと一応ライオネル殿下もいる。
「失礼、少し静かにしていただけませんか?」
とわいわいしていたら、横合いから声をかけられた。どうやら思った以上に騒ぎすぎていたらしい。
「あっごめん。」
軽く謝って頭は下げずに席に座りなおす。
「ふん、ソルベの山猿に、ファムアットの黒焦げが。」
ああ、今なんて言った?
ぼそりと私たちの蔑称をつぶやいたのは、やや派手な女性徒だった。フリルとアクセサリーで改造された制服に、モリモリに盛られた髪ときつそうな視線。自信にあふれているようで虚勢を張っているような女生徒はたしか。
「メイカ・ラス。王城勤めの貴族さんの長女ですわ。入学の成績はたしか3位だったはずです。」
こっそりとファルちゃんが教えてくれた。なるほどあの妙にセンスのない恰好は王城関係者なのか、ライオネル殿下といい、陛下といいもうちょっとどうにかしてくれないものかしら。
「ライ兄さんの話だと、どこまで盛っていくか陛下が面白がって止めてないらしいよ。」
なるほど、最近の社交界の謎の盛りブームはそういう裏があったのか。だが、それを学園にまでもちこんでくるあたり、メイカさんは勘違いをしている?それとも社交界での無理な恰好で普段の生活をしているという余裕アピールというやつだろうか。
「あなた、恐れ多くもライオネル殿下をそのように呼ぶのはどうなんですか、身の程をわきまえなさい。」
「そうよ、ラグ、その呼び名は公共の場では控えなさい。」
いろいろとメンドクサイことになるから。
「あっそうだったね、姉さん。昨日は久しぶりに殿下と話し込んだのでつい。」
自然と煽るな煽るな。メイカさんが面白い顔になっているじゃない。
「くっ、調子にのって。今に見てなさい。化けの皮なんてすぐにはがれるんだから。」
ああ、怒らせちゃった。私、しらーない。
空気が緊張するかと思っていたけど、すぐに教師が来て私たちは訓練場へと案内された。入学二日目、今日は改めて個々人の能力が測定され、今後の学業プランを立てるのだ。
でなぜ外なのかと言えば、Sクラスの特権である。
「では、魔法と実技の実地試験を行う。それぞれを希望するほうへ並んでください。両方を希望される場合は最初は実技の方から。」
時間のかかる実技試験はSクラスから行われ、午後に向けて手の空いた教員が残りの生徒たちの試験を行うことになる。要するに、実力のある試験管は最初の方にしかいないのだ。
なので、私とファルちゃんは当然とばかりに実技の列へと並ぶ。
「えっ、あの子たちも受けるのか。」
「おいあれって、あれだろ、ソルベとファムアットの。」
「まじかよ、あんなに可愛いのに、戦いもいけるのか。」
何やらひそひそと言っているけど、気にしない。
ちなみにだが、20人のうち、実技希望者は10人、そのうちのほとんどは私たち同様に魔法も希望している人たちだけど。
「では、メイカ・ラス。好きな的を狙ってみなさい。」
並んで待っていると先に魔法の実技が始まった。10メートルから始まり50メートルまで距離と大きさがバラバラな的がいくつかある。魔法の試験はその中から任意の的を狙って倒せばよく、魔法の種類は問われない。
「子どもの遊びですね、動かない的を狙って意味があるのでしょうか?」
「ファルちゃん、的は動きを止めるものだよ。」
私たちからすると温い試験ともいえるし、面白そうではあった。
「焔よ、踊り、舞いあがれ。」
そんなことを言っている間に、メイカが魔法を発動させる。両手を前にだして、イメージと手中のための文言をブツブツとい言いながら手から炎が生み出され、それは蛇のように伸び、50センチほどになったところでメイカの手から飛び出し10メートルの的に当たる。
「続けていきますわ。」
そういって次々と的を当てて30メートルほどの小さな的に当てたところで、荒い息をしながらメイカは魔法の発動を止めた。
「なかなか筋がいいな。見事な性質変化だ。」
教員も手放しで賞賛していることをみるとメイカの成績はそこそこらしい。
「どう思いますか?」
「あれは、時間がかかわるわねー。」
メイカが当てた的を教員たちが交換しながら評価を伝えている。なるほど実技が先なのはそういう理由もあるのだろう。まあ、見ててもあまり面白くないなー。
「では、実技を始める、最初はファス・スタート。おまえだな。」
と思っていたら実技の方もはじまり、最初に並んでいた男子生徒と試験役の教員と対峙していた。
「行きます。」
片手剣と盾を使ったオーソドックスなスタイルの男子生徒は、盾を前にしながら教員に向かって走り込む。相手の一撃を盾で防いでからのカウンターを狙うわりとよく聞くスタイルだけど。ちょっぴり及び腰だ。あれではどっちつかずだ。
「あまい、攻めるか守るかはっきりしなさい。」
私の予想通りその甘さを突かれて盾ごと弾かれる。いやこの場合、教員の実力もなかなかだ。
「もう一回だ。」
「はい。」
指摘をしたうえで、もう一度攻めかかる男子生徒だが、今度は思い切りがよい。タイミングとしては理想的だ。だけど。
「なかなかいいぞ。」
そもそもの筋力が足りておらず体格のいい教員に正面から受け止められて、そのままいなされてしまう。体格差が明らかなのに正面から攻めようとしたことがそもそも悪手なのだ。
「基本はできている。だが、相手との実力差を考えて攻め方を変えなさい。」
「はい。」
さすがにSクラスの学生なので、そういった教員の指摘を理解しすぐに実践しようとする意気込みと考える力がある。まあ将来に期待ってことだろう。
その後、数手ほどやりあったあとで、最初の学生の試験は終了となり、学生は倒れこむように隅っこで休み始めた。うん、スタミナにも課題だね。
あとは似たり寄ったりだ。
「ソルベの新兵には負けるかなー。」
なるほど学生の実力はこんなものなんだと私は感心しながら、私は自分の番を待つことにした。




