28 ミサ 12歳で テンプレな貴族と出会う。
プロローグ的な何か。
マリアンヌ様とのお茶会という名のお説教も終わるころ、まだ明るい空の下を私はのんびりと学内を散策していた。
「お嬢様、どこに殴り込みに行くんですか?予め伝えていただけると覚悟ができるのですが。」
「ベルカ、アナタの中で私ってどういう蛮族になっているのかしら、一度徹底して話す必要があるわね。」
相変わらず淡々とこちらをからかうベルカと困ったように笑っているラニーニャ。することも思いつかなかった私が散策をすると言ったら二人もなぜかついてきた。いろいろと仕事があるのではないだろうかと思うけど。
「お任せください、お嬢様のゲストハウスは私たちの部屋も含めて準備は万端です。」
「夕ご飯もーあとは温めればOKでーす。」
無駄に優秀なんだよねこの二人。要するに女3人で暇つぶし中というわけだ。
「それにしても人が少ないわね。」
当てもなく校舎の近くを歩いているがほとんど人すれ違わない。
「在校生のほとんどは明後日から学業が始まるそうです。また明日に行われる各寮で行われる歓迎会の準備でほとんどの生徒は寮にいるそうですよー。」
なるほど、長期休暇中なので人がいないということか。おそらくは新入生も今日は寮でおとなしく過ごしたり、家族と過ごしたりしているというわけだ。
「つまり、こんな時間に散歩をしているお嬢様は暇人ということです。私お嬢様がボッチにならないか心配ですわ。」
疑問に答えてくれる優秀な部下なことで。というかあれだね、この状況で私がどこかでうろうろしないように監視するつもりでついてきたな、君たち。
「さすがに、好き好んでトラブルを起こすつもりはないわよ。」
と思っていた時期が私にもありました。
それは、当てもなくうろつき、そろそろ寮へと戻ろうかと思っていたときだった。
「貴様、平民とはいえ、無礼だぞ。」
「え、ええっと。すみません。」
「なんだ、そのへらへらした態度は、俺をだれだと思っている。」
ゲストハウスへの帰り道、男子寮と女子寮の境界あたりで二人の学生が言い争っている場面に遭遇してしまったのだ。
「お嬢様、」
「わかってる、関る気はないわ。」
偉そうに鼻を鳴らしながら声を荒げる学生と、困ったようにへらへらしている学生。いかにも貴族と平民といったやりとりだ。明らかにメンドクサイ気配にわざわざ首を突っ込む気などない。
「お、これはこれはミサ様ではありませんか。」
しかもメンドクサイことに前者は、顔見知りなのだ。
「あら、コリンズさん。ごきげんよう。」
「またまた、どうぞ私のことは家名ではなく、ポムと名前でお呼びください、これからはお暗示学び屋で過ごすわけなんですから。」
こちらを見るやドタドタと近寄ってきた男は、ポム・コリンズ。男爵家の嫡子で、父親は王城勤務のエリートで、社交界には親子で毎回出席してたのでいやでも覚えた。猫背気味のややぽっちゃりした体型は、彼が武芸はおろか運動もほとんどしていないことが分かる。なにより、ぴっちりと整髪剤で頭にくっついた髪のせいで丸々とした感じが正直豚っぽい。
「いやはや、ちょっとばかし礼儀のなっていない平民に、しつけをしようと思っていましてね。」
こちらをねっとりと見ながら聞いてもいないのに事情を説明してくる。なんというかこれで人から交換を持ってもらえるのか本気で思っているのか心配になってしまう。いや、心配というよりも控えめに
「気持ち悪い。」
「えっ。」
あっ思ったことが口に出てしまった。うん、この際だからはっきり言ってしまおう。
「コリンズさん、その髪型が似合っていないと思いますわ。王城の流行りとおっしゃっていましたが、アナタの癖のある髪はもっと自然にした方が似合っていると思いますわ。」
「あっそうですか。」
整髪剤でぴっちりと固めた髪は正直、ポムの体系と姿勢からすると似合っていない。この際鍛えていないでややぽっちゃりした体型についてはなにも言わないけど。それを強調するような着こなしもひどい。
「上着のサイズもあっていません。もう少しゆったりとした服を着て背筋を伸ばして歩かれたほうがいいです。無理にサイズが小さい服を着ているのでそんな姿勢なのでは?」
「うぐ。」
自身の体格を認めれず、小さいサイズを着る。そのために服がずれないように猫背気味な姿勢になっている。そんな姿勢だから運動も苦手になる。
「ラグ、弟もそうですが、男の子はこれから背も身体も大きくなるそうですから、その姿勢は治された方がいいですわ。あとは歩き方だと思うのですが、内股気味ですわ、もう少し運動をされたほうがいいと思います。」
「ひぐ。」
「そのリアクションも気持ち悪いです。先ほどのように通る声をなさっているのですから、歌の練習をされて喉も鍛えられたほうがよろしいかと。」
「うっはい。」
「そうです、その調子です。」
言われても動かない、あるいは誤魔化すだけの人間はいるが、ポムだって貴族なのである。女子からの指摘を受け止めるぐらいの度量は持ってほしいものだ。
「ところで、そこの学生はどうして、ここにいるんですか、こちらは女子寮のエリアだと思うのですが。」
「へっ。」
私の勢いに圧倒されているポムにへらへらとみていた学生を私は睨む。
あれ、よく見れば朝の迷子では、こいつのせいで面倒になったのよね。
「ああ、女子寮エリアに向かってふらふらと歩いているのを呼び止めたんですが、道に迷ったとへらへらとしていたので、声を荒げてしまいました。」
「なるほど。また迷われたんですか。」
言い方と態度はともかく、ポムのやっていることは学園のルールを知っているものならば間違いではない。むしろ悪いのはこの学生だ。
「今朝も思いましたけど、事前に道なり地図をきちんと確認することをお勧めします。少なくとも入学式の会場への案内も、寮の場所も案内がきちんとあります。」
そういって指さす先には、「男子の立ち入りを禁ずる」という看板もあれば地図もあった。
「あれ、あははは。」
「笑ってごまかすことでは、ありませんよ。このまま警備員に引き渡してもいいんですよ。」
「すっすいません。」
へらへらしてんんじゃねえぞ、おらと視線を送れば学生はすぐに居住まいを正して頭を下げる。
「この学園は身分よりも実力が重視されるそうですが、注意を怠ったり、礼儀を守らなかったりする人はすぐに追い出されますからね。」
「はい、以後気を付けます。」
半泣きで返事をする学生に、私の興味はもう失せた。
「それでは、ポムさん、あとは任せてもよろしいでしょうか?」
「ああ、ありがとうございます。ミサさん、いろいろと勉強になった。」
なぜかポムもピンと背筋を伸ばし制服がいろいろとだらしくないことになっているが、あえてはいわない。
「それではごきげんよう。」
そういって私は下品ならない程度の早足でその場を後にした。
今更だけど、めっちゃ喧嘩売ったうえに、上から目線であれこれ言ったことが恥ずかしくなったわけではない。
「さすが、お嬢様。入学初日からしっかりと締めていきましたね。」
「ちーがーうー。」
とりあえず、マリアンヌ様に怒られないようにいい感じに報告する言葉を考えながら私はゲストハウスへと戻ったのだった。
平民に傲慢なふるまいをする貴族を成敗、なんてしない。
学園生活のテンプレのことごとくをへし折っていくスタイルのミサちゃんとその仲間たち。




