27 ミサ12歳 怒られる
マリアンヌ様とお茶会1
入学式はつつがなく終わり、生徒たちはそれぞれの寮へと向かい家族と最終確認をして明日以降の学業への英気を養う。学園初日の午後はそうやって穏やかなもの。
「ああ、もうこの子ったら、どうしてこうトラブルばかり。」
「いひゃい、いひゃいです、ごめんにゃひゃい。」
そんな穏やかなはずの午後、頬っぺたをぐにぐにといじられながら、私はマリアンヌ様にものすごく怒られていた。
「入学初日なのにあんなバタバタと、少しは淑女らしくできないのですか。」
「ありゃわ、ふかきょうりょくです。」
つつがなくというのはうそでした。というか遅れそうという理由で私を抱えたまま会場までダッシュをしたベルカの所為なんだけど、ちょっとばかし派手な登場となり、在校生として臨席していたマリアンヌ様に今、こうして怒られているわけだ。
「マリアンヌ様、もっと言ってやってください、お嬢様はもっと反省すべきです。」
てめえ、ベルカこの野郎。そもそもの原因はあなたじゃないの。
「汚い言葉を使うのは、この口ですかー。」
「いみゃのは口に出してない。」
「顔に出てますわよ。」
グニグニ、心で思った罵倒すら読み取られてマリアンヌ様にさらにグニグニされた。
しばし時間グニグニされたところで私は解放され、マリアンヌ様と向かいあってお茶をしていた。場所は、学園内のマリアンヌ様のゲストハウス。入学式の午後、いろいろと忙しい私立の両親が来れないことを気にしてわざわざ招待してくれていたのだ。けしてお説教のためではない。
「ファルの方は、家族でお食事でしたっけ?」
「はい、リンゴ様と奥様が王都まで来ているようです。」
そちらにも誘われていたけれど、そうなるとラグも連れていかないといけないので、ちょっと面倒だったので断った。主にリンゴ様関係で。
「なにかと難しい時期なんですね。ラグ君とファルは。」
「ははは、そんな感じです。」
いろいろと察してくれたマリアンヌ様もすごい。そして、調度の整ったこのゲストハウスもすごい。
学園の生徒たちは基本的に男女別の寮生活をしている。家から通うのが難しいことや集団生活の中で社会性を身に着けることなど様々な要因があるが、学業の時間を確保するためにはこうでもしないとまずいらしい。
平民や希望者が過ごす一般寮。貴族や上流階級が過ごす貴族寮。そして一部の特級階級の女性が暮らすゲストハウスがある。私やファルちゃん、マリアンヌ様、あと数名が暮らすゲストハウスの集まったエリアは警備も厳重で、身内であるラグや婚約者であるライオネル殿下ですら簡単にははいれない。
これは子どもを産む女性を大切にする国の流儀に由来している。基本的に男女の寮のエリアは別々であり、プライベートな時間での交流は禁止されている。寮の質も女性寮の方が高い。
「そうはいっても、学園内には逢引きやらナンパやらが多いので、ミサも気をつけなさいね。」
「はい、お姉さま。」
学園のことを説明しながらマリアンヌ様はそう注意されたけれど。私の両親が出会ったのって、この学園なんですよねー。
「学園での出会いをきっかえに婚約をしたなんて話も多いです。でもだからこそ、そういうことで無駄に夢を見ている不逞な輩がいることもあるんですから。」
「ははは。」
ちょっとだけ憧れがあったんだけど。現実は世知辛いらしい。
学園ラブロマンスは、そんなにうまくいかないらしい。




