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乙女ゲームの正統派ヒロイン、いいえ武闘派ヒロインです。  作者: sirosugi
11歳

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22 ミサ 11歳 ガチンコする。

なんか3回に一回ぐらいのペースで暴れてます。

 一週間の旅はスムーズに終わった。道中で魔物やら山賊に襲われることもなければ誰かが体調を崩すなんてこともなく、私たちがファムアット家の領城にまでたどり着くことができた。

「ほえーこれがファムアット城か。」

 場所から降りた私の前にあったのはソルベとは趣の異なる奇抜な城だった。海辺のがけにそって建てられた無数の柱と吹き抜けになった床の高い木族の建物だった。ただあるべきはずの城壁や壁がなく、布のようなカーテンや簾のようなものが風に揺れていた。

(お城というよりは、絵本にあった神殿みたいな建物だ。)

「ふふふ、私もソルベの城を見たときはとても驚きました。ただ、海辺の城としては理にかなっているんですよ。」

 その威容に圧倒されていた私たちを見てクスクス笑いながらファルちゃんが解説してくれた。

「嵐や高波などにさらされやすいこの地では、家や建物が流されないようにあえて壁を作らずにあのような作りになっているんです、また潮風で建材が傷みやすいので、木材を使って定期的にメンテナンスを行っているんです。」

 なるほど、海水や風の影響がある変わりに、このような建築様式でも大丈夫なくらい温暖な気候なのか。

「ささ、行きましょう、おそらくは広間でおじい様たちが待っていると思いますから。」

 そういってファルちゃんに促されて私たちはファムアット城へと足を踏みいれた。

「お嬢、お行儀よくするんだぞ。」

 ちなみに職務に不真面目なファムアットの護衛達は場所の近くで勝手にくつろいでついてくる様子はなかった。


 木造と聞いていたが床は固いし、布や色付けでファムアット城の中が華やかだった。それらに目を奪われながら案内されたのは城の中央の広間だった。ソルベの城と違いここの城は吹き抜けの天井になっていて、日差しがほどほどにはいって薄暗い。

「よくきたな、小僧ども。」

 ファムアットの主にして、ファルちゃんのおじいちゃん、ボルグ・ファムアットはこの不思議な城の主にふさわしい巨体の持ち主だった。10メートルも離れているはずなのにびりびりと響く大声に、モリモリの筋肉、なぜか肌かな上半身は傷だらけでその存在感がおかしい。

「あれ、グラークより大きいよね。」

「姉さん、失礼。」

 そっとラグに聞くが緊張しているのか窘める声がいつもよりうわずっていた。まあ、将来のおじい様との初対面なのだから緊張してもしょうがないけど、もう少ししゃんとしてほしい。

「お初にお目にかかります。ボルグ・ファムアット様。ベガ・ソルベが娘にして、ソルベが長女、ミサ・ソルベです。海坊主と評されるその威容を拝見できて光栄です。」

 ボルグ様の雰囲気に圧倒されているほかの面々を置いておき、私は数歩踏み出して挨拶をする。

「かか、、海坊主か、ソルベの若造め、わしのことを娘になんと教えているのやら。」

「武勇に溢れるかたと、百の兵士にもひるまず、相対すれば万の兵士が逃げ出す強い人だと父は行ってました。」

 ちなみに私は無手ですが、殿下とラグ、ファルちゃんと護衛の二人は帯刀している。常在戦場というわけじゃなく、自分の身が自分ので守るという礼儀的な意味だ。

「ふふ、では、これは聞いているかな?」

 私の言葉と態度に対してボルグ様はニヤッと笑って立ち上がる。座っていた椅子の横にはボルグ様と同様に大きく無骨な剣が刺さっていた。それをつかみ、ボルグ様が目つきをするどくする。

「ファムアット式の歓迎よ。」

 いや、知らないけど。

 だから私の動きは反射的なものだ。あからさまな戦意に充てられてとっさにボルグ様に向かって駆ける。だからこっちへ向かっていたもう一人の奇襲をあっさりと回避できた。

「へっ。」

 その人は一瞬間の抜けた声を出したけど、私は追わずに殿下たちへと走っていく。まあ、ラグがいるから大丈夫でしょう。

 せっかくの機会ですし、本気でぶつかっていこう。

 ボルグ様の間合いに入りそうなタイミングで、魔法を起動して、氷の足場を作って攻撃圏をなぞるように駆け上がる。

「ほう。」

 感心するボルグ様だが、そんなことは関係ないので、ある程度登ったところで氷の剣を作って飛び込むように振り下ろす。

 かん高い音とともに私の剣とボルグさまのふるった剣がぶつかる。渾身の力をこめたつもり、それも打ち上げに対して打ち下ろしという優位を持っても純粋な力で押し負けるのが分かった。なら逆らわければいい。ヒビが入る剣を躊躇なく手放し、衝撃の勢いを利用してさらに高く飛んで手近な柱を足場にしてさらにとぶ。

「ほほ、元気なもんじゃ。」

 楽し気に剣をおろすボルグ様はあくまで受けの姿勢らしい。なら。

「もっと速く。」

 イメージするのは、私の知る限りで最強の槍。私の手のサイズに合わせた柄でありなが不釣り合いな穂先をもった馬上槍。右腕でそれを構えて身体をひねって全身のバネを利用して真下へと突き出し、手を放す。的が大きいからその程度で

「おおっと。」

 ボルト様は必殺の投擲を弾かず上体を前に倒すようにしてかわす。そのまま伸びた腕で剣をふるってこちらの着地を払おうとする。うわ、安全な着地場所がない。なので消費するのを覚悟で無理やり足場を作てなんとかその攻撃の範囲から逃れる。

「やるのう、お嬢ちゃん、ソルベの坊主の動きの良さもあるが、ローズの嬢ちゃんの柔軟さもある。なかなか優秀だ。」

 ゆらりと体を起こすボルグさまは、その場から一歩も動いていない。巨体なのにとんでもない柔軟性と筋力だ。不意打ち気味に詰められた距離をもう一度詰めるのはかなり難しい。

「もう終わりかな。」

「まさか。」

 余裕しゃくしゃくなボルグ様の挑発に私は満面の笑みを浮かべて答える。こんな機会を逃すわけがない。私はここに来て改めて手合わせの礼をする。

 ふりをして両手の指の間に薄いナイフを作って投擲する。

「ほほ、悪ガキじゃの。」

 ボルグ様は大剣を盾にしてそれらを防いでしまうがそんなものは想定の範囲回るように手元を隠しながら次々にナイフを作っては投擲を繰り返す。ソルベの兵士長が面白がって教えてくれた鳥の獣を打ち落とす連続投げはどこまで通じるか。

「甘い、甘い。」

 数を増やした分雑になったナイフの群れをボルグ様は今度は剣を振って打ち砕いていく。あの大きな剣であれだけ軽快な動きができるとか化け物だ。でも

 複数投げたナイフに紛れて仕込まれた曲射、上かあら落ちるような攻撃と回り込むように背後に回ったナイフ。鳥かごのごとく投げたナイフの群れ。我ながら会心の業だ。

「みごと。」

 しかし、ボルグ様は気合一つでそれらを弾いてしまう。おそらくは魔法で風をまとって全方位攻撃を弾いてしまったのだ。だが、隙はできた。

「今度は、もっと強く。」

 倒れこむように駆け込みながら後ろでに長い棒を生み出す。イメージするのは寡黙ながら勤勉な巨漢の兵士長。その大槌。私の身長よりも長い棒の先端には私よりも大きな氷の塊。走る勢いと腕の振り、足りない筋力は魔力を流した身体強化で補う。文字通りの全身全霊、あとが辛いからあまりやりたくない渾身の横降りだ。

「おおっと。」

 だが、そんな一撃もボルグ様は真っ向から受けてとめた。それも一番力のこもった大槌の先端にジャストタイミングで剣を合わせてきた。何この人化け物なの?しかたない。

 私は大槌を手放し、再び剣をもつ。ちなみに私が作った武器は私の手を離れると硬度が極端にさがる。なので大槌はボルグ様の一撃で粉々に砕ける。なら、それも利用する。

「ここまで、わしの負けじゃ。」

 飛び込んでと思ったらボルグ様は剣を床に突き刺して戦いをやめてしまった。

「一歩も動くつもりはなかったが、今の一撃はさすがに肝が冷えた。」

 言われて気づいたが、ボルグ様の足元がずれている。先ほどの大槌の一撃を受けるために踏み込みを必要としたということだろうか。

「歓迎ありがとうございます。」

 正直、腕が限界に近かったので助かったというのは内緒だ。

「それにな、あっちも終わっとるぞ。」

 ほれと指をさすボルグ様に従って背後を振り返れば、先ほどにすれ違った人がラグとファルちゃんと殿下の3人かかりで押さえつけられていた。

「しまった、夢中になって忘れてた。」

「ははは、戦いに夢中になるとはまだ未熟だな。」

 違います、これは信用というやつなんです。


 ちょっと前。(ラグ視点)

 ボルグ様のことは、父様から聞いていたけど、話に聞いていた以上の迫力に正直僕は足がすくんでしまった。いやほかの人も似たような感じだったから、堂々と挨拶ができる姉さんがすごいんだと思うことにしよう。

「ファムアット式の歓迎よ。」

 ボルグ様のその言葉に僕が反応できたのは、父様からこのことを聞いていたからだ。海賊や海魔と戦い国を守っているファムアットはソルベと並ぶ食らう尚武、つまりノウキンなのだ。だから、あいさつ代わりに腕試しをする。ファルとのこともあるから予想はしていたけど、当主自ら腕試しをしようとするとか正気なのかこの人達。

 ほら、ボルグ様じゃなくてほかの人が姉さんにとびかかっている。さすがに子ども相手に本気に、

「って、こっちきったあああ。」

 悲鳴を上げながら剣を鞘事外して、姉さんからこちらにターゲットを変えて突っ込んでくる相手の前に構える。

「ラグ、やるぞ。」

 さすがライ兄さん。そこまで気を配る余裕はなかったけど、いつのまにか抜刀して構えていてくれている。これならなんとななるかもしれない。

「しっ。」

 薄く息を吐く音で相手は、両手に持った剣をふるうが僕とライ兄さんはそれぞれに迎撃して弾く。大人でも二人がかりで抑え込めばなんとかなるかもしれない。いや、姉さんは4人かかりでも押し返すことあるけど。

「この。」

 僕自身は姉さんやライ兄さんと比べると平凡だ。相性の関係でファルとはいい勝負ができているけど剣以外はからっきしだ。だけど日々鍛えられるから相手の力量とか自分のすべきことはわかる。

「おらーー。」

 気合を込めて剣をふるう。鞘ごしなので万が一やりすぎても大事にはならないだろう。

 かんという音を立てて相手の剣を弾く、つもりだったけど押し返されて動きが止まってしまう。

「隙あり。」

 その隙をラグ兄が切り込むけど、もう片方の剣で抑えられてしまう。すごいこの人、めっちゃ強い。

「ふふ、この程度か。」

 渾身の力を込めているの相手は余裕がありそうだった。ちょっと気に入らない。完全に子ども扱いなのがむかつく。そう思ったら身体が動いていた。

 躊躇なく剣を手放し、相手の手をすかさせて腰にタックルを仕掛ける。ライ兄さんも抑えていた状態での奇襲となったので相手はバランスを崩す。 

「ファル、いまだ。」

 本来なら頼るのは微妙な相手、でもこの状況で一番信頼できると思った相手の名前を僕は叫んだ。

「おまかせを。」

 そして、僕の期待に彼女は応えてくれた。素早く剣をふるって相手の剣を遠くに弾き、ファルも相手を抑えかかる。

「ラグ、ファル、よくやった。」

 機を逃さずライ兄も相手を剣を投げ捨てて抑え込む。

 後になって、相手が武器を隠し持っていた可能性を指摘されて姉さんにお説教と特訓をされたけど、我ながらがんばったほうじゃないかな?

 そんなことより、姉さん、見る余裕なかったけどボルグさまとやりあえてなかった?

 


武闘派ヒロインの面目躍如

ラグはファルちゃんのことを「ファル」ライオネル殿下を「ライ兄」と呼んでます。ただ姉の前だとからかわれるので、自重している。

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