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乙女ゲームの正統派ヒロイン、いいえ武闘派ヒロインです。  作者: sirosugi
11歳

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27/195

21 ミサ 11歳  馬車に乗る。

旅行ナウ

 街道をゆく大きな2頭立ての馬車が2台と4頭の馬と1頭の大牛。小規模ながら威圧感バリバリな集団はそれなりに順調に街道を進んでいた。

「風が気持ちいですねー。」

 窓から入る風を感じながら私はまったりと馬車の居心地を楽しんでいた。

「ふふ、すっかり緩み切ってますね、一応は警戒なさいな。」

 対面に座るマリアンヌ様も窘めることこそあれリラックスされていた。ファルちゃんに至っては私に寄りかかって眠っている。

 母様の後押しもあり私たちはすぐに出立することになった。陛下とラグ、私たち女性陣をそれぞれに乗せた馬車の御者が二人。ソルベからついてきた護衛が二人に、殿下の護衛の騎士が二人。11人の集団はまったりとそれでいて無駄なく道のりを進んでいた。ファムアット領地までは一週間という長旅になるが、憂いはほとんどない。

「3都を繋いだ3角街道に入ってしまえば魔物の襲撃は心配する必要はないですよ。マリアンヌ様。それに父様から頼もしい人たちをお借りしていますから。」

「そうなの、ソルベの兵は強いと聞きますけど、詳しく聞いても?」

 そういってマリアンヌ様は私たちの横で馬を駆る兵士の姿を見る。

 馬にも負けない立派な体格をもった壮年の兵士は立派なひげを風に揺らしながら地につきそうなほど長い槍を片手でかなえながらこちらに会釈しながら周囲の警戒を怠っていない。

 ソルベの兵士長の1人、ベンジャミン。槍と馬術の名手で騎馬戦では領内でも随一と言われている。

「ベンジャミン、たしか十年前ぐらいに王都の馬上大会で優勝した御仁もそのような名前でしたわ。」

「ああ、そうです、ベンジャミンは昔、王都の大会を荒らしまわって出禁になったことがあるそうです。」

「それは頼もしいですわね。」

 わりとショッキングな内容でもマリアンヌ様の余裕は崩れない。私ですらベンジャミンの話を聞いたときはドン引きしたのに、すごいわ。

「で、もう一人は、グラーク。領内でも一番の怪力の兵士ですわ。」

 集団の戦闘を歩く大牛。通常の馬の倍ほどに大きな牛に乗るのは巨人とも思わせる大男で大きな大槌を背負ってむっつりとした顔で前方を睨みつけている。

 王家の人間が移動するのに護衛がこの程度でいいのかという話もあったが、殿下も護衛を二人しか連れていなかったし、何より大勢でワイワイと動くのははしたないということになった。まあ、あれだけ厳つい二人に明らかに立派な装備をした護衛、何より高貴な人間が乗っているであろう立派な馬車である時点で、不埒ものは現れないだろう。仮に魔物や考えの浅い不埒ものが現れても。

「魔法が仕える人間がこれだけいるんですもの、無謀としか言えませんわ。」

 ふふふと笑うマリアンヌ様。うん、何かあってもこの人は自分でなんとかされるんだろうな。

「しかし、マリアンヌ様はかっこいいし、きれいでうらやましいです。」

 正直な言葉に、マリアンヌ様は肩をすくめた。

「そんなことを言って、ミサもファルもとてもおきれいだと思いますわ。何より健康的で実践的な動きができることは尊敬しますわ。」

 そういってもらうとうれしい限りだ。

「ところで、ミサ、3角街道についてはどのくらいご存じ?」

「本で学んだことはありますが、通るの初めてなんです。」

「そうなの、なら、ファルが起きたら街道についてお話しましょうね。」

 マリアンヌ様はとても楽しそうだ。私としてもこんな風に話しできるのはとても楽しかった。


 一方そのころ。

「まったくマリアンヌ様の提案には毎回驚かされる。すまなかったな、ラグ。」

 キャーキャーと姦しいもう一つの馬車を見ながらライオネルは、対面でリラックスしているラグに問いかける。

「話としては面白いと思いました。こういうきっかけでもなければ僕も姉さんもソルベからでることはなかったでしょうし。ファル、ファルベルト嬢と過ごす時間もとれますから。」

「別にファルでいいぞ。仲が良いようでいいじゃないか。」

 やや照れた様子のラグに、ライオネルは機嫌を良くした。同世代でもっとも努力している男だと思うし、化け物な姉を持っているのにまっすぐなラグの気性をライオネルはとても気に入っている。家の関係がなければ本気で自分の近衛なり王都の要職に招きたいと思っていたし、弟のように気にかけていた。

「それをいうなら、マリアンヌ様とライ兄さんも仲が良いようですね、話には聞いてましたけど、ほんとにきれいで、女性らしい人ですね。」

「そうだろう、あの化け物(ミサ・ソルベ)と比べるとすごく女性らしいし気が利くんだ。」

「あれと比べたら世の女性の多くが女性らしいと思いますよ。」

 はははと笑い合いながらお互いにここでの会話は絶対に漏らさないと決める。得てして男同士の会話というのはそういうものだ。

「しかし、今回はミサに挑めなかったのが悔やまれる。というかラグよ、あいつは今どうなんだ?」

 この人は変わらないなーとラグは思う。

 ラグ自身は姉に叶うとは思っていない。剣の訓練だけならばついていけるが総合的な模擬戦だったり、知識的なものだったりするものは勝てないと自覚されるほどの日々を過ごしている。だが、ライオネルは毎度毎度、ミサに負けながらも次々に手を考えて挑んでいる。それこそラグや護衛と複数対ミサという構図なんてものもためらいもなくする。そしてラグから逐一、ミサの強さや成長を報告されているのだ。ある種の執着めいたものを感じるが、ライオネルは負けた事実をどうにか覆そうとしているだけというのもこれまでの付き合いで納得してしまう。

「ライ兄さん、言いずらいのですが。」

 自分には無いものを持っているライオネルを兄のように慕っているのだ。だからこそ。

「クマはご存じですか。」

「ああ、ソルベの山にいる大型の獣だろ。王城に毛皮が献上されたこともある。雑食なうえに狂暴でオオカミや下手な魔物よりも危険だという。」

「はい。」

「それがどうした?」

「先日、姉さんは、そのクマを倒しました。」

「はっ?」

「それも素手で、向かってくるクマの腕をつかんでこう、放り投げるように。」

「・・・ラグよ。」

 話しながらラグも、聞きながらライオネルも背筋を冷たくしながら、もう一つの馬車をみた。

「あいつは人間なのか?」

「時々、僕もうたがっています。」

 いつかとか、そういうのが遠のいてくことに、男二人はため息をつくのであった。



 馬車を走らせながら、彼女は納得できない気持ちであった。

「マリアンヌ様、楽しそうですね。」

 己が主人が年相応に話の花を咲かせていることは彼女にとっても喜ばしいことだった。だが、仮にも公爵家の長女であるマリアンヌの供回りがあまりに少ないこと、女性に至っては自分しかいないことに不満と不安をもっていたのだ。

 マリアンヌは公爵家の人間として一連の礼儀や身の回りのことなど当たり前にできる。だが高貴なる身分の人間が出歩くにはあまりにつたないのではないだろうか?

「ほほ、お若いのそんなに心配されなされるな。」

 そんなことを考えていたら場所の横を進んでいた兵士が彼女に話しかけてきた。

「魔物がでる領域はもう抜けた。ここら辺は人の匂いがあるからもう魔物はでないし、下手な盗賊なぞ存在もゆるされておらんよ。」

 視線を向けると壮年の兵士はにやにやと楽しそうに彼女を見ていた。

「ソルベもそうだが、4家の人間というのは変わり者ばかりでな。騒がしいのを好まない御仁が多いのよ。クラウンの王なんてしょっちゅうお忍びをしているぞ。」

「王、陛下のことですか?」

「そうじゃよ、まあ基本的に自分のことは自分でやる人間ばかりじゃ、わしらはわしらの仕事をしとけばいいのよ。そうだった、わしはベンジャミンで、あっちはグラーク、しがない兵士だが見た目は厳ついからな頼りにしてくれ。」

「ご冗談を。」

 彼女は分かっていた。マリアンヌのお世話と警護も兼ねる彼女もそれなりに腕には覚えがある。

 だからこそ、目の前のベンジャミンも戦闘を行くグラークという巨漢が並々ならぬ実力があることなど見抜いていた。

「レベッカと言います、この機会に勉強させていただきます。」

「お堅いのう。」

 かかかろ笑いながら、ベンジャミンは楽しい旅になりそうだと期待を膨らませるのであった。

 


女性陣、男性陣、護衛陣、それぞれに思うことはあるのです。

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