83 不穏な秋 ミサ 達人っぽい人と戦う。
たぶんこれで100本目?
なんだかんだ読んでくれる人がいらっしゃるおかげでここまで来れました。(感謝)
襲撃の主犯の1人と思われる男はくくくと笑いながら何か紐のようなものを取り出して振り回す。
「私たちの仕事の流儀でしてね、ターゲットを狙う前に適当なコマで実力を図る。噂や依頼主からの情報も大事ですが、やはり自分の目で確認しないといけないですから。」
余計な情報を口にして私の注意を引くつもりなのかもしれないけど、他に気配はない。
「大丈夫ですよ、ミス・ソルベ。噂にたがわぬ高い実力のあなたに下手な不意うちを仕掛けても無駄だといのはわかりましたから。」
ひゅんひゅん目障りな音を立てながら男は続ける。
「私たち、これでもちょっと名の通った集団でしてね。敬意を払うべきターゲットを相手にするときはこうして1対1で仕事をするようにしているんです。」
「ふーん。」
言いながら剣を構えて出方をまつ。
「ふふふ、いいですねーそうやって少しでも私から情報を得ようとしている。あるいはお付きのお嬢さんが援軍にくることを期待されているのですか、残念、あちらにも手配済みです。時間は私の味方です。」
そうやって焦れて私が突っ込んだところに仕掛けがあるとでもいうのだろうか?
「まあ、いいか。」
油断ならない相手とわかっていればそれでいい。
剣を横に向けてすぐに振れるように構えて駆け出す。時間にして数秒も満たない時間、だけど男がにんまりと笑ったのが見えて私は警戒心をマックスにする。
「そら。」
回されていた紐の先端が私に向かってヘビように飛んでくる。先端に何か固そうなものがあるのが見えるがなかなかの速さに驚きつつも、上半身を捻ってかわす。
「ふふふ。」
あっなるほど。
男の余裕の笑みに何かを感じ取るものがあり私はすぐさま剣を後ろにふるう。
カン。硬い音と痺れるような手ごたえとともに打ち落としたのは、ぐにゃりと曲がって私背後に迫っていた紐の先端だった。どうやったかわからないけどアレだけの勢いで投げたものが曲線を描いて背後を取っていたことは、かなりの技だ。
「お見事。」
ひゅんと紐を手元に戻しながら男はニタリと笑う。
「初見でこの一撃を無傷でしのぐとは本気で驚きました。いかがですか、私の技は?」
再びひゅんひゅんと回したと思ったら、今度は顔面に向かって飛んでくる。今度は避けずに弾くが、弾かれた後で分銅のついた先端が再度襲い掛かってくる。まるで蛇のような動きに今度は転がってその場から離れる。
「ふふふ、我が技のキレはいかがですか、秘伝とされしこの技の軌道は無限、避けても弾いても無駄。アナタはなすすべもなく、絡めとられるんですよ。」
「よくしゃべるのね。」
「ははは、こうでもしないと、自分がどのような相手に負けたかわからないでしょ。せめてもの慈悲というやつですよ。」
言いながらまた紐が男の手元に戻る。それほど連撃はできないのか、それともなめているのか。微妙なところだけど。
だったら近づかなければいい。
お試しで氷のナイフを作って投げようとするけれで、あれ。
「ははは、どうしました。先ほどのように飛び道具を使いたいのでは?」
いつもなら息をするように作れる氷が、作れない。なんというかあるべきものがそこにないような不思議な違和感。
「どうですか、これは魔封じと言われる特殊な薬でしてね、魔素の感知を阻害する成分が周囲に広がるんです。ご安心を効果は10分ほどです。ただその間はまとに魔法を使うことはできませんからお気を付けて。」
とか言っている傍からまた紐が飛んでくる。なるほど、魔法が使えないとなると私は遠距離での攻撃手段が極端に減ってしまう。対して男の武器は変幻自在なうえに、一撃が重い。しかも夜なので紐が見にくいので紐を狙うのも難しい。
と思っているのだろう。
「では、行きますよー。」
楽し気に投げられる紐、回転によって加速させた勢いのまま自由自在に射出される分銅は当たれば致命傷だ。避けても軌道を変えてくるなら。
できることは、分銅を弾くか、紐をきるか、つかむ。
「なんてことするわけないでしょ。」
飛んできた分銅を私はあさっりとつかむ。
「なるほど、丈夫な紐に鉄の塊か。なかなか興味深いわね。」
「ば、ばかな、なぜ。」
「だって、手袋して操ってる紐を素手でつかみたくないじゃない。」
「そうじゃない、なぜだ、分銅の先端は音よりも速い。それをかわすならともかく、つかむだと、そんなことが。」
こんなのソルベの関係者どころか、がんばれば殿下だってできるわよ。
難易度的に紐を切ったりつかんだほうが安定しそうではある。だけど、あからさまに手袋をして操っている男の余裕ぷりからそれは選ばなかった。
「見え見えなのよねー、こんなお遊戯で必勝だったのかしら?」
「お遊戯?」
こんな状況になってもなんのアクションを起こさない時点で、それすらも想定していない素人だ。
力いっぱい分銅を引っ張れば面白いように男は体制を崩して紐が手から離れる。
「チェックメイト。」
動揺している間に接近して剣の柄を顔面にたたきつければ、鼻血を出して男は倒れる。
「自分の技が破られたときの対応ぐらい考えておきなさいよ。」
言いながら男に触れて意識を集中させれば男の服が凍り付いていく。
なるほど、魔法が完全に使えないわけじゃないらしい。時間はかかるから実戦ではつかえないけど、拘束するぐらいには使える。
調整がうまくできずに氷漬けにしてしまったけど、うんたぶん生きてるわね。
うーんと伸びをして身体をほぐしているうちに、不快な感覚は失せて調子は戻っていた。
ドーン。ひときわ大きな地鳴りがし、私はそちらに向かって歩いていく。するとゲストハウスの反対側には数人の死体と、右足以外が潰された男がぜーぜーと息をはいていた。
「あれー、おじょうさまーもうおわちゃいましたー。」
「けがは?」
「ちょっとだけ、この人ー毒付きのナイフとこん棒を使うからーこん棒だけ受けて叩き潰したんです。」
のほほんと言いながらラニーニャには男を蹴飛ばす。
「がっなぜここに、チュウのやつは?」
「私を狙った男なら、氷漬けにしたわよ。」
「馬鹿な、魔封じはきちんと機能したはず。」
私の姿に驚く男をとりあえず凍らせて止血と拘束をしながら私はラニーニャを見る。
「はーい、身体強化がきれてびっくりしましたー。」
「なんだか物騒なものがあるのねー。」
襲撃者たちの勘違いは、私たちが女だから、魔法便りの戦闘をしていると思ったことだろう。だから魔封じとかいう方法で魔法を使えなくすれば、勝てる。そんな油断が見えていた。
「魔法なんて、鍛えた身体には及ばないものなのにねー。」
「魔法縛りの訓練とかは、常識ですよねー。」
魔法は便利で、それに依存した戦い方をする人もいる。
けれどソルベではそんな甘いことはせず、魔法なしでも戦えるように鍛えているし備えてもいる。
「なんとも中途半端な人達よねー。」
「ううん、でもー、5本指の1人とか言ってましたからー、あと3人はいると思いますよ。」
なるほど、あと3人か。
むしろ2人も送られたなら本命は私なのか、それとも・・・。
「とりあえず、これとあっちのを城まで運ぶわよ。」
「りょーかいです。もう応援を読んでもいいですよねー。」
「いいわよ。」
さあ、不届きものたちをぼこぼこにしてあげよう。
戦闘集中するとしゃべってくれないミサさんの代わりに敵さんがいっぱいしゃべってくれました。
次回
黒づくめA「くくくヤツは我らの中でも最弱。」
黒づくめB「我らの面汚しよ。」
黒づくめC 「俺、この仕事が終わったら、この仕事やめるんだー。」




