12 マール姉様が来たー 前
王城での優雅な一幕
一番で最高で最強で最愛なのはレグナ様ですが、努力する姿は誰であっても素晴らしいと思うし、応援したくなるものですと思う、フェイラルド・テスタロッサです、ごきげんよう。
本日もレグナ様は、またまた王城へと招待されています。名目はスバル様が主催するお茶会のパートナーとして、本音は王太子様の独占欲と愛情によるお披露目ですわ。
「アルファロ卿、お久しぶりです。先日の街道整備でのご尽力は父も賞賛しておりました。」
「殿下、これはご丁寧に。フェルグラント嬢も相変わらずお美しい。お二人が並ばれると、先掘る花畑のようですな。そんな縁を繋ぐ役目をいただき、我ら一同、一層励ませていただきます。」
「ええ、今後ともよろしくお願します。ギアード先輩。」
「ああ、任せてくれれ、スバル、レグナ。学園で会えるのを楽しみしている。」
今日のお茶会に招待されたのは、大森林の周辺を治める貴族家とその関係者の子息、子女様たち。今年で12歳となる殿下が学園と年の近い子供たちが招待され、次代を担う人材として交流をされいます。今年から王立学園へと通うことになる殿下の御学友候補となる可能性が高い人達との交流は大事です。
ギアード・アルファロ様は、お隣のアルファロ家の次男様で、13歳、学園では一つ上の先輩となる御人であり、殿下とは昔から交流のある人であります。口調のところどころに親しみを含ませる茶目っ気のある御人ですが、それを許されるぐらいには、殿下たちからの信用のあるお家とお人でございます。
「フェルグラント嬢も今年から入学と聞いていますが、流石ですね。」
「アルファロ卿からのお言葉、大変光栄ですわ。」
「まあ、アナタなら問題はないと思うけれど、何か困ったことがあればいつでも相談してくれ。」
そう、王太子様の大変強い希望でレグナ様は1年ほど早く学園へ進学することが決まっています。そもそもの話として、スバル殿下もレグナ様も王族教育のおかげで学園へ通う必要などないいほど、高い教養をお持ちです。しかし、学園生活を知らぬまま大人になるのは世間体的にも心情的にもアレらしく、慣例的に3年間は学生として自由に過ごされるのが伝統らしいです。子どもらしく同世代の人間と交流する機会は大事だとのことですわ。
「では、今度は学園で。」
そんな風に和やかにかつ礼儀を弁えた対応をしたギアード様は、模範的な貴族様であります。お若いのにしっかりとされた人であります。
「テスタロッサ嬢、今日も美しい花と出会えたことに神に感謝を、またお会いできることを楽しみしています。」
本来はスルーすべき侍女にまで挨拶をするのは気を回しすぎですので、満-5点ですわ。
しかしながら、ギアード様は優秀な手合いです。
「スバル殿下、フェルグラント嬢。本日はお招きいただきありがとうございます。」
「ああ、ワーグナーの。今日は遠路はるばる大儀だったな。」
ギアード様がそっと離れたタイミングで、ずかずかと現れた青年。彼は採点以前の問題ですわね。
「ええ、ワーグナー一同、殿下と王家への忠誠は他家に負けないと自負しています。」
自信満々にそんなことを言う、青年は17歳。アル兄様と同じ年で、この茶会への参加も微妙なラインなお年頃ですが、中身はお子様ですわ。
「そ、そうか、今後も励むと言い。」
「ええ、わが身、我が家は王家、殿下のために骨身を惜しまず努める所存です。」
聞いてもないのにペラペラと。
そもそも、このような場では、ホストから挨拶をされるまでは控えて待つのがマナーです。子ども同士の気楽な会といっても貴族の集まりである以上、そこには序列が存在します。しかも今回は王太子殿下主催のお茶会であり、王太子殿下から挨拶をいただくのは大変名誉なことであり、その順番や時間は貴族の力関係に影響することもあります。
そのため、身分や年齢、人間関係など考慮して角が立たないように挨拶の順番や時間を考えるのはホストは準備しているのに、この青年は自分がそれを邪魔していることに気づいてすらいません。
「ワーグナー卿、ぜひとも今日の会を楽しんでくれ。」
「はい。ありがとうございます。」
ペラペラといった話を聞き流す殿下の目が冷めたものになっていたことに青年は最後まで気づいていませんでした。うん、先日の件もあって、ワーグナー家の未来はつらいものになるでしょうね。
その後はつつがなくお茶会は終わり、何人かの有益な交流と、今後の地雷が見つかりましたので、お茶会は成功と言って問題はないでしょう。
「疲れた。」
「そうだな、レグナ、助かった、ありがとう。」
すべてのゲストがお帰りになり、応接室にたどり着くと流石のお二人もお疲れの様子でした。
「お二人ともお疲れ様です。本日の予定は以上ですのでゆっくりとお休みください。」
それはもう、思わず私まで労いの言葉を掛けたくなるほど。お茶の一つでもと思いますが、お茶会の直後なのでお腹は一杯でしょうし、私たち臣下にできることはお二人が安心して休めるようにそっとしておくことでしょう。殿下の護衛の人達もいつもより距離を置いて微笑ましく見守っています。
もちろん、警戒は怠りませんわ。応接室はもちろん、そこにつながる廊下には見張りが立ち、用のない人間は近づかせまん。王族なれば、応接室で休まれる場合も警備は非常に厳重なのです。
それを超えて、ここにたどり着くのはよほどの実力者か、権力者であります。そうであってももちろん先ぶれがあるものですが。
「フェイ―――。」
「ひゃあ!」
その人は、何の予兆もなく現れ、背後から私をぎゅっと抱きしめました。
「あははは、驚いてる、かわいいー。」
そのまま絶妙な力加減で身体をまさぐられれ力が抜けます。不意打ちだったのもそうですが、殺気とか害意がないのもあって振り払う力が湧いてきません。王城で、このような蛮行ができるのは?
「マール姉様?」
私の声に振り返ったレグナ様が目を丸くして、侵入者の名前を呼びます。なるほど、この人ならこれくらい成し遂げるでしょう。
「ふふふ、お姉ちゃんだぞー。」
私を抱きしめたまま、侵入者こと、マール姉様は、にっこり笑ってブイサインをしました。これで20歳で3歳になるお子様がいるんですよねー、この人。
「あれ、フェイ、もう抵抗は辞めちゃうの?」
「マール様、今は公務中です。お控えください。」
「ぶー、スバル様は将来の弟なんだよ。家族の前で取り繕ってどうするのよ。それとマールお姉ちゃんだからね。」
「マール様!」
声だけは固く、抵抗をしないのは、本気で暴れてじゃれ合いになった場合の被害を考えてのことです。
「マルーラ夫人、王城に来ていたのか、知っていたらこちらから挨拶をさせていただいたのに。」
「いえいえ、スバル様。先ほど登城させていただいのです。陛下に御挨拶させていただいたら、こちらにいらっしゃると聞いたので。」
「なるほど、このような振る舞いですまない。今日は。」
「ああ、知ってますわ。本日のお茶会の噂はもう王城内で広まっています。大変お疲れ様でした。」
丁寧にやり取りをするマール姉様とスバル様。突然の出来事に動じないのは素敵ですが、姉様が私を抱きしめていることに関してツッコミをいれてくださると更に素敵ですわよ、殿下。
(いや、それを指摘すると、今度はレグナが巻き込まれるだろ。)
あとでそう言い訳していましたわ。まったくもって優秀でございますわ。
マルーラ・フェルグランド。いえ、嫁がれましたので、今はマル―ラ・ノートン伯爵夫人。彼女はレグナ様のお姉様にして、フェルグラント家の長女様でもあられます。
奥様譲りの輝く金髪と容姿、何より高い魔法の才を受け継がれたマルーラ様。
「じーーー。」
マール姉様は家柄や才覚、なによりその美貌によって多くの縁談の話がありましたが、そのすべてを蹴り、学園での大恋愛の末にノートン伯爵令息と結婚、ノートン伯爵家に嫁入りされました。もう4年以上前のことになりますわ。
「あれは嫌な事件でしたわねー。」
「ええ、フェイだってノリノリだったじゃん。」
「それはそうですわ、マール姉様の幸せのためなら、骨身を惜しみません。」
何があったかはいずれ機会があればお話させていただくとして、マール姉様もフェルグラント家の人間です。その実力は、警備の隙間を縫って侵入し、私や影にも悟られずに近づけた時点で説明不要でしょう。
スバル様は王太子殿下、レグナ様はその婚約者ですから、目に見えるだけでなく多くの護衛が影や日向に潜んでいます。それを潜り抜けられるのは、親方様とマール姉様ぐらいですわ。
いつものことで、害もないからスルーしたとかないですよね?
「まあまあ、久しぶりの家族の再会なんだから、難しい事は言わないの。」
「マール姉様、そろそろフェイをはなしてあげて。」
「ええ、やだ。」
貴族でなくても、嫁入り、婿入りは実家と疎遠になるもの。めったに帰ってこれないマール姉様ですが、お役目の関係上、王城に出向くことが多く、タイミングが合えば、レグナ様やフェルグラント家の人達とこうしてお会いしています。(ええ、毎回不意打ちで私かレグナ様が抱きしめられます。)
あっ、アル兄様とはそうでもないらしいです。弟よりも妹の方が可愛いとのことです。
「まったく、フェルグラント家の人間には驚かされてばかりだ。」
そんな様子を見ながらスバル様は微笑み、レグナ様の手を取りました。
「レグナがどうしてこんなにも素敵なのかが、よくわかる。良い家族だといつも思うよ。」
「スバル様。」
「僕たちも、負けないくらい素敵な家族になろう。」
くっ、さらっと口説き始めましたわね。本気な上に私が邪魔できないタイミングを狙う狡猾さ、これだから優秀な王太子は困ります。
「まーまー、今日はちゃんと用事もあってきたんだからさー。フェイも座って座って。」
「はあ、それならば。」
諦めて私は誘導に従ってソファーに座ります。
「さて、スバル様、レグナ、そしてフェイ。今日はノートン家としてお願いがあってきました。」
途端に伯爵夫人の顔になるマール姉様。結婚と出産によって成長したその威厳は、奥様を彷彿とさせる大変立派なものでした。
お姉ちゃんもなんだかんだ、溺愛しています
2日に一度の更新と思っていたのですが、他作品との関わりも含めて少々ペースが落ちてます。気長にお付き合いいただけると幸いです。




