第106話「おまつり本番」
「やすいよやすいよー! はい! いろいろ手に抱えて持ってる、そこの奥さん! このトートバックなら、奥さんの荷物、ほーら、ぜんぶはいっちゃう! いまならこっちの、野菜の皮むきピーラーもつけて、しめて、銅貨六枚でどうよ! ――ええ!? 買った!? はい即決ありがとうございました! じゃあサービスで、レジ袋三十枚セットも付けちゃおう! もってけドロボー!!」
翔子が叩き売りをやっている。
ハリセンでばしばしとテーブルを叩いて、景気のいい感じで、大きな声で演出する。
しかしうまいな。あいつ。こーゆーの。
売っているのは、Cマートの売れ残り商品――げふんげふん、あまり普段は動きのない商品であるが、おまつりの高揚感と、翔子の話術とで、飛ぶように売れてゆく。
フランクもヤキソバも大人気だった。
行き交う人々が、物珍しそうに立ち寄る。そしてたちこめるいい匂いに引きつけられて、あれもこれもと、買ってゆく。
なにもかもが、飛ぶように売れていた。
「フランクフルトいかがですかー。おいしいですよー。肉味ですよー。――ああもう、エルフさん、売り物に手を出しちゃだめです、めっ!!」
バカエルフが「めっ」とやられている。
そういや燃費の超悪いやつが、まだ夕飯を口にしていなかった。餓死されてもかなわない。あいつはメシ一回抜いたぐらいで、マジで餓死しかける。
「おいエルフ。おま。後ろで食ってろ。フランク一〇本までなら許す」
「肉ーっ!!」
「あー、いいなーっ」
それを見て、中坊傭兵団のアホリーダーが声を上げる。
「あたしもタコヤキ食べたーい」
「一人ずつ抜けて、好きなもん食ってろ。全員でいっぺんに抜けるなよ。一人ずつだぞ」
「はーい、最初誰いくー? じゃあ、いちばん寒いダジャレ言った人からねー。どんどんぱふぱふ~♪ じゃ、あたしからー!! つまんないダジャレを言うのは、ダレジャ!!」
普通、そーゆーのは、じゃんけんで決めるのでは?
GJ部中等部とかいう連中のノリはわからん。
皆がそれぞれの持ち場で頑張るなか、俺も頑張っていた。
額に汗して働くというのは、けっこうキモチがいい。
俺の担当は綿菓子売り場。
綿菓子の機械は、専用のものを特別に持ってきている。
綿菓子を作るには、ちょいとばかりコツがいる。ザラメを投入したら、しゅるしゅると吐き出されてくる綿を、割りバシですばやく巻き取らねばならない。
「ふむ……。これが綿菓子というものか。なるほどたしかに、フワフワだな」
汗まみれの額を持ちあげると、キングのやつの顔があった。
「やーい! こいつー! 女連れでやんのー!」
俺はそう囃したてた。
中学生集団のなかから、およそ二名ほど。「ヒューヒュー! おあついねえ!」だの、「おまえら付き合ってんかー!」だの、ノリのいいかけ声が追随する。
アホなリーダー娘と、アホなオスガキの二名である。
「約定だからな。綿菓子、というものを貰おうか」
しかしキングはぜんぜんつまらねえ。否定のひとつでもしろっつーの。
隣のカノジョ――。クゥアルなんちゃらちゃんは、くすくすと笑っている。
「二つだ」
「あいよ」
俺は特別に特大の綿菓子を、二つ、作ってやった。
自分の頭よりも大きな綿菓子を受け取ったキング族の二人は、はじめ、目を丸くしていたが、やがて、ぱくりとかじりついて――。
「甘い」
「すごく甘いわ」
いつも顰めっ面のキングの顔にも、このときばかりは、笑顔が浮かんだ。
キングが笑っていることに、街の人たちも驚いた顔している。だがそれもすぐに笑顔にとってかわった。
カーニバルの夜は、まだはじまったばかり。
◇
宴もたけなわ。
出店にやってくるお客さんも、だいぶ落ち着いてきた。
「おっしー、手の空いてるやつは、あっちのほうをはじめるぞー!」
「はーい! 着付け着付けー! こもりん! おねがーい!」
中学生女子が率先して出てゆく。
いまやっているのは、あっちの世界風の〝おまつり〟なわけだ。
ヤキソバ、フランク、綿菓子などの出店は、単なる前座にすぎない。
〝おまつり〟の本命は――。
「あんたらも行ってきな。ここはオバちゃんたちにまかせなって!」
「え? いやしかし……?」
オバちゃんを筆頭に、ご近所の人たちが、ずらりと顔を並べていた。
「これまで楽しませてもらったからねー。みんな、手伝ってくれるってさ。こんどは、あんたらが楽しむ番だよ!」
オバちゃんたちと出店を交代して、俺たちも準備に回った。
女子たちはハッピ姿から、浴衣姿へと変身する。
腰にふんわりと帯をまとい、色とりどりの花みたいに咲き誇る。
男子のほうも、浴衣は浴衣だが――。女子と違って、こちらはあまりぱっとしない。
俺たちはその格好で広場に歩き出していった。
カーニバルは終わりかけ。だが人はまだ残っていて、ゆくあてのない熱気もまだ残留している。
そこに俺たちは出ていった。
翔子のやつが、ばちを持ってやぐらに駆け登る。
そして太鼓を叩きはじめる。
ポニテを振って、白いショートパンツならぬパッチを穿いて、さらにハッピも諸肌脱いで、鯔背なカッコで太鼓を叩く。
どん、どん、どーん、かかっか、どどん、どどーん。
おなじみ〝盆踊り〟のリズムである。
俺たちは輪を作って、やぐらのまわりを踊りはじめた。
右に左に、手と顔を振りつつ、行ったり戻ったり、一歩をゆっくりと刻んで、独得のステップを刻む。
音楽はない。だから自分らで歌う。太鼓のリズムをベースにして、歌いながら踊る。
曲目は、定番中の定番。花笠音頭。でも歌詞なんてよく知らないから、「めでため~で~た~の~」のあとは、もう「ららら~」とかやってゴマかしている。
街の人たちは、はじめ、ぽかーんとした顔で見ていたが――。
曲の一番が終わって二番が終わって、三番に差しかかった頃には、一人、また一人と、円のなかに入ってきた。
俺たちが作っていた一重の円は、二重になり、三重になり、何重にもなって、広場中に咲き誇る幾重もの輪となった。
見れば、キングとそのカノジョも踊ってら。
うん。
やっぱ、おまつりの最後は、これで締めないとなー。
カーニバルの夜は、そうして、更けていった。
おまつり連作。終了でーす。
Cマートはまたしばらく休止予定です。(4ヶ月くらい?)
この11月中には、ニコニコ静画のほうで、コミカライズがスタートしますので、ぜひ、そちらもどうぞ!




