第13試合目 7
命にこちらへと呼ばれた奏からどちらの料理を選ぶかと訊ねられた。
「僕と次の人で2票決まってしまうか、それとも3人全員が決めることになるか一番手は責任重大だ……」
どちらかの料理を選ばなければならない審査員達も大変だろうけど、それでも……と審査を受ける側の高美と香理にとってもドキドキものである。
「僕は香理ちゃんの料理を選びます。選んだ理由を独特の表現で言うのは何なのですが、あれをショーケースに入れて麻婆豆腐と騙して食べてもらう。それで驚く人のリアクションが見れるかもしれない。そういう遊び心が刺激されるところが決め手でした」
まず香理の料理が選ばれた。もちろん高美も香理も次はどうなる? と清に視線を向けている。どちらかといえば結果次第で敗北してしまう高美の方が祈るような気持ちっぽく見えた。
「僕としてはあまり手を止めずに食べきって、何だか安心した高美君の料理を支持するよ」
これで審査員の評価が1人ずつわかれた。結果がまだ確定しなかったのでおのずと出演者、観客席の大勢も番参審査委員長に注目する。
審査委員長は注目している人が多いというのにマイペースだ。どの点を最終審査の決め手になったのかと考えているかのような仕草をしていた。
「え~……番参様はお決まりでしょうか? 決まっていたら理由も教えて欲しいのですが」
審査委員長が長考しそうだったので、命は出来れば早くといった感じに間を持たせる。
「ふむっ。甲乙つけがたい対戦になったものだ。どうするか……よしっ、決めたぞ」
空気から審査してもらいたいタイミングを読んだ番参審査委員長が、高美または香理どちらかを選ぶことに――
「最後の審査前に高美君にお礼をさせてもらおうか。香理君に軽いアクシデントがあった時、適切な行動を取ってくれて助かったよ」
「私も子どもの頃、そういう時期がありましたから」
選んだかと思ったらまだだった。今度こそ両者のどちらかが選択されるだろう。
「わしも高美君の料理にしたいと思う。メインおかずの強い味わいとサブおかずの厚揚げをかみしめている間に出る味がマッチしておる。さり気なく見た目も美しくしているみそ汁も
高評価だ。何でかイメージとして恋人に食べさせたい、旦那に食べさせたい、家族で食べたいかもと思い浮かんだが」
多分審査委員長の脳裏に浮かんだのは『家庭の食卓』だと思われる。食べてくれる人のために ――高美の料理の方が微妙に勝っていたのかもしれない。
「お聞き頂いた通り、本日は高美さんの判定勝ちとなりました。素晴らしい対戦を見せてくれた彼女達に盛大なねぎらいを」
料理のアレンジ対決という訳でなかなかの好カードになった13試合目。観客達から「良い一戦だった」「お2人の別料理を見る日が楽しみです」といった言葉や、拍手などによって好意的に見られていた。
「私の料理に食べさせてあげたいという気持ちが香理ちゃんの料理より少しでも強くこもっていたのね。母親から学んできた伝統の味を出せたのかしら」
高美は『おふくろの味』を研究したり、何度も作ろうとしたりして近づこうと努力している。それが実を結んだといえるだろうか。




