第12試合目 6
明確にここが勝ちに値するという点を自分では感じ取れなかった有音。それでも勝ちは勝ちだと喜ぶ事にする。
「テーマに沿って食べたい物を作ったのが功を奏したのかもしれないな~」
勝った理由を探っている有音にこういう着眼点もあると番参審査委員長が話す事にした。
「まずはウインナーの食感が1つじゃなかった楽しさについて言おうか。パリっとしていたり、プリっとしていたり食べ進める面白さがあった。それと今回は狙ったりしていないと思うが、バター風味を食べたい気持ちを読まれた!? と驚いたよ。食べるものの欲求に気付けたのだとしたら相当なレベルにある。さすがにそこまでのレベルじゃないと思うので精進して欲しい」
出演者の誰もが五十歩百歩状態になっている。どこか秀でている部分を磨くとか、斬新な発想に特化するとかこれからの出演者達の持ち味がどうなっていくだろうか。興味がつきない。
「久しぶりに食べる時間を意識したおかず作りを見ました。その時に食べたい味ってある時はありますよね~。これからも出演者達の料理を楽しみにしましょう」
番組が締めくくられた。
~~勝負後の2人~~
有音は勝った嬉しさを味わっていながらも、微妙にもやもやした感じを残していた。それに気付いた込流が話しかける。
「ワシも自信のある料理を作ったんじゃ。それでも負けた。君が今回誇るべき点は審査委員長を言っていたようにウインナーの焼き方で食感を変えた点。このおかずが他のものも食べる気にさせる魅力のようなものがあるのも事実じゃからな」
食感が影響したのかと有音は納得した。
「パリっとした部分を食べたらキャベツのホット卵サラダが食べたくなる。プリッとした部分を食べたらキノコの汁物を飲みたくなる。みんなもこれを感じ取ったのかなあ」
あまり作り方を知っている人がいない調理方法と食べた時の噛み心地も影響したのかも!?
「疲れていたからか、焼き鳥に変わり種を用意するところまで頭が回らなかったのう。それは失敗だな」
敗北の分析をしている込流の手を取って、有音が握ってから語る。
「いつの日か、お互いの最高を決めるくらいの料理対決をしたいですね」
料理が好きになって向上心が強まり続けている有音に込流が応じた。
「わしとしても自慢の品を作って誰にも負けない料理を目指しているタイ。負けんぞ」
~~帰り道にて~~
勝ったのにどこかスッキリしていないように見えた有音を真奈が心配している。
「こういう時は勝ちを素直に喜べれば問題ないんだけど……悩むのは有音ちゃんの料理レベルが上がっているからとも取れるか」
「感嘆したくなる料理を作る事もあるけど、たまに面白い調理方法で作るから自信を持ちきれないのかも」
その奏の意見に風良も賛成した。
「一般的じゃない方法は目に引くね。今のところ、大きな長所が短所にもなっているのか」
待っていてくれた調理研究部のみんなと合流した有音。評価をしてもらった際の微妙な表情が、次の目標に向かうという感じの瞳が目立つ感じに変わっている。なので真奈も安心した。
「表情が明るくなったわね」
「はい! 込流さんと話して私の料理の良い点を再確認しました」
さっき話していたこういう見方もあるというのを教える奏達。
「ありがとう、奏。ありがとうございます、風良先輩。調理方法が一般的じゃない方法は極めて自分のものにすれば自信もつくよね!?」
真奈先輩も含めて3人とも相槌を打った。




