第10試合の前に―― みんなで作ろう 2
その彼ら、有音に気づいて目を合わすと近くまでやって来て彼女を気遣う。
「包味さん……礼儀とはいえどうもしっくり来ないな~。有音さんって呼んでいいですか?」
「うん、構わないわよ」
別に有音の事を子どもっぽいと思っている訳ではない。彼女のフレンドリーで面倒見の良い基本的な性格で心を開いているからであろう。有音はいろんな人に名前で呼ばれる機会も
多いし、年下だって関係なく最低限の礼儀さえあれば名前呼びで良いと思っているのであった。
「改めまして有音さん。1週間前はビックリしちゃいました。こんな料理できて当然とか生意気になっちゃ色んな意味で危ないんですね」
「反面教師状態で恥ずかしいんだけどそうみたい。私はもう同じミスをしないようにするから」
「僕はその様子を見て理解した。有音さんは体験で否応なしに覚えた。お互い勉強になったで気にしないようにしましょう」
当然彼にも、まだあまり話せていない香理にだって見苦しい姿を見せたのに……有音は想の大人な対応に舌を巻く。そんな中、香理も有音に話しかけに来てくれた。
「有音お姉さん。私も信じてたよ! また料理勝負の機会がある日を待ってるね」
「恥ずかしいよね年上として。期待に応えられるよう改めて頑張るよ」
気まずい気持ちを秘めたままでは良くないと思っている有音が相手への敬意を表し直している間にどうやら今回の収録予定が整ったようである。
「えっと――どうやらみなさんはいつ開始しても良いような感じになっていますね。慣れてきたみたいで私としてもやりやすいです」
番組が始まった。3人の審査員を静かに席につく。この後はいつもの流れになるだろうからと有音が奏と先輩達部活仲間にも目配せしてそのような姿をテレビ放送で流していいか確認
する。奏達料理研究家メンバーが頑張ってというジェスチャーを行い、有音の考えは固まった。
「試合前に失礼します。包味有音です。冒頭から出演したのには勿論理由があります。これで批判を減らせるかもとかの考えじゃありません。『視聴者の方達が感じた不快
な気持ち』それに対して謝罪します。これが私なりのケジメ」
司会の命に一言断って謝罪をしている有音。今やっている事は視聴者によっては一度失った信頼を取り戻そうとあがく醜い姿に見えているのかもしれなかった。ただ視聴者の反応は
まだ不明とはいえ観覧席のお客さんの反応では思いのほか好評な様子である。
「一応料理の本質をつかれた有音さんに再確認してもらおうかと視聴者さんのご意見メール&FAXを読みあげる予定はありました。ですがこの観覧席のお客さんの反応でわかるでしょうし
いりませんか?」
観客席のお客さんの反応だけではたまたまな可能性も十分あると考えた有音が視聴者の意見を求めた。
「いいえ。厳しい意見も胸に刻みたいので読んでもらえますか」
当事者の有音に頼まれてしまっては司会者の命も断れなかった。ご意見メール&FAXにざっと目を通してから視聴者の意見を伝える。
「どうもざっと目を通した限りではそこまで否定的な意見はなさそうですね。良い話悪い話どちらを先にしましょうか?」




