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クッキング☆えんじょい   作者: 霜三矢 夜新
クッキング開始編
42/204

第9試合 有音VS奏 6

「ええっと、それでは審査員の代表様に評価から伝えてもらう形でよろしいでしょうか?」

 司会者の問いかけに、有音の感情が高ぶっていそうだと判断した番参審査委員長が今回は『敗因』について語ると宣言。

「いいやっ、本日の対戦では負けである有音君にしっかり説明させてもらう所から始めようか」

 それを受けて有音が横柄な態度を始めたが、番参審査委員長は特に気にも留めない。

「適当な採点基準だったらこんな対決は無効だと考えさせてもらいますからね」


「では言おうか。バターとにんにくにじゃがいも・ベーコン・玉ねぎのみ。材料がありふれていたのが一点」

「絶賛できる味だったんでしょ? それ以上何を望むの」

「否定はせんよ。ところで有音君は料理を作っている最中に何か考えていたかね?」

「くだらない。口の中に入れてしまえばみんな一緒でしょう?」

 疑問の応酬。その話の内容から番参審査委員長が味と独創性を少し減点した理由が見えてきた。

「なるほどのう。そんな考えで作られた料理だから違和感を覚えたのか」

「何を勝手にスッキリした表情になってんの!? 私に納得させるのはどうしたのさ!!」


 彼女に伝えたい事――言葉よりもこれは奏の料理を食べてもらった方が早いだろうなという考えに行き着く。

「その答えは奏君の作った料理の中にある。知りたくば食べると良い」

「はあ? こんなレベルの料理を食べろとか意味がわからないわ」

 手を付ける様子のない有音を見かねて、審査委員長が怒鳴った。

「四の五の言わず食べればわかると言っておる!」

 有音は不満たらたらな様子だったが、審査委員長の催促の視線に晒されてこうすれば満足なんでしょとばかりに奏から料理を奪うように取る。

「食べてやろうじゃない! あんたら審査員失格の序章になるかもね」

 言ったからにはと有音が口の中へ放り込む。その結果、彼女は食道や胃の返りから不思議な感覚を覚えた。


(! 何かしら、この全身を駆け巡るどこか忘れてはいけなかったという気持ちは。ううん、気のせいよ)

 今の有音はこれを認めてしまっては全てが終わってしまう予感を感じ取っていた。だからこそ強がりだとバレないように料理をけなそうとしている。でも決定打になりそうな事は言えない。

「美味しくないという気はないわ。だけどあなた達の評価ほどとは思えなかったわね」

「んん? そうかね。口ではそう言うとるが君の表情、そう食べていた時の表情が気持ちを物語っていた気がするが」

 確かにその通りなので有音は言葉に詰まる。反論しようにもどんな話や喩えなどをしようが無駄な気がするのだ。そんな彼女に審査委員長からのプレッシャーが。



「食べた時に感じた想いや気持ち、どうだったのか答えてもらおうかのっ」

 その表情の意味を変えてやれば良い。往生際が悪いと思われようとそれらしく振る舞えばまだ道はあると彼女は考えていた。

「あんなのは表面的な食材の美味しさにつられて今までの経験から口の端が動いただけなんだから」

 しかし番参審査委員長には苦しい言い訳は通用しなかった。この言葉を伝えるのに最適なのは奏だろうと彼に話を振る。

「どうだったかな、有音? 心を揺さぶられる出来事に失敗が多かったけど食べてくれる人のために作ったんだよ」



 今回の奏の料理は料理に慣れてきたレベルのようなのだが、なのにじんわりと胸辺り中心にじんわり広がる温かさ。有音はしつこくけなそうと思ったのだが、いつもの素直で向上心を持つ有音に戻ったのか自然と瞳から涙が落ちた。

「私ったら……さっきまでの人を馬鹿にしている気持ちは何だったんだろう。今ならわかるよ、料理は技術だけじゃない。あんな雰囲気じゃ食べた気がしない人だっているだろうし」

 敗因を悟ったからか、有音はほぼ完全にいつもの彼女に戻っていそうだった。最後に忘れてはいけない大切な事をつぶやく。

「誰かのために……料理を食べてくれる人に笑顔になってもらいたい。こういう想いが大きなスパイス。二度と忘れちゃダメだ」




 今回(第6試合全般)は料理をするときに忘れてはいけない事というテーマで書いてみたつもりです。


試合後の話、もう少しありますので紛らわしいですがお間違いなく。


少しフライング気味に第7試合はキャラクター達が楽しむを目標に(ただいま構想中。そろそろ書かないとな~)

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