親愛なる我が黎明へ 其の二十三
あけましておめでとうございます
◆
「あーっハっはッハっはッ!!」
「………!」
鋭く突き出された三連、避ければすぐさま薙ぎ払い。
握る位置を切り替えることで間合いが激しく変動し続ける。
ただ定められたモーションを繰り出し続けるのとは違う、明らかにこちらの動きに合わせて対応を切り替えて……いや違うな、こういう一周回って胡散臭い動きには見覚えがある。
「こっちの動きに合わせて対応を作ってくる……ったく、最新技術のフィードバックが早すぎんだよ……!」
間違いない、こいつの動きはあの「龍宮院富嶽」と同じ……トレースAIだ。
これもあのクソ強ノンフィクション爺さんと同じでリアルの最強槍使いをトレースしているのかは分からないが、カラカラと笑いながらこちらをぶち殺しにくる動きは変幻自在と言っていい凶悪さだ。
「アなたも私の名前、呼んでクれるゥ!?」
「今のうちに舌回しとけ、この後人生最後の自己紹介してもらうからな!!」
下がれば射程の暴力で押し込まれる、だが前に詰めても超接近戦がやたらに上手い。あるいはレスリングや相撲のように組み合えば………いや、毒属性持ち確定のやつに組み付くとか自殺行為か。
ウィンプみたいに手のひらから毒を出せる、とかだと下手すりゃビンタで死ぬぞ俺は。
「聞かせテ! 私の名前ェ!!」
大振りの薙ぎ払い、跳んで回避。
だがゆっくりと動く視界の中で、本来であれば大きな隙を晒す技を振り抜いた状態から明らかに無理矢理に、それも一目見て分かる尋常ならざる膂力で回転を止めて逆回転を始める姿はやはり見た目通りの身体能力ではないということだろう。
とはいえ、とはいえ、とはいえだ。
───龍宮院富嶽になんであんな苦戦したかって、つまるところレギュレーション統一だったからでしかないんだよなぁ。
「アれれェ?」
パキン、と火花の如くスキルエフェクトが散る。
槍を弾かれたウワアが呆けたようなツラを見せるが、全く何をそんなに驚くことがあるというのか。
永劫の眼は元々パリィスキルから派生した思考加速。一瞬に永遠を見出すが如く、本来は武芸に人生を捧げたような一握りの人間だけが見ることのできる世界を見せる眼だ。
そしてその長い一瞬の中で繰り出した弾きは、巨獣の爪であっても弾き飛ばす。
トレースAIは確かに凄まじい。言い方は悪いが既に亡くなった達人の技量を完全再現したデータが一万円以下で買えるってのは、いよいよ人間の脳みそが容量何ギガバイトか解明され始めたような薄ら寒さがある。
だが、言い方を変えればそれは結局人間一人分でしかないのだ。
あのバーチャル道場だから俺は禁じ手混じりの再現性の無い勝ちしか拾えなかった。
だがここはシャングリラ・フロンティア。竹刀にエンチャントファイアだって出来る、なんなら竹刀が飛ぶ。故にこう言おう。
「アプデができてねぇぞ槍の名人!」
視界が元の速さに戻り、俺と奴とで認識する時間の流れが同じになる。
だが共通しているのはそこまで、奴は弾かれこちらは弾いた。ここからは初速が違う。
距離を詰め、ウワアの腹に優しく拳を当てる……たんぽぽの綿毛も飛ばせないくらい優しく、な。
スキルリキャストの踏み倒しを会得した今の俺にとって、不世出の奥義はもはやラストエリクサー足り得ない。
とはいえ回復の失敗を繰り返さないといけない関係上、結局気軽に撃てるものでもないが………誇っていいぜウワア、手こずったからお前はもう一発喰らうことになったんだ。
「ガッ……!?」
不世出の奥義「戦砕琥示」。
フルスイングでぶん殴っても相手を崩さず吹き飛ばしもしないノックバック完全無効化の高火力打撃も強いが、やはり本領はダメージを無効化することで放たれる超強力なノックバックだろう。
吹き飛び、大樹の幹に叩きつけられたウワアに追撃。
うめきながらも、掌からサッカーボール大の毒弾丸が放たれるが予備動作から見ているのだから警戒にすら値しない。
軽くステップを入れるだけで苦し紛れの飛び道具を回避し、インベントリから葬送兎月を装備。
お生憎様だが、ゲーマーほどイケメンと美女を殴り慣れた人種もいない。ウィンプと同じ顔だから手が止まるとかそういうことも無いッ!
「断末魔を上げろ!!」
客観的に見るとあまりにもカスの悪役すぎるが、構うことなく葬送兎月を振り下ろす。
「っ!ギぃイ!」
「あん!?」
槍は弾き飛ばしたはず、だが俺の顔面に真っ直ぐ突き出してくるこの毒槍の穂先は……ああもうそういうことかよ!?
顔をそらしてなんとか直撃は回避、だが左肩を浅く抉られた。そして次の瞬間には分かっちゃいたが毒状態になった表示。
肩はゲームシステム上は胴体判定、刻傷が対抗しなかったってことは純粋に毒か。
「指輪に回復ポーション詰めたのは失敗だったか……」
解毒ポーションの二本目が不発したのを苦々しげに眺めつつ、さらに視線を向けた先で胴体から槍を生やしたウワアの姿を見る。
ボスドゥニーネもそうだったし、思い返せばラビッツの地下で遭遇した黒ツチノコから脱皮したツチノコニーネもそうだった。
ゴルドゥニーネは無から毒の武器を生成する、こいつの場合は肉体から直接生やすことも出来るってわけだ。
「解毒可能な毒で助かったが……」
三本目の解毒ポーションがようやく役目を果たす。
擦り傷治すのにアイテム三つとHP四割のスリップダメージ、割に合わないにも程があるぜ。
どっから不意打ちの毒武器生やしをしてくるか分からない敵、しかもこれでボスドゥニーネ本体ではない分身だというのだから勘弁してくれとぼやきたくもなる。
こいつ如きに時間をかけてられねえ、ってことだからな。
「秒で倒し切るには……火力か」
煌蠍の籠手は……論外だな、あればっかりは替えの効かない切り札だからな。それこそこんなボスの取り巻きエネミーみたいなのにいちいち使ってられねえ。
となると……皇金剣の「 刃糧煌剣」を連打する。今一番後に尾を引かない火力の出し方となるとこれだろう。
とはいえ、あれはあれでリソースの削られ方は尋常ではないし、一番の問題がある。
……こいつの体力が、複数人による攻略前提であった場合だ。
流石に、いや本当流石にジークヴルムだのウェザエモンと同程度の体力をしているとは思いたくない。
ジークヴルムとかあいつ一晩中最低単位が百からスタートする数のプレイヤーに集中砲火食らってたけど大暴れしてたからな。
だがこいつは無尽のゴルドゥニーネが生み出したクローンのようなもの、体力もユニークモンスターたるボスドゥニーネと同等の可能性はある。
だが逆に、ゴルドゥニーネたるウィンプがそんなにタフネスとも思えないので案外あっさり倒せるかもしれない。
「………………」
いや、建前ばかりを考えるのはやめよう……要点はたった一つなのだから。
───”それ”を思いついてしまった時から、シャンフロをプレイしている時も……いや、ログアウトしてからも常に俺の脳裏には”それ”が存在し続けていた。
そして”それ”は……決して消えない、例えるなら施錠された宝箱だろうか。鍵はもう手元にある、あとは俺が開けるかどうかという段階。ただし、その鍵はダイヤモンド製で一度使ったら砕けてしまうときた。
つまるところ、不可逆なのだ。戻せない、戻らない……だが、出来る。そして、それが悪い結果になることは絶対にない。それだけは断言できる。
「……ったく、惑わせてくれるぜラストエリクサー!」
自らを鼓舞するように、諦めることを諦めるように声を張り上げる。
仕方ねえだろ! 見つけちまったからには怪しいボタンは押さざるを得ない、宝箱の中身を確かめずにはいられない!!
葬送兎月を手元からインベントリに戻し、右手に皇金剣を……そして、左手に"それ"を握る。
「水晶の皇帝と、鋼鉄の真竜………混ぜるな危険ってかァ!?」
あの日の死闘、半裸の報酬。
竜を討ち滅ぼした装備になれなかった力の塊!
物質として「結晶」の形になったのなら!
「極上の金属を食わせてやるよ……!」
躊躇いは捨てた、故に迷いなく皇金剣の針を結晶……「真竜の宝証:想い託す半身」へと叩きつけた。
このサンラクとかいうやつ、なんでこう扱いに困るアイテムを三つも持ってるんですかね。
・真竜の宝証
真なる竜種を打ち倒した者、その者が振るい纏うものも即ち真なる竜種を打ち倒した武器に他ならない。
が、その程度の賞賛ではその性質を上書きされないものがある。
例えば遠い過去からの叫びを示すもの。
あるいは命が命であるが故の欲望を叶えるもの。
そして竜を殺す使命を抱く故に「殺した」結果など、出来て当たり前のもの。
本来自らを打ち倒した装備を「竜を殺した装備」に上書きするはずの力がより大きな力に弾かれた時、霧散を防ぐために一つの塊となって凝結する。
それは偉業を証明する宝であり、確かに「自分は存在したのだ」という竜の証明。
それとは別に「戦闘中に装備が破損して変更を行わなかった場合に他プレイヤーとの差が発生するのは良くない」と無装備状態で戦闘を長時間行った場合も同様の宝証が入手可能になるようシャンフロに対してデカいお気持ちがある方の神による調整が入ったのでシャンフロに対してデカいお気持ちがある方の神はキレた。
どっちでもない神は胃を痛めた。




