親愛なる我が黎明へ 其の十九
TGS会場で書いていました
家の中に執筆環境を整えるほど、外の方が捗る現象はなんなんでしょうね
「ヴェット! 悪いけど今回はツーショットは我慢してちょうだいね!」
「しゃーなしか……スクショで我慢しますよ!」
「今回参加した人達は全員いるわね? じゃあ聞いて! これより我々は【旅狼】サンラクさんの要請に応えてユニークモンスター「無尽のゴルドゥニーネ」討伐に参加します! 暫定本体のいる場所まで、現れる敵を倒しながら一気に進むわよ!」
「リーダー! 無尽のゴルドゥニーネの詳細は分かったんですか?」
SF-Zooのサブリーダー、「ヴェット」なる名の小柄な男性プレイヤーが目を輝かせながらAnimaliaへと問いかける。
………分かってはいたが、避けられぬ問いにAmimaliaが一瞬目を背ける。だが、意を決した様子で口を開いた。
「ゴルドゥニーネは、人型モンスターよ」
「…………あぁ、はい」
露骨にテンションが最低値まで落ちたヴェットに、しかしAmimaliaは諭すように言葉を続ける。
「ヴェット、話は終わっていないわ。ゴルドゥニーネは確かに人型……というかほぼ人間の見た目らしいけど、配下として蛇を操るそうよ」
───例えばそう、あの見たことのない蛇のように。
Amimaliaの指し示した方向、そこには額からビームを放つ蛇が哀れな獲物を狙撃しづけている激闘の光景。
ちなみに狙われている哀れな獲物が俺である、これあれかな刻傷効果か?
サイズ的には貪食の大蛇よりも一回り小さい程度……だが、機動力と火力がとにかく抜きん出ている!!
まさか蛇にスウェーで避けられるとは思わなんだ。
それでいて、額から放たれるビームは触れたものを一気に”熔”解させてくる。最初は強い酸か何かかと思ったが違う、触れたもの自体を高熱化させて自壊させる………つまるところ電子レンジビーム!
直撃せずとも身を焼く余波の正体は加熱された大気ってところか。紙一重の回避は回避にならない、人間一人分は空けて回避しなければ余波のダメージを喰らう。
「だが逆に言えば!」
余波を許容すれば最短の回避で直進できる!
つくづく金ピカに縁があるな俺は、剣豪蠍の次はボクサー蛇ってか!!
「サンラクさん! そのまま攻めて、私たちが支援する!」
「俺はバフを弾く!」
「逆だから心配は無用よ!」
「了解!」
視線を向けないままAnimaliaに言葉を返しつつ、逆に言葉を発しないままレイ氏に視線だけ向ける。
それだけでこちらへの加勢、その機を伺っていたレイ氏が動きを変える。
いや凄いなこの人、アイコンタクトが通じたっていうよりは互いに考えていた「追い込み」のビジョンが一致していたんだろうが……それが目配せだけで通じるものか。
レイ氏がセットポジションに移動したのを確認した俺は装備を変更する。
金グコブラは恐ろしく素早い。それは時速何キロ出るとか、音より光より速いとかそういうスピードの話ではなく、身のこなしという意味の過敏さだ。
その長い胴体……筋肉の塊のようなその胴をくねらせ、曲げ、あるいは不自然な姿勢のまま筋力で堪える。
ボクサーと喩えたがまさにその通りだ、問題はこいつのデンプシーは左右に1メートル以上動くことと……ジャブがビームってことか。
「半端に射程があっても届かねぇなら……伸ばして、縮めて!」
足りない射程は左手のエアリアルPDで伸ばして。
余った射程は右腕の雄弁ナル拳で縮める!
重要なのは「手段」が二つあること。故にこれは紛うことなき二刀流……見てろウィンプ、チョップと弾丸のスーパーコンボを見せてやる。
エアリアルPDを発砲。
予想はしていたが三発撃ち込んだにも関わらず、三発とも全て対応して回避しやがった。高速でグネグネとスウェーする姿は1.5倍速で動画を早送りしているみたいで若干ホラーだが……
「足元が踏ん張りすぎだぜ金グコブラ!!」
どれだけ身のこなしが飛び抜けていようが、地に足つかなきゃ踏ん張りがつかない。
足が無い蛇であっても、いや足が無いからこそ接地面という意味でこいつは全長の後ろ半分を地面につけなくてはならない!!
「プレイヤー最速ナメんな、0→40cm始動でもトップスピードだぜ」
踏み込む一歩分さえあれば、一気に加速できる。
スキル起動、俺を狙う光線を紙一重で避けながら一気に距離を詰める。
余波で三割削れたが、体力が0ではないということは実質無傷ということ……そのまま銃口を金グコブラへと向ける。
恐るべき反応速度と言うべきか、かなり不意を突いたはずだが金グコブラの顔は真っ直ぐ俺を向いていた。
どっからどこまでが首なんだ、とかは置いといて……俺に釘付けでいてくれてサンキュー!
至近距離での発砲、しかしそれすらも容易く避けて額に光を集める金グコブラ。だがそれでもさらに引き金を引き続ける。
ようやく一発だけが金グコブラに命中したことでようやく向こうも気付いたらしい。
特務用といえど所詮はハンドガン、無傷ではないにせよ避けるほどでもなかったことを。だからこそ、満を辞して放つ一発をお前は避けない。俺の真正面から頭を動かさない!!
重ねてようやっと気付いたらしいが、だが遅い……右腕は銃を撃つために後ろに下げてるんじゃあない、さっきからずっと振りかぶってるんだぜ。
「叫べ鉄拳!」
物理最強!!
俺に向けられたヘイト、そして俺を狙う攻撃。
つまりそれは回避意識の欠如ということ。殴る瞬間こそが最も殴られる隙となる、喰らって覚えろ金グコブラ……これがクロスカウンターだっ!!
速度を乗せた右拳が金グコブラの顔面に叩き込まれる。雄弁ナル拳は加速による運動エネルギーをそのままダメージ補正に変換する。
故に、ゼロヨン加速であっても最大速度の踏み込みが乗った拳は大蛇系モンスターの中では比較的小型な金グコブラの頭に命中。
戦砕琥示はまだ温存だが、それでも怯ませて軽くノックバックを起こすくらいなら武器性能だけで出来る。
怯み、わずかに仰け反りながらも俺にビームをぶち込もうとする金色の蛇。だが、俺にばかり注目するのは流石に視野狭窄すぎるんじゃないか?
交差する俺と金グコブラの間に飛び込む姿一つ。真っ黒な影で包まれたような右手を振り上げて黄金の大蛇へと飛び掛かる。
「五種添付……【兇手】!」
べちん! と横から飛び掛かったAnimaliaの平手が金グコブラの鱗を叩いて乾いた音を立てる。
そのあまりのダメージの無さに金グコブラも一度はAnimaliaを無視してこちらを睨んでいたが……"効果"はすぐに現れた。
「デバフを手に溜めて一気に炸裂させる……デバフの多段ヒットを一撃で叩き込んでるんだもの、半端な耐性じゃ防げないわよ」
金グコブラの動きが完全に止まる。
硬直し、眼差し打で俺を睨みつけ………バカめ。
「お前の敗因は揺るぎなくたった一つ」
ダメージディーラーから目を逸らしちゃダメだぜ。
「───迫銀月昂」
銀の一線が金の蛇を断ち切る。
最大火力の一撃は、最大速度のパンチなど比較にもならない高火力によって金グコブラを討ち取ったのだった。
「レイ氏」
「……あ。はいっ」
「ナイス連携!」
「こっ……こちらこそ!」
砕け散る金グコブラを背に、夜の樹海に俺とレイ氏のハイタッチが鳴り響くのだった。
・【兇手】
デバフ特化型直接物理攻撃バフ魔法、という非常にややこしい魔法。
発動した手にデバフ効果を持つ魔法を指の数、つまり五つまでストックしてその手による直接攻撃命中時にストックしたデバフ効果を全て叩き込む。
魔法の中には強力な効果を持つもののホーミングが薄いor無いものも多く、プレイヤー自身がデバフを直接叩き込みに行くための手段。
とはいえ「一人につき一つしかストックできない」という欠点があるため、ソロプレイだとあまり意味はない
………どこかにデバフに習熟したプレイヤー達を集団で運用するようなクランがあれば話は違うが。
・迫銀月昂
夜が深まるほどにダメージ補正が高まる斬撃。ピークタイムは深夜二時だが倍率自体は日没直後から発生する。
別に最大倍率じゃなくても使い手が最上位なので小型高性能化の代償として耐久が削られてる蛇では耐えられるはずもなく……




