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親愛なる我が黎明へ 其の十八

なんもかんも〆切と深き夜ってやつのせい

「馬って、いいわよね」


体力を六割近く齧り取られながらも、それが言えるならもう立派なものだろう。

緋鹿毛盾無は自尊心がそんじょそこらの権力者よりもゴツいモンスター馬だ。基本的にレイ氏以外のプレイヤーが触ろうとすると噛みついてくる、というか咀嚼してくる。

ウィンプが噛まれないのは恐らく敵意すら向けるに値しないからだろう………猛獣とて背中にとまる鳥にいちいち目くじらは立てない。蛇だが。

奴の歯並びは肉食獣のそれなので普通に激痛の多段ヒットだ。イカれたバケモノでしかないのだが、明らかに2咀嚼はされていたAnimaliaはこのリアクション。

なるほど、シャンフロでも有数の動物好きの長と言うのは伊達ではないらしい…………困ったことに、俺の記憶フォルダにある類似例としてはエタゼロが一番近いのが絶妙に評価を下げているのだが。


「そもそも、人類に寄り添ってくれる動物って時点でもう”熱い”のよね。野生の美しさはもちろんだけど人と共にいる動物がそれを歓びとしてくれているだけで………うっ、涙が」


類似例:カローシスUQという文字が脳裏をよぎる。いや……あれは相当なキワモノだしそうそう類似例がいるとも思えないが………だが他人の馬に齧られた直後になんか感極まって涙をぬぐっているのはかなりエキセントリックだ。やっぱり同類かもしれない。


「カローシス+エタゼロかぁ……………」


混ぜちゃいけない洗剤の類じゃねえかな。

いやまぁ、仮に毒ガスが出ているとしても今この場においては一大戦力。それになんというか…………複雑な気分だがそういう(・・・・)手合いとのエンカ率も高いので許容ラインも上げざるを得ないというか。


「で、その(サブ)リーダーはどうやって説得するんだ?」


「うーん、ヴェットは……あ、ウチのサブリーダーのことね?彼、基本的に蛇なら全般大好きだし蛇型モンスターさえいれば問題は無さそうなんだけど……」


現状、このゴルドゥニーネ戦で出現しているのはほぼ人型の敵ばかり。龍蛇は出現こそしているが今欲しいのは決戦の場に来てくれる戦力であって、外周にいる龍蛇の方に行かれては意味がない。

いや、だが…………


「あの超巨大蛇は全部で四体いるはずだ。まだ一体しか暴れていないってのも妙な話なんだよな……」


「残り三体がボス戦で一斉に襲ってくるってこと?クリアできるのそれ?」


Animaliaの至極ごもっともな質問にしかし俺はすぐさまNoと返すことが出来ないでいた。


「無い、とも言い切れないんだよな………」


ユニークシナリオEXは参加人数が増えれば増えるほど無茶を通し始める。それがこれまでに数々のユニークモンスターとエンカウントしてきた俺が出した結論だ。

特にプレイヤー全体が参加可能なタイプは規模感もプレイヤー全体を想定したものになる……ジークヴルム戦なんて特に顕著だろう。

なにをどうしたら1エリアに色竜数体詰め込んだ上でジークヴルムも大暴れしよう、なんてシナリオを作ろうと思ったのか。ボスラッシュってそういうものではないだろうに。

これらを踏まえれば、ボスドゥニーネの取り巻きに残り三体がいる……という可能性もゼロではないのだ。その上で少数人数でのクリアを目指したのはやはり、「ゴルドゥニーネ」と契約しているか否かでシナリオに違いがあるためだ。


とはいえ、過去の例を諸々踏まえて考えると……あまり言いたくはないがこう結論づけざるを得ないのだ。


「このゲーム、クリアの理論値が現実的範疇ならどれだけ難しくしてもいいと考えてる節がある」


ボソリと呟いた俺の言葉に、レイ氏もAmimaliaも遠い目をしたのは……このゲームのトップを走る二人にもなにかしらの心当たりがあるからだろうか。

そもそもマルチ前提のオンラインゲーとはいえソロ攻略をむしろ運営側から否定したがってるフシがあるのはなんなのか。ソシャゲじゃねーんだぞ全く………


と、その時だった。


「な、なにかくる!」


ウインプの警鐘。

今回の敵は向かう先からこちらにやって来る、故にどこから来るのかだけは迷うことはない。

気を引き締め、睨みつけた先………樹木を薙ぎ倒す音。

尋常の膂力では為し得ないだろうそれは、先程倒した目の無い毒乙女を思い出させるが……

二足歩行の外見ティーンエイジャー存在にこんな這いずる音(・・・・・)は出せねえだろ!!


「話の途中だがお客様だ!」


プレイヤーの視界は完全な暗闇ではない。だからこそ、その姿と「何をしようとしてるのか」を視認できた俺たちはその場から散り散りに散開する。

次の瞬間、俺たちのいた場所にへし折られた大樹の幹が吹き飛ぶように転がり込んでくる。


「……とりあえず、あんたのところのサブリーダーもご満悦じゃないか?」


「キングコブラタイプ、でも見たことのない鱗の色……未確認種?」


SF-Zooにとっては重要なのかもしれないが、正直俺からしたら厳密な種など知ったことではない。

ラスダンでカラーリング違いの雑魚敵が出てくるとかそう珍しくもないだろ。


木々を薙ぎ倒して現れたのは、毒乙女ではなく自動車ほどの大きさはある大蛇。特徴的な体のフォルムはAnimaliaの言う通りキングコブラを彷彿とさせる。


「全身黄金の鱗なキングコブラとはなんとも景気のいい野郎だな」


「っ!何かしてきます…!」


レイ氏の警告。

こちらを睨みつけ、不自然な動きで頭をゆらゆらと揺らす姿は何かの予備動作と見るのが自然。

だが、緩やかに首を動かしていた金の……(キン)グコブラが突然俺に視線を向ける。


キュゴッ!!!!


「どぁぁぁぁ!?」


ビーム撃ちやがったこいつ!!

どういう原理だ、と叫びたくなるが蠍だってエネルギーソードを振り回す世界でそれを問うのもナンセンスだろう。なんかこう……ピット器官から出てるんだろう、荷電粒子が。


地面を抉り焦がすビームは咄嗟の回避でかわしたが、チリチリと余波で焼ける腕と、一割削れたHPを見れば直撃はまずい事は容易く理解できた。


「対人対蛇をかき分けて進め、か……」


いよいよ最前線がまずいぞこれは。見た目詐欺の怪力毒乙女とこんなのがセットで来るだけで厄介さは一気に跳ね上がる。


「悪いが猫の手も借りたいんでな、とりあえず力を貸してもらうぜAnimalia!」


武器を構え、金グコブラと対峙する俺とレイ氏の横にAnimaliaが並ぶ。武器はなく、徒手空拳だ。


「猫の手は借りるものじゃないわ、愛でるものよ」


「そ、そうか……」


「その上で、人手(・・)なら貸してあげる……私達、SF-Zooの力をね!」


ふと後ろを見れば、そこにはAnimaliaと同じエンブレムを持つプレイヤー達が目を輝かせながら立っていた。


灼喰の大皇蛇(ネメストロン・コブラ)

「ゴルドゥニーネ」が生み出した燼喰の大王蛇の変則亜種。既存生態系には存在しない個体であり、額から放つ波動によって大気や対象を一瞬で加熱、破壊する。

電子レンジビーム!相手は死ぬ。

生み出され、認識された以上この世界からなかったことにはならないため、いつかどこかに発生し、生態系に根付くことになる。

気をつけろ!ゴルドゥニーネを放っておくと無尽蔵に新種が生まれるぞ!!

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― 新着の感想 ―
だから無尽…なのか。 つまり蠍蛇キメラもいつかは生まれる!?
蠍かー、荷電粒子かー、 デススティンガーかな?
つまりゴルドゥニーネさえ居れば蛇デッキの強化が無限に行われる……?
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