親愛なる我が黎明へ 其の十七
ベアトリクス最終を祝して
Animalia、というプレイヤーについて俺が知っていることは実はそう多くない。
なんていうか………面識自体はある。具体的にどういうプレイヤーなのかも分かる。ただなんていうかなぁ………絶妙に接点が少ないというか、面と向かって最後に話したのはこいつがリュカオーンに喧嘩売ってむしゃむしゃされる直前だったか。
それ以降は「新大陸にいるらしい」「ジークヴルム戦で戦ってたらしい」という風の噂をさらに又聞きしたみたいなうすぼんやりとした情報が入ってくるくらいだったのだ。
というか、そもそも最後に見た時と装備……いやこれジョブレベルで別モノにビルドし直していないか?
Animaliaといえば、呪術師……つまり防具というより衣装とか服、としか言いようのない装備を纏った典型的な攻撃を受けない立ち回りを前提としたような恰好をしていたはず。フード付きのローブみたいな……
だが、今のAnimaliaはどう見ても格闘家のそれだ。オイカッツォに装備の傾向が似ているってことは……あいつ確か初期ジョブは修行僧だったから、一種の魔法戦士系のビルドにしたということか。
このゲームは素材が上等であるほどに性能だけでなく見た目の自由度も高くなる。Animaliaはトッププレイヤーだけあってか、装備の見た目を若干呪術師の頃に寄せているようで過去に装備していたあのローブを腰に巻き付けているようにも見える、鮮やかな黄緑の腰布を纏ったポニーテールの格闘家といった趣だ。
どうでもいいが、この手の格闘キャラのあのインナーみたいなのって何の素材でできているんだ………?
ちょっと気になってAnimaliaに聞こうと思っていたのだが、なぜか身体の右半分に寒気が走ったので反射的に中断。思わず右を向くが、そこには馬から降りたレイ氏がいるだけだ……いったい何だったんだ?あの肉食馬がこっちを食おうとしていたとかかな、おーこわ。
まぁ見てくれの話はどうでもいい。問題は何故SF-Zooのクランリーダーがここにいて、そして恐らく「俺を」探していたのかということ………
役目を果たしたためか、頭につけていた兎耳の……カチューシャだろうか、おそらくアクセサリーだろうそれを取り外しているAnimaliaに俺は問いかける。
「何故こんなところにと何の用件だはもしかしてひとまとめにできる感じか?」
「ええ。私がここにいるのはサンラクさん、あなたに……というより、クラン【旅狼】の誰かしらにコンタクトを取るため。クラン連盟の間柄なんだもの、今回のユニークモンスターには一枚嚙ませてもらいたくてね」
クラン連盟………………クラン連盟?いや、待て思い出した。クラン【黒狼】とゴタついた時のあれか。
他人事のさらに他人事みたいなものだから今の今まで記憶から消えかかっていた。
言われてみれば当たり前の話ではあった。【旅狼】を盟主として新たに結成された連盟はユニークモンスターに関する情報提供を主としたものだ。
実際、オルケストラやクターニッドは【ライブラリ】を経由して情報が共有されているはずだし、ジークヴルム戦に関してもペンシルゴンの奴がいろいろやってたし、その中に連盟とのあれそれもあったのだろう。
面倒事………もとい、そういう政治的なあれそれはペンシルゴンにぶん投げているから今回のゴルドゥニーネ戦に関して奴が他のクランをどう動かしているのかを俺は把握していない。
いやまぁ少なくとも【聖女ちゃん親衛隊】はいつでもやることはっきりしているだろうが。
「あのペンシルゴンさんから話は聞いているけど、何か怪しいと思っていたのよね」
「……というと?」
Animaliaはさながら名探偵にでもなったかの如く……そして、犯人の前でその推理を披露するかのように言葉を続ける。
「今回のユニークシナリオEXは「見上げるほどに巨大な蛇による侵攻を食い止める」こと………これに関しては聖女イリステラの言葉とも合致している、事実なんでしょうね。でも、私たちの情報網をあまりナメない方がいいわね」
SF-Zoo、それはシャンフロプレイヤーの中でも特に動物好き達によって結成されたクラン。
その「好き」の対象が哺乳類に限定されている、なんて話は聞いたことがない。
「ウチのメンバーの中には無類の爬虫類好きだっている………言っておくけどこの世界の生物学、それもフィールドワークにかけては………私たちは【ライブラリ】よりも一歩先んじているんだから。だからこそ、SF-Zooの爬虫類好きたちが集めた情報をまとめた時、気づいたのよ」
───無尽のゴルドゥニーネは、少なくとも「超巨大な蛇」ではない。
決定的な証拠を突き付けるように、高らかにそう宣言したAnimalia。
なるほど、名探偵のような振る舞いをするだけのことはある…………とはいえ、まだこちらの(というか十中八九ペンシルゴンの)悪だくみが暴かれただけのこと。
肝心のAnimalia……ひいてはSF-Zooの目的が明かされていない。
「えー………なるほど、見事な推理だな探偵さん。小説家にでもなったらどうだ?」
「ああうん、理想的な返答ありがとう。一応合ってる?」
「合ってる合ってる。あのデカいのはゴルドゥニーネ本体の眷属みたいなものだ」
よっしゃ、とガッツポーズをするAnimaliaに話を続けてとゼスチャーで促す。
仮にこれが推理モノの漫画なりゲームなりであるならば解決してゲームクリアかもしれないがこのゲームはシャングリラ・フロンティア、名探偵の推理が終わっても別にゴルドゥニーネは倒れない。
「えーとつまり!私たちはあなた達【旅狼】が撃破しようとしているであろう「本当のゴルドゥニーネ」との決戦に一枚噛ませてもらいたい、ってことよ!!」
「いやもう大歓迎!」
「まぁ嫌といっても………え、大歓迎?」
「いや今ちょっと大幅に予想を外れた状況でな!なんていうか全然頭数足りないなこれ、って困ってたところなんだ!!」
前回は向こうの落ち度とはいえ勝手に手を切って突っ込んで自滅したSF-Zooが、今度はかつて縁を切った相手に大歓迎されているという状況。まさか歓迎されるとは思っていなかったのか、ぽかんとした表情でこちらを見るAnimalia。
「あんたらもここまで進んでるんなら道中で全身毒で構成された人型モンスターと遭遇したんじゃないか?」
「ええ、まぁ確かに何体か倒してるけど………」
「あれはゴルドゥニーネ本体が差し向ける兵隊みたいなもんでな、当然発生源に近づけば密度も上がる。分かるだろ?」
「なるほどね、まさにここにきて私たちSF-Zooの助力は渡りに船って…………ちょっと待って」
Animaliaはきょろきょろと辺りを見回すと───まるで、誰もいないことを確かめるかのように───こちらへと近づいてきて小声でこう尋ねてきた。
「あの、もしかしてゴルドゥニーネって……本体、人型だったりするかしら?」
「ああ、完全な人型だな………四肢に鱗があったりはするが」
返す俺の言葉に、Animaliaは数秒フリーズし………Oh、とでも言いたげに頭を抱えた。
その仕草に、俺は直感的に状況が悪い方向に進んでいることを悟る。
いや待て待て待て、まさか「人型ならちょっと………」で帰ろうとしてないだろうなこいつ!期待させといてこのまま帰宅しますはマジで困るぞテメー!
「………ええと、私個人としては蛇も可愛いなぁとは思うのだけれどもね?どっちかというと今回一番お熱なのは私じゃなくて副リーダーの方なの」
「なるほど?」
「…………その、ゴルドゥニーネ本体が人型だと彼、というか今樹海で【旅狼】捜索をしている爬虫類好きの立候補メンバー全員、その場でログアウトして不貞寝しかねないのだけれど…………」
………………………。
この土壇場で生えてきた一大戦力。
だが、それをメンバー入りさせるにはどうやらかなり頭をひねって「人型ボスだけど参加してくれねえ?」と説得するしかないらしい。
「……レイ氏、なんか妙案ないかな」
「えっ?!」
無茶振りと分かってはいても、俺はレイ氏にそう聞かずにはいられないのだった………
SF-Zooサブリーダー
プレイヤー名は「ヴェット」。知ってる人は多いでしょう……なぜならマガジンでまさにここ最近出たキャラだから(ダイレクト・マーケティング)
無類の爬虫類好きだが住居が賃貸でペット禁止なこともあり、どれほど望んでも爬虫類の飼育ができないという悲しい星に生まれた男。
飼えないなりに爬虫類を愛する生活を送っていたが、シャンフロの評判を聞いて始めたところ………貪食の大蛇に心を奪われてしまった。ドラゴンも広義の爬虫類みたいなもんだよね……菌類?そんなぁ
ラビッツに居座ったSF-Zooのメンバーの中で最もゴネたのがこの男。
「もう本当無賃でいいからずっと兎食の大蛇と戦わせてくれ!!」と叫びながら強制送還された。
爬虫類好きでありながら蛇型モンスターを撃破できるのは爬虫類が好きだから真正面から対等な立場で戦うのも好きなため。え、誰しもアナコンダに丸呑みにされてみてぇ~って思ったことないんですか?
ドラゴンもいいけどやっぱ蛇だよ蛇!とシャンフロが誇る「蛇」の最高峰であろう「無尽のゴルドゥニーネ」に会えるならば、とかつてないほどの情熱を燃やしている。
前話で書き忘れていました
コミカライズ版シャングリラ・フロンティア23巻発売日は8月12日です!!!




