親愛なる我が黎明へ 其の十六
ベアトリクス最終記念
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全くレイ氏という奴は………否、斎賀玲という人物に対しての俺の好感度は鰻登りだ。
別に真面目一辺倒であれ、とは言わないがこういう一発勝負なイベントでチョケない直向きさには頭が上がらない。
ユニークシナリオEXにいっちょ噛みするだけでメリットがあるとはいえ、レイ氏はこのシナリオにおいては外様に過ぎない。そして状況だけ見れば今回のEXシナリオでメインキャスト寄りの俺にこうも含みなく、そして見返りなくも協力してくれるのは……本当に器がでかい。
こういう言い方はアレだが、彼女のリアルを知る身としてはこの人は何故VRゲームをやっているんだろう?と思うのだ。
いや別に他人の趣味にとやかく言いたいわけじゃない、そんな権利持ってる奴なんていないからな。仮に持ってる奴がいたとしても拒否権は誰もが持っている。
ただ玲さんは……なんていうかこう、「選択肢を持っている人」だろう。
立って座って歩いての三モーションが全部花に喩えられそうで、しかも文武両道ときた。
進路希望も奇遇なことに俺と同じ来鷹とのことだったが……正直もっと上を目指せるだろこの人。それこそ日本全ての大学を上から数えて……なところだって。
まぁ進学先云々は俺が口出しすることじゃないが、にしたってスポーツ特待生だって狙えそうじゃないか。
たまに風の噂で聞くからな、体育の授業でなんかすごい記録出したとかなんとか。
そんな才能の塊みたいな人物がシャンフロでド廃人やってる、というのも中々にすごい話だ。
そういうところを好ましく感じるわけで…………ゲームをやるのに資格なんていらないように、凄い人だってゲームをやっていいし熱中してもいい。
俺が呂布プしているレイ氏から感じる「凄味」は決して見た目やパラメータだけではないのだろう。
「レイ氏、一応確認だけど消耗の方は?」
「あ、えと、問題ありません。インベントリアのおかげで……基本的に、装備不足は無いです」
兵站が尽きない砦のように頼もしい発言だ。
とはいえ装備単品で見るとやはり消耗は避けられない。
毒乙女戦は所詮は雑魚敵、ボスラッシュにすら辿り着けていないのだから………ボスラッシュ?
「…………」
「どう、されましたか?」
「いや………いや違うな」
「?」
ふと感じた嫌な予感。
予感でしかないからこそまだ口に出すべきではないと思っていたが、これはむしろ口に出してレイ氏の意見も聞くべきではないか。
そう考えを改めた俺はそのふと感じた予感を言葉にする。
「レイ氏……今さっき戦ったやつ、最大何体出てくると思う?」
「最大………………」
ゴルドゥニーネが冠する単語はなんだったか。
ウェザエモンが「墓守」であるように、リュカオーンが「夜襲」であるように。
ユニークモンスターが冠する言葉はその性質を端的に表している。つまりゴルドゥニーネが冠する「無尽」ともなれば……?
レイ氏も俺が言わんとすることに気付いたのか、固い声でポツリと呟く。
「無限湧き……?」
「一面敵で埋めるほど飽和させてはこないと思うけど……問題は「どこから」あの分身体が生み出されているかってことだ」
地面からポコポコ生えてくるならまだマシだ。これがあのボスドゥニーネ本体を「根本」として生えてきているとしたら、少々まずいことになる。
あの強さの個体も雑魚毒乙女と同じ勢いで生産されているなら、一番強くて密度の高いところに少人数で突っ込んでいる自滅行為を今まさに実行していることになるわけで。
「……………」
「どう、しますか?」
難しいな………
そも、大前提として今回の作戦はユニークシナリオEXのクリア条件が単純な勝利ではなく、ドラマティックなストーリー展開を優先している傾向があるから、という経験則によるものだ。
ウェザエモン然り、クターニッド然り、ジークヴルム然り、オルケストラ然り……そこまで来るとゴルドゥニーネもそう、と考えるのが自然。
本当に勝ちだけを考えるならウィンプの奴を海の上にでも逃してプレイヤーを集めに集めてボスドゥニーネを袋叩きにすればいいだけの話だ。
ただこのゲームのユニークシナリオというやつは、一本道であることの方が稀だ。どんなに些細なユニークでもノーマルエンドとハッピーエンドが用意されているというか……
どうする?もうすでに他のゴルドゥニーネたちを含めた「本隊」は進んでしまっている。今から戻れと言ったところで果たして全員無傷で生還できるだろうか?
恐らく答えは「出来ないことはない」。だが………数々のユニークモンスターと渡り合ってきたからこそ俺には分かる。後ろ向きの方針の先にSランクリザルトは存在しない……それがユニークシナリオEXというものだ。
「いや、一回落ち着け……まず整理しよう」
「…………」
不安げにこっちを見るウィンプの視線に気づいた俺は、堂々巡りを始めた思考を一旦捨てる。
今回のユニークシナリオEXの攻略に当たって、今この瞬間に一番足りていないものはなんだ?
まず第一に情報、まぁこれはどのユニークシナリオでも共通なので除外。ぶっつけ本番だから情報なんてあるわけがないのだから。
となれば次点の要素が一番足りないものとなる……つまるところ、戦力だ。
ゴルドゥニーネが分身を大量に生成してくることは既知の情報だったが、龍蛇に気を取られ過ぎたのは明確に俺の失態だ。
いや、四体いることが確定している龍蛇に戦力を割かないといけないのは正しいが、その上で量産Mobの毒乙女から戦闘力がここまで高い個体が出てくることを考慮していなかった。
「必要なのは戦力…………こうなりゃ秘匿もクソもない、ボスドゥニーネ本体の所に質でも量でもどっちでも頭数を送り込む必要がある」
どうする?臨界速を使えばサバイバアルたちがいる地点まで戻るのは容易いだろう。だが、龍蛇との戦闘もある以上、龍蛇を引き連れて合流するか龍蛇を倒しきるしかない。
「戦力……戻る……いや時間……そもそもウィンプをレイ氏一人で連れて行くのはリスクが進むほどに比例……」
あーくそっ、そこら辺の地面から戦力生えてこねーかなもう!!
その時、ガサガサと草むらの揺れる音。
音が近い、だがそこまで大きい音ではない……人間大の物体が動いている音!
「新手か!」
「っ!!」
俺とレイ氏が戦闘態勢に入った先、草むらから人影が顔を出す。
「あら?……どうやら、私の見立ては正解だったようね」
それは、俺が良く知る顔だった……というか面識がある顔だ。
毒乙女は見知った顔ではあるが、その個体ごとに面識があるわけではない。つまり草むらから現れたその面構えはウィンプそっくりの毒乙女ではなく………プレイヤーであったのだ。
「まさかドンピシャでマストターゲットに当たるとは思わなかったけれど、ね?」
「………きた」
「まぁ、かつては色々とあったけれど……水に流してくれると助かるわ」
「……てきた」
「え?」
記憶が正しければ後方支援の呪術師系ジョブだったはず。
何故どう見ても軽装のオイカッツォみたいな近距離ファイターみたいな恰好をしているのか、だとか。
何故兎の耳みたいなものを生やしているのか、だとか。
そんなことはどうだっていい。重要なのは、こいつがトッププレイヤーに名を連ねているということ……!!
「戦力生えてきたァーっ!!」
草むらから現れたプレイヤー…………SF-Zooのクランリーダー、Animaliaは歓声を上げた俺に目を白黒させていた。
別に投稿が8月2日だったからうさ耳をつけていたわけではなく、周辺探知用のアクセサリーなんですね。決してバニーの日だから、というわけではなく。
気づけば23巻、まだ気分的には12巻くらいの心持ちです。未だに。
コミカライズ版においても「シャンフロ」という世界がどんどん広がり、様々なキャラが登場してきたわけです。
旅狼の面子揃うのに20巻近くかかってんのやばいな(笑)とか他人事みたいに思っていたのですが、全然我が事なんですよね………エキスパンションパス付属の小冊子の表紙はウルトラ最強未亡人こと黒死の天霊です。草葉の陰でヨハンナさんも喜んでいることでしょう………まぁ、モンスターとして出る「黒死の天霊」はオールウェイズ怒りと怨念まみれなんですが。




