12月23日:4以下はは四捨五入でゼロ
ニューヨーク行ってました
久しぶりに踏んだニューヨークの地は懐かしくあり、あのゲームショップ潰れてなかったんだ!?と大爆笑し、そして………
出国寸前に飲んだエナドリは大外れでした。
スイカ味? 嘘つけきゅうり味の間違いだろ、もしくはスイカの白いところ
夢か現か、現の如く夢を見るのか。
”彼女”にとっては、眠るように夢を生きているのだ。
◇
フルダイブVRシステムの終了処理が完了し、意識が急速に覚醒する。その感覚を例えるならば、眠気の波がきれいさっぱりと引いてしまったような……十分そこらの仮眠で頭の重さが消えたかのような。
個々人の程度の差はあれど、基本的には不快とは真逆の起床へのサポートを以て「体験」の終わりとする。ユーザーに対する機械仕掛けの心遣い。
「…………」
だが、それはあくまでも現実に戻る者に対する心遣い。
現実に行かなければならない者にとっては焼け石に水、むしろ半端な慰めは腹が立つ理由にしかならない。
横たわっていたベッドから半身を起こし、軽く全身を確かめる。腹が立つほどに異常無し、正常だ。
「あー、アー、ア、ア」
彬茅紗音は欠伸をしない、する必要がない。
喉の機能が正常であるかを軽く確かめながら、その声をどんどん平坦なものに寄せていく。
シャンフロという夢に無粋なまでに鳴り響いたアラームは「来訪」のサイン。
その中でも、紗音が無視しきれないものは一人だけ。
『来訪者:お父様』
「はぁー………」
生活感こそ薄いものの、そこに住む者に一切の不便を感じさせるものかと、ある種の執念すら感じる利便性で満たされた部屋。
各所に仕込まれた投影装置で構築されたMRによる立体映像が来訪者の名と姿を映し出す。
分かってはいたが、その人物の姿に紗音は芝居がかった長く、大きなため息をつく。
疎ましいと思うことはあれど、憎らしくは思えないのは肉親の情か。扉の前で襟を正すその男に紗音は入室の許可を出した。
「どうぞ」
にっこりと、微笑を浮かべながら来訪を迎える。
扉が開き、優しげな笑みを浮かべた壮年の男が部屋へと入ってきた。
「ああ紗音、今日も元気そうだ……」
「ええ、お父様……今日は調子、いいの」
僅かに途切れがちな喋り方。それがわざとなのだと、父は気づきもしない。
それが愚かと紗音は笑うことはない……なにせ、それは紗音の目論見が正しく成功していることに他ならないのだから。
「ごめん、なさい。お父様……」
「何を謝ることが! 紗音、私は……いいや、私だけじゃあない。きっと天国のお母さんもお前が生きていてくれるだけで、それだけで……!」
「………そうです、か」
表情は仮面の如くに固めることができる……が、心の蠢きだけは如何ともし難く。果たして、紗音の右目が一瞬揺れたのを本人ですら認識できなかった。
それと同時、こちらは紗音自身が認識できた崩れかけの口調をなんとか取り繕う。
幸い、父はその綻びに気づきはしなかったようだと紗音はほんの少しだけ安堵の息を漏らす。
「お父様、今日は、どう…されたの、ですか?」
辿々しくすっとぼけながらも、既に何を言い出すのかおおよその見当はついている。
「……今年も、クリスマスの集まりに出るのは難しいかい?」
「………ごめん、なさい。やっぱり……怖い、わ」
「そうか…………」
僅かに目を伏せ、悲しげに眉を曲げるその姿。
まるで娘の反抗期に心を痛めてしょげているこの男が、彬茅コーポレーションという名の大いなる船の舵を取るトップであると誰が思うだろうか。
「いや、無理をするものではない。そうとも、ゆっくりでいいんだよ紗音」
「……………」
「大丈夫、きっと元の体のように動けるようになるとも。大丈夫さ、紗音……」
紗音は儚げに笑いながら、ぎこちない動きで父の手を握った。
◇
部屋を出て行った父を見送った紗音は、儚げな「病床のお嬢様」の仮面を取り外す。
意図的に「引いて」いた血の気が戻り、ベッドの傍らに置かれていた携帯端末を紗音は淀みなく滑らかな手つきで持つ。
「……ピグマリオンめ」
ぼそりと呟いたその言葉に、一体どれほどの感情が込められているのか……それ知るのは本人のみ。
まるでペン回しの如く、携帯端末を指の動きだけで踊らせながら紗音は口の端を歪める。
それは先ほどまでの儚げで、どこか申し訳なさげで、そして怯えの混じった微笑とは真逆の笑み。
「こんなこと、できた覚えはないんだけど?」
ひょい、と紗音は中指だけの力で携帯端末を宙に放り投げる。
クルクルと、回転しつつも落ちてきたそれを………
「これが? 元通り?」
人差し指の上。
トン、と着地した携帯端末は倒れないまま立ち続けている。
自らの手指でそれを為したことに、紗音は笑いながら人差し指を動かす。途端にバランスを崩した携帯端末は床へと落ちていくが、最早紗音は気にも留めない。
「VRシステム、再起動」
もう"ここ"に用はない。
"ここ"でやるべき事、なすべき事、それらはもう何も無くなってしまった。
今の彬茅紗音にとっては、このベッド型VRシステムと……充電だけできればそれで事足りる。
「ほんと、しょうもない」
横たわり、目を閉じる。
眠り、夢を見るのではなく……目覚め、現実を生きる為に。
十全の「ディープスローター」として、好きなように生きる。それだけが───
いや、今の彼女は少しだけ欲張っている。
「嗚呼………」
意識が沈み離れゆく寸前、ディープスローターは笑う。
「私のものになって、サンラクくん」
奈落だって天国になる。
カル◯スは薄めてもカ◯ピス
人は?




