幕間20〜23':第一回ツチノコ杯受付はこちら
しばらく掲示板回といったな、あれは嘘だ(苦し紛れの「’」表記)
旧大陸と新大陸を隔てる断絶の大海。
これまで数多の船乗りが目指す先を塞いできた大いなる海。
船をも呑む巨獣、荒れる海模様、そして極めてシンプルな新大陸に辿り着くまでの距離。
それら全ては文字通り物量でねじ伏せた超巨大船舶、新大陸調査船の完成によってようやく乗り越えるに至った。
だが今、異端の造船技師ノーマンによって開発されたそれは、隔絶の大海を越える新たな答えを提示した。
それこそが「征海船」。調査船とは全くの真逆、ただ最短最速で新大陸まで最小の人数を運ぶというともすれば前提からして間違っている、としか言いようのないものだ。
未開の地、それ故に資材がいる、道具がいる、人手がいる。だというのに、人を数人乗せるくらいしかできない小舟など!
かつては「くだらない戯言」とまで罵倒されたその設計は……しかし、何よりも海を越えることを熱望した開拓者達こそが強く支持した。
───積荷? ンなもん開拓者自身に持たせりゃいいだろ。船内にベッド置くスペースがあれば餓死は大した問題じゃねえし……
───そもそも資源も食い物も現地調達すりゃいいだろ。
───いいねノーマン君、この船のコンセプトはすごくいい。是非に出資させてくれ。
───動力源? ああそれなら今手持ちにダブついてるのがあるからそれ使っていいよ。
───俺が何者かって?
───宝石成金、かな
かくして、最もリソースをつぎ込まれた試作征海船の完成によって、その設計の正しさを証明したノーマンのもとには多くの開拓者が詰め寄った。
アレは自分達でも使えるのか?
否、
アレは俺たちでも造れるのか、と。
◇
「はい、じゃあここにサインしてね」
「せ、誓約書? ゲーム内で書くもんじゃねえだろ……」
そのプレイヤーもまた、とあるプレイヤーが12月20日に発した「檄文」によって新大陸行きを志した者だった。
だが、新大陸調査船は大陸間の航行に時間がかかりすぎる。今から最速で乗り込んだとしても、「Xデー」には間に合わない。
半ば諦めていた彼の耳にとある噂が入ったのは……厳密にはプレイヤー達が意見を交換し合う掲示板でそれを見かけたのは「檄文」が放たれた次の日であった。
───大陸間を一日以内で横断する船がある。
それは今の彼にとってはまさしく文字通りの渡りに船。
だが、ほんの少しだけ疑念もあった。新大陸調査船というNPCが建造……いわばゲーム運営が「これを使え」と作った船ですら一週間はかかる航路を、たった一日で渡る手段がある。冷静に考えれば実に胡乱な情報だ。
しかしながら彼が辿り着いたフィフティシア裏町の港には、確かに少なくない数のプレイヤー達が集まっており、港には………
「船、ちっさくない?」
現実で言う小型クルーザーよりも若干小さい、ものによっては小舟と言っていいほどに小型の船が並んでいた。
「これで新大陸に? 冗談だろ?」
「いやいや、大マジよ」
サインされた誓約書を受け取った「ブラックカーテン」と名乗る眼帯の男はニコニコと笑みを浮かべながら、一見してただの小舟にしか見えないそれらについて説明する。
「こいつは征海船って言ってな、まぁ見ての通り調査船と比べたら象と鼠くらいサイズは違うが……その代わり、定員以内なら平均……おーい!アベレージいくつだった!?」
「試走なら三時間ー!」
「じゃあ本番は…………ま、少なくとも朝飯食ってから昼飯時までの間に新大陸に行ける」
「マジかよ」
もはや一日すらかからない、という言葉に男は半信半疑ながらも驚愕する。あるいは、船出と見せかけて転移魔法でも使うのでは、と勘繰るがそうであるならばもはや一時間もかかることはあるまい。
「えーと?今定員が空いてるのは………あー…………CCSと深界か………………可哀想に……………」
「え?」
「ああいやなんでもねぇ、征海船は発案はNPCなんだがそこに結構な数のプレイヤーが便乗しててな。あの並んでるやつも大体プレイヤーメイドってわけよ」
成程、とブラックカーテンから説明を受けた男は港に並ぶバラエティ豊かな征海船を見渡す。
戦艦、と呼ぶにはあまりにもおこがましい小型船ではあるが、しかしそれぞれが武装しているのはやはり新大陸までの航路に出現するモンスター達の脅威故か。
「征海船は動力に結構な高級品を使ってるんでな、ああ見えてどれもかなりの速度でかっ飛ばすだろうよ………………あー、なんだ兄ちゃん。あんたの乗る船が決まったぜ、一番奥にある深界5号だ」
「分かった。色々説明サンキューな、黒幕さんよ」
そう言って指定された征海船へと歩いて行ったプレイヤーを見送りながら、ブラックカーテンは小さくため息をつく。
「かわいそうに……キャンディ・キュート・シップの船よりかはマシだが」
きっと今頃、懇切丁寧に「お前が死ぬ方法」を教わっているのだろう。恐らく、他の船でも似たようなことをしている。
「見てる分には面白いんだがなぁ……」
うーむ、とブラックカーテンは「黒幕」と言うよりかは中間管理職に近い今の己を顧みて唸る。
ブラックカーテンがこのシャンフロで何をしたいかなど、名前を見れば一目瞭然。偶然ツチノコさんが征海船の量産のためにプレイヤー達に動力源の供与を行っているところに一枚噛む形で関わりを得たものの、やはり最終目標は己を発端として己が主導する何か大きなことを成し遂げたい。
「まぁいいさ……下積みを経て俺はデケェ事件を起こす黒幕になる!」
ブラックカーテンはまだ気づいていない。
サンラクと関わりを持ち、その力を利用しようとすれば自然と【旅狼】最凶の黒幕と衝突事故を起こす、という事実を………
本当はレース描写も入れるつもりだったのに事前描写だけで普通に2000字超えた……
「えー、ではね。この砲塔なんですがあなた方を弾丸としてぶっ放すことで他の船に妨害工作を行います」
「なんて?」
「この船は速度に特化していて普通に固定してないと乗員吹っ飛んで海に落ちるけど、他の船からの攻撃を防ぐために命綱無しで甲板上を移動してもらいます」
「えぇ………」
「船内に呪殺用アイテムを設置してるのでこれを使って敵船に呪いを仕掛けてね。自分の首を掻き切ってHPを全部吸わせると起動するよ!」
「ちょっと待てい!」




