12月20日:窮地にこそ脱力を
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アラドヴァルと皇金剣による二刀流。
両方とも刀身が長めであるが故に若干持て余し気味だが、そこはステータスの増強で補う。
斬る、というよりも叩き割る……いやむしろ反発を前提に殴る感覚でガル之瀬に攻撃を叩き込む。気分は太鼓をぶっ壊すまで使い潰す感じ!
「その盾叩き割ってミンチにしてやるよ!」
「……割れるものなら、な!」
タワーシールドは鈍重だ、片手で扱える盾のように軽々と振り回すことはできない。だからこそ、機動力で撹乱して背後を突けば防御を突破できる……それがこの手の防御キャラの突破法だ。
だがガル之瀬の場合、そのセオリーが使えない。タワーシールドで防げる範囲を熟知している、何よりタワーシールドで防げる範囲の「動かし方」を理解している。
身体を盾の後ろに入れる、盾を動かして防げるようにする。そして何より奴自身が防御キャラとしての欠点を理解しているからこそされて嫌なことへの対処に長けている。
思えば初手の肘パリィもこっちの手を読んでいたんだろうが……読んでいたからといって肘で弾くのはそれができるテクニックが大前提だ。
故にこいつの防御を突破する方法は……奇しくも文字通りに一つだ。
ド突いて破る、真正面から防御を叩き割るしかない。
こちらの攻撃を受け止められるなら上々、ただし回避だけはさせない。五分でリソースを削り斬る!!
「輝き砕け……」
「っ!」
皇金剣が輝きを増し、その光にガル之瀬が盾を構える。受け止めたいならお望み通りに。
「刃糧煌剣!!」
輝きが炸裂する。衝撃を受け止めた盾、それを構えるガル之瀬が衝撃を盾で食い止めつつも後退する。
砕け散った刀身、皇金剣にインゴットを食わせて再装填。
「輝き砕け! 刃糧煌剣!!!」
即、ぶっぱ。
いっそ笑える勢いで砕ける刀身、再び輝きが膨れ爆ぜて追い討ちと呼ぶには必殺に過ぎるダメージ判定が再びタワーシールドに叩き込まれる。
「……っ!」
再装填。
実のところこれ以上刃糧煌剣は使えない。刃の展開に耐久度を使う以上、多用すれば皇金剣そのものが壊れてしまう。
耐久度を見るにあと二、三発は撃てるが……そろそろこちらの狙いを勘付かれた気がする。武器破壊にシフトされて壊れたら流石に泣ける。
「だが人ひとり分のダメージくらいなぁ!!」
スキル「虹光の斬閃」を二刀に宿しながら、一歩踏み出す。
スキル「多重的円周運動」と「畢竟雲耀」の重ね技。一歩踏み出すと惑星軌道で回避する技と、最初の一歩を稲妻の如き神速にする技を組み合わせれば人力の瞬間移動と化す。
後ろに回り込まれたことを察知したのか、盾の取り回しと自身の立ち位置変更を同時に行うことで最速の振り返りを実現したガル之瀬にアラドヴァルを振り下ろす。
「まだまだァ!」
追って皇金剣。さらに続けてアラドヴァル、叩きつけられる攻撃は繰り返される度に炸裂する衝撃が増えていく。
「盾を破壊するのが狙いか……!!」
「この対人は不可逆だぜ……!」
装備は砕ければ元には戻らない、ついでに言えばHPがゼロになって負ければ装備はその場にぶち撒けられる。俺は相手が配信者でも躊躇わずに我が物にするぜ?
これは最後通告だ、ここで退けば装備は勘弁してやる、という意味を込めたメッセージ。だが心のどこかでは、こんな示談を突っぱねてほしいという気持ちもあり───
「……受けて立つ」
踏み込まれた一歩に、俺は隠すことなく笑みを浮かべた。
◇
───相手はケリをつけにきた。
ガル之瀬はそう直感した。アレが手の内の全てであるのかは分からない。だが、サンラクの言葉を信じるとするなら「五分で決着をつける」だけの手札を切ってきたのだろう。
(武器破壊……随分と対人仕草じゃねぇか)
挙動も、針の穴のような油断を突く際の火力もボスMobのようなくせして、姑息な立ち回りをするんじゃねえ、とガル之瀬は心の中で毒づく。
受けることはできる、弾くこともできる。だが避けられない、いなせない。
(タワシの耐久力は全武器種の中でもダントツで高い、そうそう壊れることはない……が………)
ガル之瀬の中に戦闘開始時からずっと残っている不安要素。サンラクという人物について探る中で度々出てくる「超火力の拳」の存在。
プレイヤー最速のレコード称号を持つプレイヤーでありながらも、ともすれば最大の火力にも届きうるのではないか、とされる砕撃。それが実際プレイヤーの中で何番目のダメージなのかはこの際どうでもいい。要点は、それが人間に向けられた時に防御可能であるのか、という事だ。
プレイヤー最硬の【最大防御】とサンラクの交戦記録は見つからず、何より「サンラク伝説」の大半が対モンスターであることも、ガル之瀬の懸念を消しきれない理由だった。
使ってくるのか? 使われたとして、耐えられるのか?
その懸念はどれだけ前のめりの戦法になろうと抜けない棘のようなもので。ガル之瀬が残機を盾に攻める選択肢を選べなかったのも、残機というアドバンテージを一撃で潰しかねないそれを警戒したからこそであった。
が、
(まぁ、なるようになるだろ)
残機1。
命は助かったとて無力になることは確定。
現時点でスキル魔法の大半を使えなくなっている。
プライベートならとっくに諦めている状況、なんなら今のような配信中であっても「捨て周回だな」と割り切ってしまうような状況。しかし負けを認める気にはならない、半分諦めて半分足掻いているような今現在。
だからこそ、ゲーマーからすれば「あるある」と言える程よい脱力と狭まった視界の解放が、今のガル之瀬にさながら健闘の報酬が如く齎されていた。
「しつけぇ……っ!」
「それは……!」
ヒット数が増えているのか、受け止める度に衝撃が増していく。
一度の激突に対して五度、六度と衝撃が増しているのだから、受ける方からすれば袋叩きと大差がない。
「こっちの……!」
だが、長剣二刀流。どれだけコンパクトに取り回そうとも、どうしても生まれる間隙は確かに存在する。そして、その一瞬を突くのがガル之瀬の選んだ戦いのあり方。
「台詞だッ!!」
それだけ速度に特化してるなら体力面は妥協してくれ、あらんかぎりの想いを込めたメイスがサンラクを捉えた。




