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斜陽 其の三


───産声とは、悲嘆と苦痛の叫び




無尽のゴルドゥニーネ、あるいはこれまであの(・・)ゴルドゥニーネと呼んできた世界最強の爬虫類。ジークヴルムは多分爬虫類ではないだろう……多分。


「なん、え、何……」


「大ボスだよ! 死にたくないなら、死なせたくないなら死ぬ気で時間稼げ!!」


頼むぜ特務用! 最新鋭たるエアリアルPDの銃口を突きつけ、間髪入れずに射撃。幕末仕込みのクイックドローだ、願わくばヘッショでくたばれ……! だが放たれた弾丸は奴の額に当たるよりも先に虚空から染み出すようにして現れた毒々しい紫の球体が受け止めてしまう……今なんかジュワッて音したな。魔力弾丸の筈なんだが……


「さぁて……アップデートはちゃんとしてるのか? 今の俺は言うなればバージョン5.06……!」


コンマ刻みで頻繁にアップデートするゲームはワンナウト、アプデ項目がクソ程長いのはツーアウト、その殆どが修正項目だったらスリーアウト。人生哲学だな、本当に良いものは最初から殆ど完成しているものだ。


あえてウィンプの名は呼ばない。サミーちゃんの完全ステルスはウィンプ陣営の切り札だ、ここから離脱できていればいいんだが……難しそうだな。


「なん、何!? 何なのよ!!」


「体幹立て直せ王我星! んでもってお前もいつまで這いつくばってんだシユー! あれが「無尽のゴルドゥニーネ」だ、せめて十分持ち堪えてから死ね! じゃないと死ぬのはお前らの隣にいた奴らだぜ!!」


さぁてどうしようか、笑っちゃう程に不利だぞこの状況。

地鳴りは止まらず、木々は薙ぎ倒され、馬鹿でかい鱗に包まれたリニアみたいなのがぐるぐると俺達の周りを這いずっているのが遠目に見える……これもしかしなくても包囲されてんな?


「懐カしい不愉快な顔……」


「脂もノリもノッた鮭なんだがな」


無尽のゴルドゥニーネの攻撃パターンはジェネリック剣聖だ。毒を虚空に生み出しそれを変形させて遠隔攻撃を可能とする、遠隔攻撃一つ一つに違う能力を載せられる剣聖と比較して拡張性こそないが攻撃の全てが致死性の毒なので凶悪度はこっちの方が上だ。

以前、ラビッツの地下で戦った時は当時の強さであったとしても俺、レイ氏、秋津茜の三人で挑んで殆ど歯が立たなかったような奴だ……


目の前には無尽の……えーと、ボスドゥニーネが一人。そしてその背後に龍蛇が一体。残る三体は? 特設フィールドの外縁部と化した龍蛇は一体……残る二体はまだ潜伏してるのか? 時間経過で増えるならまだマシだが最悪のパターンは奇襲された場合だ。


「ん? どうした、随分と兄弟が少なくなってるじゃないか……寝坊か?」


「ふ、フ、ふ……」


遠く、地響き。蛇どもによって木々が薙ぎ払われた事で視界の開けた方へわずかに視線を向ければ、そこには前線拠点方面にニョキっと顔を出した龍蛇……よーっしゃ! 奇襲の可能性半減ァ!!


「へっ、猪口才な真似を……」


()が、コの手デ摘ンデあげるワね? ()も、()も、オ前達も」


おっと凍えるような殺意だ、だがそんなものはこの俺の燃えたぎる灼熱のモチベーション名前では焼け石に水、重複したバフ、ライオットブラッド飲んだ後にエナジーカイザーってな!!


野生闘気(ワイルドオーラ)……大猿(コング)!!」


「え、あう、ハ、「ハッスル・ルーティーン」!!」


ここでようやく王我星とシユーもこれが後ろに引けない戦いだと理解できたらしい。三方向からボスドゥニーネを囲むような布陣でそれぞれが戦闘態勢を取る。


「ゴルドゥニーネの攻撃パターンは主にあの龍蛇(ナーガ)と毒による遠隔攻撃だ。毒は麻痺付与と猛毒付与の二種類……あと毒が黒くなったら逃げろ、「呪い」が付与される」


「分かった」


「え、なんて、あの……」


すまん王我星、ぶっつけ本番だ。解毒薬を握りしめとけ!!

封雷の撃鉄・災を起動し、一気に加速する。

奴の毒弾は変形するまで何の形の攻撃になるかが全くわからないクソ技だ、覚えている限りでは「手」「剣」「槍」「爆弾」の四つだが……やはりユニークシナリオEXの発生でフラグが進行したのか、展開された毒球は見たことのないパターンに変形した。


「ひっ」


おっと王我星、ホラー耐性は無かったらしい。スプラッタ入ってる系のアクション映画は範囲外か?

毒球からずぼっと両腕が飛び出し、そして球体部分が毒を滴らせながら人間の上半身の形を取る。女性の形をしている……が、下半身のない毒液で出来た人間の上半身が空中に浮いている光景は、控えめに言ってホラーの類だ。ていうか一体一体微妙に造形が違うのはどういう、いやもしかしてそういう(・・・・)……


「チッ」


エアリアルPDによる射撃、だが上半身だけの毒乙女達が───どういう推進力なのかは知らないが───弾丸からボスドゥニーネを庇うように射線上に飛び込んでくる。着弾と同時、毒乙女のただでさえ辛気臭い顔が更に苦痛で歪む。


「悪趣味が過ぎる!!」


痛みを受けた毒乙女が憤怒の表情で俺へと殺到する、そんなデス・ハグを食らっても嬉しかねぇよ!

要するに何だ、攻撃反応型のホーミングか!? 触れると破裂する毒爆弾が近距離殺しならこっちは遠距離キラー……!!


「あぶないツチノコさん!」


「いいや、好都合(・・・)だ」


さらにエアリアルPDを撃ち続け、もう片方の手にFF(フィンガーフリック)-45を展開して射撃!!


「来いよポイズンガール、秒単位でフラグ管理してハーレムエンドにしてやるよ!!」


毒球は基本的にこちらの行動に反応する形で変形する、つまり俺が出現する毒球を全て毒乙女(対遠距離)にして引きつければ他二人に攻撃の目が出る!!


ゴリラオーラとしか形容できない謎のゴリラ型の闘気を纏ったゴリ・サピエンスであることを突然カミングアウトしたシユー氏の細腕(剛腕)がボスドゥニーネへと叩き込まれ───


だが、


()を、殺スの?」


「っ!!?」


「ちょっ」


なんで攻撃キャンセル!?

拳が当たる直前で動きを止めたシユー氏がボスドゥニーネの張り手(ビンタ)でギャグ漫画のように吹っ飛んでいく……そうだね、あの見た目で中身はボス性能だから余裕で岩とか持ち上げるよあいつ。


「チッ……! 王我星! いつまで突っ立ってんだ!!」


「え、あぅ、あ……」


「動ケないノ? ふフフ、なンの為にコこにいルのかシラ? いる意味ガアるのカしラ?」


「きゃあっ!?」


使えねぇ、と思わず呟きそうになった口を理性で閉じた事を誰か褒めて欲しいもんだ。フルダイブは要するに思考の世界、油断してると思ってることを全部口にしてしまう。

張り手で吹っ飛んだシユー氏と胸を軽くこづかれただけで木に激突した王我星を一旦忘れて俺は俺で襲いかかる毒乙女への対処に動く。

銃はやはり決定力に欠ける、銕刀【廻渦白波】を構えて殺到する毒乙女の数と動きをじっと見つめて……数、五。多少のズレはあるが一直線に迫る素直なホーミングだ。


「変則見様見真似(なんちゃって)壬生狼一刀流!」


たかだか五人で幕末志士を止められるかよ、俺の自己ベストは二十五人!! 直線軌道で迫る五人組なぞ朝飯前どころか寝起きに身体起こすより容易いぜ!!


乱戦貫し(みだれとおし)……天誅カスタム!!」


幕末におけるパッシブスキルの一種、連続攻撃の動きを最適化する「乱戦貫し」を幕末プレイヤー達が勝手に改良した「直線上に多人数が迫ってきた際に全員斬り捨てて駆け抜ける攻めの逃走手段」として編み出したムーブ!!


一体目を大上段に斬り捨て、すかさず刀を逆手持ちに。

そのまま引き抜くように腕を抜き放って二体目を逆手持ちの刃で断つ。

その動きを止めることなく一回転して三体目を横一閃の回転斬りで断つ。

そしてその瞬間に回転を無理やり止め、右手で逆手持ちした刀を支えるように柄尻に左手を添えて……


「〆は団子天誅!!」


押し込む! 四体目を貫き、その勢いのまま五体目の胴体にも刃を埋める。

すなわち団子の如く複数人を串刺しとする天誅の基礎! 団子天誅はこっちが本来のものであって、断じて団子の串を投げて目を撃ち抜く事ではないのだ。

縦に斬られ、斜めに斬られ、横に斬られ、串刺し×2……五体の毒乙女が断末魔と共に形を保てなくなったのか地面にベシャリと落ちて毒の溜まりと成り果てた。


「成る程、爆弾型との違いは個別の体力ゲージか」


ダメージ補正のない【廻渦白波】で削り切れるって事はそこまで苦戦するものでもないが、ホーミングがウザい事に変わりはない。


「さぁどうする? 今の俺はあの時とは違う……言うなればバージョン5.08、今この瞬間に0.02アップデートされた常に最新を行く男……」


「意味の分かラなイ戯言にハ付き合ワないワ……そレに、」


───今から強くなるのはお前だけじゃないわ。


その言葉に俺が覆面の下で眉間に皺を寄せるのと同時……空から何かデカい質量が落ちてきた。見上げればそこには四体目の龍蛇……何故か俺を情熱的な(殺意剥き出しの)熱い眼差しで見つめているが……なんだろう、心当たりがない。


だが問題は恐らくこの四体目が空から落としてきたのだろうモノ(・・)だ。


「ガ……はっ、ひゅ……っ」


「こ、ン 、に、ち、ワ」


「ヒッ」


大きな質量の方の正体は……首のない蛇の亡骸。龍蛇と戦う中で首を噛み千切られたのか、恐らくヒュドラや八岐大蛇みたいな首が大量にあるタイプの蛇だったのだろうが今となってはただの多頭蛇の付け根(・・・)だ。

そしてその蛇の亡骸の近くで地に這いつくばっているものが、こんなモノを上から叩き落とした理由だろう……


「アぁ、嬉しイ……嬉しいワ。これデまた一匹、()が消エる、私な()を、私ガ!!」


無尽のゴルドゥニーネ。尽きる事なく「ゴルドゥニーネ」が増え続けるなら、とっくに新大陸はアルビノ美少女で埋め尽くされているだろう。

何割かは自然環境の礎となったのかもしれない、だが何かしらの生き汚なさを持つゴルドゥニーネがこうも数が少ないのは何故か。


「さヨなら、不愉快ナ()


「待ッ───」


ボスドゥニーネが哀れな「ゴルドゥニーネ」の頭に乗せた手からどす黒い毒液が溢れ出す。恐怖の表情も、命乞いも、あるいは断末魔の嘆きすらも悍ましい毒の中に消えていく……


ぐじゅ、とおおよそ健常な肉体から出るはずのない音が黒い毒の中から聞こえてくる中で、もはや隠すことも忘れて恐怖に引き攣ったこの場にいる二人のゴルドゥニーネに恐るべき蛇は笑う。


「次ハどっチにしよウかシラ?」

・同族喰らい

禁忌。(いわ)んや、己が己を喰らうなど。








ついにコミカライズ「シャングリラ・フロンティア」の第一巻が発売致しました。大魔道士(ウィザード)級漫画家である不二涼介先生によって極めて高品質に出力されたコミカライズシャンフロの世界を、皆様もぜひお手に取ってみてください

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― 新着の感想 ―
シユーの動きが止まったのって ゴルドゥニーネお嬢の契約印のせいでは?? それか、単純に好みの容姿で殴れないか
無尽蔵に増えて自分でくう地産地消かよw
なんかすごい戦いしてるけどあなた期末考査の前日ですよね?
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