アルコール抜きカルーアミルク
とりあえず状況を纏めよう。
えー、まず渾身のサムズアップでこっちに酒の入ったグラスを滑らせてきたサバイバアルにグラスをリリース。
「おいウィンプ、忘年会をやるなら先に言えよ」
「しらないわよ!!」
「よし分かった、そこで踏ん反り返ってろ」
おお、流石はサミーちゃんさん。自身が威嚇することでウィンプから注意を逸らしている、あの職人芸が如きアシスト性能は俺も見習うべきか……さてと。
「そこのマッチョ、注文は座ってから言いな」
「え?あ、あぅ、えっと……はい。ウィスキーをロックで……」
「申し訳ありません、ウィスキーは品切れでして……カルーアアルーガルゴートミルクのリカー抜きは如何でしょうか?」
「えっ、あ、あの、はいっ、それで!」
アルーガルゴート、は多分モンスター名なのでそれを取り除くとカルーアミルク、でそこからリカー抜きなので要するにコーヒー牛乳では?
明らかに中身がこの場にいる誰よりも若そうなマッチョ大男……おうわれぼし? ちゃんさんが根暗そうなゴルドゥニーネと共にカウンターに座った事でとりあえず一人目のゴルドゥニーネを鎮圧完了。
「カルーア……カルーア……なんか、特別な飲み物って感じがするわ……!」
コーヒー牛乳だよお嬢ちゃん。
あとウィスキーをボトルごとこちらに滑らせてきたプレイヤーがサバイバアル達にそっと店舗裏に連れて行かれていた。恐らく実在性に昂る方のロリなコンの人なのだろう……あ、打撃音。
「う……うぅ……」
「……ふぅん」
ウィンプやサミーちゃんさんを見てビクビクしている根暗ニーネは本質的にウィンプと同じクソ雑魚タイプのように見えるが、ウィンプは泣き喚くがこいつはウチのヘタレとはどうにも毛先が違うように見える。
こっちはなんと言うか、ストレスに耐えきれず吐きそうな感じがする……外的刺激じゃなくて自身の精神的な負荷で削れるタイプ。
分かりやすく言うなら「びっくりさせられるからホラーゲーが嫌い」なタイプと「暗闇に一歩踏み込むだけで拒否反応が出るからホラーゲーが嫌い」なタイプの違いだな、前者は口で言う割に普通にホラーゲーが出来るが後者はガチでショック死しかねない奴だ。
こういうのはとりあえず放置、向こうから動くようにしないと拗れる。暴走系キャラだとよくある、話しかけると暴走するやつな。
いつだったか鉛筆が「トイレ限界まで我慢してる時に誰かから話しかけられるとヤバいけど自分から話しかける場合は耐えられるタイミングだからイケる、みたいだよねぇ」とよく分からんが何故か分かる例えをしていたっけ。お前暴走させる側じゃん、って言ったら自爆させられたけど。
さて問題はこっち、バリバリ臨戦態勢なペアだ。無人島で二ヶ月くらい生き延びました! みたいなボロ装備の優男と、なんか自虐的な目をしたゴルドゥニーネ……こいつらはもうダメだ、トイレが限界だ。いやトイレは関係ない、ちょっとつつくだけで戦闘開始になりかねない。
「……ふっ」
だが俺を誰だと思っている? 百戦錬磨のクソゲーマー様だぜ、戦闘突入かと思ったらイベントシーン突入なんてシチュエーションはハイランダーでデッキが組めるくらい体験済みだぜ。
「マスター、そこのマッチョメンと同じものを俺にも」
「かしこまりました」
「おいおい、ここは食事処だぜ? 殺気と武器は懐にしまっておくもんだ」
決まった……
「待っ、せめてこの場にいさせてくれっ!」
「煩ぇ! 現世にしがみつくなロリ魂! 冥界に帰れ!」
「アンタに言われたかねぇよサバさん!」
「おい塩持ってこい塩!」
「サバさん! あったよ岩塩!」
「おっしゃ死ねやオラァ!」
台無しだよ馬鹿野郎。
性癖蛮族共による身内の粛清でにわかに血生臭い感じに騒がしくなった喫茶店内、これで「平和」を名乗るのはちょっと無理があるので世界観側の存在であるゴルドゥニーネ(ウィンプよりしっかりしてそう)ではなくリアル側のプレイヤー……「シユー」氏へと矛先を切り替える。
「あー、バカ共は気にしないでいい。本質的に男子高なだけだから」
「……そう、ですか」
あれ? なんかこう、もう少しフレンドリーな感じで進むと思ったんだがこっちもこっちで臨戦態勢だな? 世界観重視のロールプレイヤーか?
「俺は……まぁ頭の上を見れば分かるだろうけどサンラクだ」
「あぁ……すいません。僕はUIを非表示にしているので……」
「何?」
UIを非表示にしている? それはつまりプレイヤーの名前が見えないだけではなく自身のHPやMP、果てはスタミナまで非表示になるということだ。
縛りプレイや趣味としてそれをやる奴はいるだろうが、このシユーという男はそういった手合いとは違う雰囲気を感じる。これは……ナチュラルにやってるタイプだ。
「へぇ……聞いたかサバイバアル、UI縛りでお前戦える?」
「孤島と似たようなもんだろ……って言いたいところだが、新大陸でそれが出来るなら大したもんだ。あとこれ……」
「だから自然な流れで賄賂を渡すな」
このゲーム、UIを非表示にしてもウィンドウが開けないってわけでもないので実はそこまで困らないが、それはそれとしてあった方が便利なのは事実だ。
必死こいて樹海を抜けてもそこそこ地獄絵図な新大陸でそれを貫き通しているなら、サバイバアルの言った通り大したものだ。
と、シユー氏が俺をじっと見つめながら口を開く。やはりその眼差しはゲーマーとしての色よりもロールプレイヤーとしての色が濃い。
「……君は、」
「ん?」
「君は……彼女と、契約しているのか?」
契約? 契約…………ん?
「おいウィンプ、契約って何?」
「あんたにかみついたのにはじかれたやつよ」
ああ、「呪い」の事か。
「五秒前」
「え?」
四、三、二、一……スパァン!!
「見ての通り先客のせいで契約はキャンセルされちまってな、どっちかというと……保護者?」
俺の言葉に、問いかけたシユー氏ではなくウィンプ以外のゴルドゥニーネ二人が「マジかこいつ」という眼差しを向けてくる。
……俺、なんかやっちゃいました?
十番以降の個体からすればサンラクは「あの」ゴルドゥニーネとほぼ同格の存在相手に生意気言ってるのに何故か生かされてるようなものなので




