居心地はネカフェの個室くらい
むしろ筆が進む現象
精霊、それはともすればキメラ以上にメジャーな、それこそドラゴンや天使悪魔といったファンタジーお約束連中と肩を並べる超大御所種族だ。
精霊と言っても様々な種類があるわけだが……まぁメジャーどころで言えば火、水、風、土の四属性関連の精霊やランプの精などに代表されるアラビア的精霊ことジン、エクスカリバーと名のつく剣は結構な確率で「湖の精霊」とか出てくるな。
ゲーム、というか設定を考えた人の定義次第で実態があったりなかったり、人外じみていたり「それただのコスプレでは?」みたいな姿だったり。
逆に元ネタの設定に忠実にしすぎて薄汚いトカゲにしか見えなかったり……酷い時はサラマンダーの代わりにイフリートが火の精霊扱いされていることもある。そいつヨーロッパ圏の出身者じゃないぞ。
まぁ他ゲーの話はここまでにして、だ。シャンフロの世界における精霊とは、極めて簡潔に言ってしまえば「意思持つ竜巻」だ。
無差別に被害を撒き散らす、と言う意味ではなく「特定の属性が一定量固まったものに自我らしきものが宿った存在」がこの世界では精霊として定義されている。
竜巻と例えたのもこの性質によるものだ、精霊は生命体ではなく言ってしまえば魔力が溜まった場所に自我が宿ったもの……つまりある程度時間が経つと霧散してしまう。あたかもエネルギーを使い果たした竜巻がほどけて消えるように。
それに自我といっても人格と呼べるほどご大層なものではなく、かろうじて自分とそれ以外の区別がつく程度の幼稚な自我らしく、大抵の精霊は後先考えずに力を使って消えてしまうか、何をすればいいのか分からないまま無為に力を使い果たして消えてしまうそうだ。
とはいえそんな、なんちゃって自然災害に精霊というビッグネームを与える程シャンフロの設定を考えた奴も馬鹿ではない。
蛍や蝉よりも儚い生態をしている精霊だが、ごく稀に人格と呼べる確固たる自我と、周囲の魔力から自身の属性と同じものを取り込む事でその存在を固定できるモノが現れる。
むしろプレイヤー達からすればそいつらこそが「精霊」と言えるだろう。意思持つ自然現象、自我を獲得した属性の塊、言い方はなんでもいいが時にそれはボスキャラであったり、ユニークシナリオに関わるNPCであったりする。
「で、そのイガグリ電通ってのは?」
「イグジステンツ、だ。力ある精霊ではないもの……強き力を得られなかった精霊が消えてしまうのは知っているか?」
「知識としては」
「そりゃあアタシが今さっき説明したからですわ……」
悪いね、攻略サイトはそこまで熱心に見てないんだ。
「鉱人族達はそこに注目したんだ。己の身体を維持するだけの力がないのであれば、こちらから器と糧を与えてやれば良いのではないか、とな」
「それが育児ステイツ?」
「存在を得た者達だ! サンラク、もしやわざとやってないか?」
「まぁそこはどうでもいいだろ、続けてくれ」
苦虫を噛み潰したような顔をするアラバではあるが、こいつは俺に三つ四つは恩があるから強くは言えないらしい。尤も、俺個人としてはシャチ野郎の時に助けてくれたことで全部チャラにしてるんだがなぁ。
「彼女もまたそういった精霊だったんだ。自我はあったが自ら魔力を得る術を覚えられず、消えかけていたんだぞ」
コクコクと頷く青い肌をした、彼らの話が事実であれば言い方は悪いがクズ精霊であるはずのネレイスとやらからは今にも消えてしまいそうな危うさは感じられない。
肌も髪も目も、何もかもが青みがかり羽衣のように妙に向こう側が透けない水を纏う事で衣服の代わりとしている姿は中々に刺激的ではあるが、時折グニャリと全身の輪郭がブレる姿や、彼女の髪や手足の末端が時折人の輪郭を崩して液状化する様は彼女を構成するのがタンパク質ではなく水と魔力である事を示している。
「あー、なんとなく察した。それを放っておけないと何とかしてドワーフの所にそいつを運んで、武器の中に封じ込めて……いや、合意の上っぽいし住んでもらった、と。大体こんなところか?」
「君は、俺達をずっと昔から見ていたのか……?」
「んなわけあるかい」
ボーイミーツガールに諸々の要素を混ぜたら大体こんな感じだろうな、という勘だ。
「話を聞くにその刀には精霊が宿っており、使い手が魔力を与える……いや、ある程度は武器自体が魔力を集めたりする、もしくは武器に宿った時点で精霊は魔力供給の方法を会得できる、と見た」
ふふん、どうやら当たりのようだな。超自然存在が宿った武器なんて王道設定、腐るほど見てきた俺ともなればこの程度はお茶の子さいさい。へそで沸かした茶どころかへそで米も炊いて茶漬けが作れるぜ。
何だか腹が減ってきたな……ログアウトしたらお茶漬けを作ろう、確かシャケフレークがまだ残ってたはずだ。
「とはいえそう簡単にできるものではないらしいぞ。消えゆく精霊と同調し、同意を得なければ契約は結べない。無理矢理武器に封じ込めるのは無理らしいぞ」
「あー凄いっぽいわ。それ最終的に大量の精霊を詰め込んで大量破壊兵器とかにするやつだ」
「なんだって!?」
それに似たストーリーをつい最近クリアしたばかりだ。フェアリア・クロニクル・オンラインと言ってだな……うっ、頭が。
「ジョークだよジョーク、ドワーフってのはそんな酷いことをする連中じゃあねぇんだろ?」
「当然だぞ! 彼らは、少々ガサツな所はあるが皆気の良い奴らだからな!」
酒飲みで全員おっさん顔なら役満だな、鉱山か地下暮らしなら追加得点だ。
「ここに来た時、奴らに襲われ彼女を手放してしまってな……見つかって、本当に良かった……っ!」
「あれにタべられたトキは、ホントウにコワかった」
「あ、やっぱ食われてたのかアレ」
触手、女精霊、捕食吸収……ふむ、シャンフロがR18じゃなくて良かったなアラバ。つーか下手したらカイセンオーが精霊化してたのか……危ない危ない。ゴースト的な霊体なら斬首剣で切れるが精霊がそれに該当するかは微妙な所だからな。
「ありがとう、トリのヒト。ネレイス、おレイするよ?」
「礼ならアラバの武器として全力を尽くしてくれ、じゃなきゃ全員蛸の餌だ」
なんかもう神とかそういうカテゴリに足突っ込んでそうなクターニッドが安易に人を捕食するのかは疑問だが、徒手空拳(+牙)でも割と強いアラバが本来の武器を取り戻したのなら、もう正式に戦力として数えていいだろう。
これでスチューデを除けばプレイヤーとNPCの混成八人パーティの完成だ、レイドボスでもなんとか行けそうな人数じゃないか。少なくとも三人でレベルダウンかましてくるユニークモンスターに挑むよりは心強い。
「ワかったガンバる、ネレイスはアラバとトリのヒトをマモる。あと……なんかシロくてヤワいウニっぽいのも」
「ヴォーパルバニーとも呼ばれないですわ!?」
ヴォーパルバニーが海中に進出してないからじゃないかなぁ、まぁどうでもいいや。
「まぁ落ち着けよウニル……いたたっ! 頭頂部を執拗に突くのはやめろ!」
「ぷぅあーーっ!!」
外道共なら笑って煽り返すというのに沸点の低い奴め、うりうり耳を引っ張ってくれようぞ。
「ふびゃーーっ!?」
お前あれだぞ? 全体的な厨二度じゃネレイスにボロ負けしてるんだぞ? お前、剣に宿る霊的存在とか魔眼オッドアイに匹敵する厨二力を誇るんだぞ、マスコットじゃ太刀打ちできんぞ?
「まぁいい、早速だが……アラバ、クリオネ狩りに行くぞ」
「本当にいきなりだな!?」
どうせレベリングもできねぇ、アイテム探しも興が乗らねぇ、だったらボス討伐をやるしかないだろう。
あのクリオネは魔法を全て遮断する特性を持っている、少なくとも物理的に振り回すだけなら精霊憑き武器でも産廃にはならないだろう。
(……ま、他のプレイヤーがいないうちにボス泥確認したいっていう下心がない訳でもないんだが)
ほら、ボスも四体いるんだし一体くらいね?
「あ、エムルは留守番な」
「ぷぇえ!?」
だって魔法職は置物か肉盾くらいにしか価値ないし……
察しの良い読者の皆様ならご存知だろうが……っ! クリオネさんの戦闘シーンは今章の最初に描写したので……っ! ユザパります……っ!(カットするの意)
・憑依精霊武器のレシピ
・必要なもの
精霊と一定以上の友好度を得た者
一定以上の友好度を持つ精霊(クズ精霊に限る)
精霊の属性と同じ属性を持つ依代石
精霊の属性と同じ属性を持つ鉱石素材
二等石以上の腕前の鉱人族
・作業工程
武器の使い手となる者が依代石へ魔力を注入します。
武器の使い手となる者が精霊に魔力を譲渡します。
武器の使い手となる者の魔力が同調した依代石に精霊が潜り込みます。
精霊と同じ属性を帯びた鉱石素材で武器を製作します。
武器の使い手となる者が製作した武器に魔力を注入します。
武器の使い手となる者が魔力を同調させた武器と依代石それぞれに魔力を注入しながら組み立てます。
完成!
ゲームシステム的に要約すると「製作時点でのプレイヤーの最大魔力量五分割し、五度の魔力注入判定を行い、その数値が武器の完成度評価に影響する」というものです。ある種のユニークアイテムではありますが効率重視だと中々精霊の好感度が上げられないというトラップが。
MP特化にすれば良い武器が作れるが使いこなせず、かといって少ない魔力では良い武器が作れない……さぁどうする?




