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シャングリラ・フロンティア〜クソゲーハンター、神ゲーに挑まんとす〜  作者: 硬梨菜
見上げた空、広がる海、深淵の都市を駆けて
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アンカーへバトンを全力投球

「いや寿司だって」


「お疲れ様の言葉もなしかよ、傷ついたから焼き肉な」


「どっちでもいいっての……」


「カッツォ君のそういう白黒はっきりつけずに流すところおねーさん良くないと思うなぁ」


「だからお前はユニーク自発できないマンなんだよ恥を知れ」


「あっれなんで息ピッタリにこっちをディスるんだろうねこいつら? つーかどちらにせよ僕の奢りじゃないか……」


「そんなことよりカボチャ君や、観客にファンサービスの一つでもやったら?」


ええ……? ただの高校生にそんな無茶振りをするもんじゃないだろ……つーか曲がりなりにも負けたプレイヤーをそんな仰々しく担ぎ上げるもんでもないだろう。

えーと、えーと……げっ、こういう時に限って的確にマイクを持ってくるんじゃないよ名前忘れたけどささくれグラファイトさん。


『あー、えー……ライオットブラッドを飲めばプロゲーマーにも善戦できます、皆も是非』


「君、ガトリングドラム社の社員か何かだっけ……?」


う、うるせーやい! 俺はお前みたいに観客席に投げキッス飛ばせるほど愛想を安売りしてねーんだよ!

クソ、頭が痛い。燃料(カフェイン)切れだ、ライオットブラッドの過剰摂取はリスキー過ぎるしこりゃ今日中にシャンフロ再開は難しそうだ……


「Mr. Pumpkin Head!」


「うおっ!?」


と、俺は真横からがっしと両手を掴まれる、何事かと振り向けばそこには目を輝かせたシルヴィア・ゴールドバーグが。やはりというか消耗した様子は見られない。


「Good Game! Good Game! オミゴト! アッパレ!」


「え、あ、どうも……」


ブンブンと勢いよく振り回される握手がシルヴィア・ゴールドバーグの興奮っぷりを如実に表しているが……そうだ、確かあのリア充白マッチョは日本語話せるんだったな。

ヘイカマーン、現実世界にはバベルがインストールされてないから通訳がいるんだよ。よしオッケー、ちゃんと伝えてくれよ?


「ふふふ、残念だったなシルヴィア・ゴールドバーグ」


「?」


「俺はあくまでも前座、ウチのカッ……じゃなくて、ウチのボスは「今の僕ならシルヴィア相手にストレート勝ちできる」と宣言したぜ」


「え、言ってないけど」


「そうだよ、「僕が勝ったらシルヴィアに猫耳メイドコスプレさせてやるぜぐひょひょ」とも言ってたんだよ」


「いや言ってないけど!?」


「そ、そうよ! ケイが貴女の不敗神話を終わらせるんだから! ……って言ってた、かな?」


「メグゥ!!?」


お前、人が必死こいて時間稼ぎしてたのにまさか普通に負けるなんてこと、認めるわけないよなぁ?

しばしのラグを経て、シルヴィアに俺たちの言葉が伝わったらしい。なんでも雑誌の表紙とかを飾ってもいるらしい端正な顔が、凶暴な笑みに歪む。


「安心しろよ、俺達が責任を持って背水の陣を布陣してやる」


「大トリのプロゲーマー様なら崖っぷちでもよじ登ってくるよね?」


「が、頑張って!」


「思いっきり崖から蹴落とそうとしてるくせに……まぁいいや」


ジト目でこちらを見るカッツォであったが、どちらにせよ奴は負けるつもりで戦うわけではない。

ちょいちょい「仮想シルヴィア」として俺にミーティアスを使わせて調整もしたし、ペンシルゴンのやつとNPCの行動パターンや建物の作りを検証もしていた。夏目氏はもう少し頑張ろう。


「まぁなんだ、ここまでお膳立てしてやったんだからさ……半端な結果は残すなよ」


街を蹂躙し尽くしたペンシルゴンや、ミーティアスとタイマン張った俺に負けないくらいの名試合を見せてくれよな。


「……僕が、いや俺が勝ったら打ち上げで何食べるかは俺が決めるから」


「焼き肉だな」


「寿司だね」


「イタリアンにします」


イタリアン焼き肉……?















「こうやってハッキリ話すのは初めてねケイ」


「いつも怪しい日本語と英語だったからね……シルヴィ」


ヒーロー対ヴィランであればヴィランキャラは三十秒程先にスポーンする。だが互いにヒーローキャラであった場合、またはその逆の場合はプレイヤーは同じタイミングでスポーンする。

植物人間が起こした凶行も、爆弾魔が齎した破壊も、呪われた鎧が刻んだ傷跡も綺麗さっぱり消え去った混沌の街で二人のヒーローが相対する。


「アムドラヴァを外してくるなんて、意外ね」


「あの外道(バカ)共は好き勝手妄言言ってくれたけど、あながち間違いじゃないこともあるんだよね」


かたや不敗の流星に、かたや白銀の上着(ジャケット)を羽織った青年が人差し指を突きつける。


「今日俺は君に勝つ、この……シルバージャンパーでね」


確固たる意志、ビッグマウスでも虚仮威しでもない、必ず勝つという強い闘志は電脳の街並みの中であってもシルヴィアへと熱量を伝えさせる。

幾度となく打倒されても諦めずに対策を考え、一度はシルヴィアを追い詰めるに至った男の姿。シルヴィアはその諦めの悪さをこそ愛いと思うのだ。


「それはそれは……とっても楽しみだね。ああそうだ、一つ聞きたかったんだけど……ネコミーミメイドが趣味なの?」


「ああ、彼らは頭がおかしいんだ。妄言だから気にしなくていいよ」


「そう? 残念。じゃあ最後に……もし私が勝ったら、リアルヴィランズの正体を教えてもらおうかしら」


「あっはっは、あいつらのリアル割れ程度なら上等だ」


人の事をトイレの妖精扱いにしやがったのだ、この程度の意趣返しは許されるだろう。そしてそれが開戦の合図であった。









シルバージャンパー。コミック「ゴールドエッジ」に登場するサブキャラであり、ギャラクシア・レーベルの中では最古参に位置するキャラクターである。

その歴史の長さから幾度となく設定の追加、変更が行われてきたキャラクターでもあるが、メインとなる設定は常に一貫している。



「シンプルな分、使いやすいが使いづらい!」


「さぁ、どう()に勝つつもりなんだい!」


疲労を感じさせない「ように見える」蒼い流星。だが慧の見立てではクロックファイアとカースドプリズンの……友人達の奮戦は確かに無敗の王者に綻びを作っていた、と確信する。

疲労によるパフォーマンスの低下ではない、継続によるパフォーマンスの最適化(・・・)。言い換えれば慣れが混じった事で動きがパターン化しているという事だ。


「何も相手をぶん殴るだけがこのゲームの「勝ち方」じゃあない……っ!」



慧、ペンシルゴン、サンラク、そして夏目の四人による検証の結果、このゲームで使用できるキャラクターは大きく分けて三つに分類されるという結論が出された。


まずカースドプリズンやミーティアスのような「闘士(ファイター)タイプ」。

単純な殴り合いでこそ輝く基本的なタイプ、最も格ゲーらしいキャラクターだ。

次にクロックファイアなどの本体性能が非力なキャラが該当する「黒幕(フィクサー)タイプ」。

力ではない、智謀と計略を以て街の裏側から戦局を操るテクニカルなキャラクターだ。


そして最後に、シルバージャンパーが該当する……「捜索者(シーカー)タイプ」。

正面切って戦うには地力が足りず、街の陰に潜むには性能が素直すぎる。であればこのカテゴリのキャラクターは何に秀でているのか。


時代(システム)は変わった、いつまでも力に頼っているようじゃ……置いていくよ、ミーティアス」


縦横無尽に駆け回るミーティアスが放った一撃は、何もない虚空を薙ぐ。消えたのではない、避けられたのだ。

見上げれば高らかに跳ね上がった白銀が壁と虚空を蹴ってビルの曲がり角に消えるところであった。


シルバージャンパーの能力は非常にシンプルである。星の光を宿しているわけでも、魔眼から無尽蔵に爆弾を取り出すわけでもなく、ただ高く跳べる(・・・・・)……それだけ。

だが侮るなかれ、その跳躍力は全キャラの中でも突出しており、超必殺を使用したカースドプリズン(プリズンブレイカー)をも上回る四度の空中ジャンプを可能とする。

尤も、言い換えればシルバージャンパーよりも多くは飛べずともより速く跳ぶことが出来、より鋭い攻撃が放てるミーティアスやプリズンブレイカーと比較すればやはり馬力不足は否めない。


だがそれはシルバージャンパーにとってはディスアドバンテージと言うほどでもない。


このゲームにおいて勝利の定義は二種類存在する。

一つは単純明快に相手を打倒する「殴り合い」、そしてもう一つは……


「ケイオースキューブの、確保……!」


この街のどこかに存在する、虚構の街を支える要石。ケイオースキューブと呼称される立方体の確保、即ち「宝探し」である。

だがそれは戦闘を避ける名案などではない。キューブの確保にはゲージが必要であり、ヒーローがゲージを溜めるためには……


「く、狙いはNPCヴィランね……!」


思えば、確かに夏目 恵(ナツメグ)はケイオースキューブの確保による勝利を目指していた。だが続く名前隠し(ノーネーム)顔隠し(ノーフェイス)の暴れっぷりに誰もが、そうシルヴィアすらもがケイオースキューブの獲得を忘却していた。

いや、忘却という例えは正しくはない。これは、意識を外されていた(・・・・・・・・・)







「ま、直接的にシルヴィアちゃんを削れなかった私からのささやかなプレゼントってやつだよ」


「あーなんだ、そういうのって……アビスデストラクションみたいな感じの……」


「もしかして、ミスディレクション?」


「あーそれだ、夏目氏賢いねぇ」


「頭カボチャだから中身(脳みそ)くり抜かれてるんじゃないの顔隠し(ノーフェイス)君?」


「うるせぇ乾燥(ゾンビ)女騎士、トイレで湿気(シケ)ってろ」


「人を煎餅みたいに言うのやめてくれますぅー?」












(初動が遅れた。ケイの狙いはキューブの確保? ならNPCヴィランを相手にゲージを稼……)


「ウチのねちっこい方の外道曰く、「対人戦で隙を作るなら、七割の嘘に一割の真実を混ぜろ」なんだと」


「くぅっ!?」


ちなみに残り二割は「非常に曖昧なはぐらかし」である。

シルヴィアの思考が「戦闘」から「追跡」に切り替わった瞬間、身体の動きが瞬間的なものではなく継続的なものに変わったその瞬間、シルヴィアの身体が真横から地面と平行に跳び(・・)込んできたシルバージャンパーのタックルを受けて地面を転がる。


「そしてウチの大雑把な方の外道曰く、「対人戦で有利に立ち回るなら、想定外を味方につけろ」だとさ」


ミーティアスが起き上がり、シルバージャンパーを睨め付けた瞬間、ビルの壁面を破壊して二人のヒーローのちょうど真ん中に割り込んだ巨大な肉塊が咆哮を上げた。


「もうここはお行儀よく戦うコロシアムじゃない、さぁどうするヒーロー(シルヴィ)?」

鰹「仲間達の力を借りるぜ!」

鉛筆「積極的に嘘をついていこう」

半裸「積極的に奇行をしていこう」

鰹「外道過ぎる……まぁやるけど」





実は昨日の段階で急遽カッツォの戦闘シーンまるっと書き直していたり。

二話くらいでGH編は畳んでシャンフロに戻りたいなぁ……(希望)

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― 新着の感想 ―
猫耳メイドコス...か
[一言] そもそもの原因はカツオなのに、リアルバレを意趣返しは流石に人の心がないと思う。鰹だからないんだろうけど。
[良い点] 自分で奇行ってゆっちゃうんですねw
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