義気凛然のブレイカー:デッドウェイト
ふと気づけば総合評価五万を超えていました
皆様の評価や感想のお陰で作者の脳みそは今日も元気に設定を吐き出しております。
今後とも拙作をよろしくお願いいたします。
アスファルトに傷を刻み、火花を散らしながらソードが下から上へ斬り上げられる。だが既にその場にはミーティアスの姿はない。
ソードを持つ手に不自然な重み、見上げればそこにはプロペラソードを踏んで跳躍したミーティアスの踵が顔面へと振り下ろされんとしていた。
「ぬぉお!?」
「ちぃいっ!」
全力で仰け反り、かかと落としを回避する。胸部のプレートをガリガリと踵落としが擦り、片や着地し、片や仰け反りから復帰した時点で同時に動き出す。
大通りのど真ん中に陣取って、軽快に跳ね回るミーティアスを迎撃し、追撃を仕掛ける。
超必殺発動まで最早ドットレベルまでゲージが溜まった。だがどこで使う? カースドプリズンの超必殺は他のキャラの超必殺とは少々毛色が異なる。
使えばハイ勝ちましたとはいかない、どこで切るかは慎重に吟味しなければ……お、チャーンス死ねい! クソ、避けられたか。
「ちょこまかと……!」
「そう急がない急がない、時間いっぱい使って楽しもうじゃない」
クソ、いい空気吸いやがって……やろうぶっころしてやる。
互いの体力は多少の差はあるが三割程度、一気呵成に攻め立てれば削り切れるかもしれない。だが気を抜けば一気に削り切られる可能性もある。
それは向こうもわかっている、いやわかった上でやってるのかもしれないが、現状俺とシルヴィア・ゴールドバーグはゲージを温存した殴り合いを続けていた。
「そっちも超必殺……出せるんでしょ? 来なよ」
「その言葉そっくりそのまま返してやるよ」
ミーティアスの超必殺ミーティア・ストライクはホーミングする。基本的には怯ませた後に確実に当てる技ではあるが、発動した時点でまず避けられないと考えていいだろう。
例外があるとすればミーティア・ストライクの着弾以上の速度かつホーミングを振り切る速度で動けるキャラであれば回避することが出来る、他にも瞬間移動を使ってスカすことも出来るが……今は関係ない。
(先に出すか? 後出しするか? どっちも一長一短、状況を動かそうにも体力が心もとない……)
これが体力ゲージドット残し、レベルの崖っぷちなら一か八かで突っ込めたが……なまじ三割ほど残っているからこそ慎重になってしまう。
「隙有り」
「しまっ!?」
しまった、気が散った。気付いた時には時既に遅く。胸部に強い衝撃が走り、身体が怯みに縛られる。
「楽しかった、本当に楽しかったよカースドプリズン……私の勝ちだ」
ミーティアスが跳躍する、脚に蒼い粒子が収束し煌々たる輝きを宿す。
詰んだ? いや、まだだ! この怯みは拘束時間が短い怯み(小)だ、飛び蹴りが当たる前にギリギリでこちらの超必殺が間に合うはず……! そうすれば避けることも出来る、筈。
超必殺は基本的に当たれば四割、クリーンヒットすれば五、六割を削る。ミーティア・ストライクは着弾と同時に広範囲に爆発を発生させる。
仮に避けたところで爆発のダメージが来るので完全に避け切ることは不可能だろうが、生き残ることは出来る筈だ。
「俺を……ナメるなぁぁぁぁ!!」
超必殺発ど……
「ママ、どこぉ……?」
限界まで集中した事で研ぎ澄まされた五感は、意識がそれを認識するよりも先に情報の精査を終え、結論を弾き出す。
声、子供、女、聞き覚え、栗きんとん、背後、爆風範囲、栗きんとん、ペンシルゴン、栗きんとん、武器、栗きんとん、ミーティアスの設定…………
身体が勝手に動く、いや違う、これはちゃんと俺の意思だ。何故、どうやって、後ろに何が、それら全てを省略した俺の脳が全身へと放ったオーダーは「逃げるな」のただ四文字。
ミーティア・ストライクは着弾した対象にエネルギーを流し込み、内側から爆発させる技。つまりあの超必殺の直撃の定義は「接触」
だ。
爆風は避けられない、この場から回避することは許されない。盾だ、盾を作れ、戦列を、重ねろ、連ねろ、前へ、押し出せ、バッシュしろ。
思考は後からついてくる、自分のしている行動に、後から納得を得る。
両手に握った剣で「X」の字を作るように放り投げ、腰の二振りを掴んで同様に重ねる。
四枚の壁、あたまがいたい、めがくらむ、蹴りがちかづいて来る、ふん張れ、ガードしろ、おしこめ、おしだせ、
タイミングを合わせろ。
「ここだ」
アメフトのタックルのようなガードの姿勢で、落下運動に囚われ始めた四枚の刃に寄りかかる。次の瞬間、四枚のプロペラソード越しに衝撃が身体を貫く。
傍目から見れば直撃、だが判定として攻撃を受けたのはカースドプリズンじゃない、ヘリのプロペラだ。
思考の加速が限界を迎える、内側から蒼光に食い破られていくプロペラソード達の先、剣の盾に攻撃を防がれたヒーローの表情がちらと見えた。
星型ゴーグルの奥にある目は驚愕に見開き、その口元は引裂けんばかりの喜悦に下弦の弧を描き……
爆ぜた。
「しなやすしなやす……っと」
直撃を免れたとはいえ、至近距離からの爆発はカースドプリズンの重量をして耐え切れるものではなく、容易く吹き飛んだ身体をそれでも立たせて立ち塞がる。
全身のヘリ装甲はひしゃげ、防御としての役割をほとんど成していない。だがそれでもカースドプリズンは倒れていない、僅かな体力をかろうじて残し、瀕死といっても良い状態でそれでも倒れない。
「ミーティア・ストライクはミーティアスの星の力を相手に注入して内側から爆破する超必殺……確かにプロペラでガードすればクリーンヒットは阻止できるけど、解せないわね」
「……何故逃げずに受け止めたか、だろう?」
なぁに、そんな大した事じゃあない。ウチの外道に散々な目に遭わされた彼女達へのちょっとしたお詫びのようなものだ。
俺が避けて爆風で被害が出ました、じゃ寝覚めが悪い。ついでに言えば奴と同類扱いされたくないので好感度を稼ぎたいとかそういうわけではない。
「おい栗きんとん幼女、邪魔だからあっち行け。ママがお前を探してるぞ」
「う、うん……」
俺の背後、無駄にデカいカースドプリズンの身体に守られるようにして一人の幼子がへたり込んでいる。直接的な関係のない事は分かっている、クロックファイアが暴れ回ったケイオースシティと、今俺のいるケイオースシティが別物だという事は分かっているのだ。
とはいえヴィランが避けた先にいるNPCがヒーローによって害される、この局面でそんなテンションの下がるような事は出来ない。
ここは古今より伝わる「雨の日に不良が子犬を拾うといいやつそうに見えるロジック」を使わせてもらう、さぁこのカースドプリズンを崇めるが良い……!
「いい子だ、後ろを振り向かず真っ直ぐに走れ」
「あ、ありがとうおじちゃん……」
「オジチャン……まぁいいや」
男は見た目じゃないよ、中身の若さだよ。遠目にこちらへと寄って来る栗きんとんの母親……こことは違うケイオースシティで人間機雷にされた女性と幼子が抱き合い、逃げていくのを確認して俺はミーティアスへと向き直る。
「どうしたヒーロー、困った人を助けないとかまるで一般人のようじゃねぇか」
「あはは、言ってくれるね……カースドプリズンは人助けするような奴じゃなかったと思うケド」
「ここはコミックじゃねぇ、ゲームだ」
どれくらい前だったか、実際は一時間も経過していないだろうが随分と昔に言ったことのように感じる言葉をもう一度告げる。確かパラレル設定をアメコミじゃこう言うんだったかな。
「世界線がちげーんだよ、俺に……いいや、俺様がやる事にいちいち文句を出すな」
体力は圧倒的に不利、ヘリ装甲も使い物にならずプロペラソードも失った。だがどちらが有利か、それだけは確定している。
「超必殺を使ったな、ヒーロー」
「……来なよ、「カースドプリズン」を倒すならそれに勝たなきゃ意味がない!」
「こっちのターンだ」
カースドプリズンの超必殺は他のキャラクターとは毛先の異なるタイプであり、その内容はカースドプリズンというキャラクターの設定と密接に関係しているのだ。
カースドプリズンはコミック「ミーティアス」に登場するヴィランであり、ギャラクシア・レーベルにおけるデウスエクスマキナ、だいたいこいつのせいこと「ギャラクセウス」との因縁がある。
遥か太古の地球において、全能存在ギャラクセウスすらも予期せぬイレギュラーとして生まれたそれは、想像を絶する力を己の欲望のままに振るっていた。
だが星の命すらも脅かしかねないとギャラクセウスによって呪われた鎧を装着させられた存在、自由に歩く事ができながらも牢獄に囚われ続けた囚人、それこそが「呪われた牢獄」。
そして、かつてこの星で暴れた強大な存在を模倣した力を与えられた青年こそが主人公であるミーティアスであり、カースドプリズンは己を封じる鎧を脱ぐためにミーティアスへと襲いかかるのだ。
「脱獄!!」
故に、カースドプリズンこそがミーティアスのオリジナル。ゲージを溜め、キューブを手にする可能性を捧げて発動する超必殺こそが、限定的に本来の力を行使する「脱獄」!
全身のヘリ装甲が弾け飛ぶ、その下にある漆黒の鎧に亀裂が走る。本来はギャラクセウスの力を取り込む事で解き放つものであるが、ゲームなんだから細かい事は気にすんな。
先ほどのプロペラソードの如く、全身の内側から光が溢れ出す。それはミーティアスの蒼とは真逆の、緋色の輝き。
そして輝きを抑えきれなくなった鎧が弾け、全身が緋色に輝く細身の男が現れる。
カースドプリズンは極めて特殊な性能をしたキャラクターだ。無機物を取り込む事でその性質を変化させ、超必殺を使う事でキャラクターそのものが「変わる」。
「その姿にここまでワクワクするのは初めてだよ、プリズンブレイカー!」
脱獄の猶予は三十秒、ラウンドの時間と比べればあまりに短い。だがその力は、速さは、性能は……ミーティアスの完全上位互換だ。
「クライマックスだ、ケリをつけてやる」
「勝つのはいつだって……ヒーローなんだから!!」
蒼の流星と、緋の凶星が激突する。
いわゆるゼロスーツサムス。なおプリズンプレイカーは半裸です、その上で発光しています。
赤 色 発 光 半 裸
何とは言わないけどザビーが一番好きです




