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悪役令嬢後宮物語  作者: 涼風
にねんめ
143/243

懐かしい再会

『いちねんめ』で存在だけは言及されていたけれど、これまで登場してこなかった方々のお目見えです。


 皆の気遣いのお陰で心身を休めることができたディアナは、一行と別れ廊下を……もと来た道を逆方向に歩いていた。扉を開け、大広間に垂れ下がる幕の裏側まで戻ってきたところで、不意に声が掛けられる。


「――ディアナ」


 一度聞いたら忘れられない、素晴らしい美声。ただ名を呼ばれただけなのに、まるで天から祝福を受けたかのような心地すら覚えてしまうその声に、ディアナは目を丸くして振り返った。


「……ダイナ様?」

「あぁ、私だよ。久しぶりだね、元気だったかい?」

「もちろんです!」


 思わぬところで思わぬ人と再会できた喜びに、ディアナは自然と笑顔になる。

 幕の隙間を縫って現れたその人は、日に焼けた健康的な肌に細くまっすぐな金色の髪を流し、深い緑色の瞳で微笑んだ。


「ディアナも元気そうで良かった。随分と大変なことになっているようだから、大丈夫かと心配していたんだ」

「わたくしのことをですか?」

「あぁ。アルや父上から、定期的に近況報告の手紙をもらっていたからね。あの小さかったディアナが後宮に入って、まさか『紅薔薇様』になっただなんて、本当に驚いたよ」


 天上の美声に込められた優しさは、耳に届くだけで気持ちを解してしまう。

 しばらくぶりでも変わらず優しいその人に、ディアナも昔と同じように笑った。


「ダイナ様。わたくし、もう子どもではありませんよ?」

「そうだね。最後に会ったのはいつだったか……」

「わたくしのデビュー直前に旅立たれましたから、三年前です」

「そうだった。……いやはや、三年も経つと、女性は変わるね」

「まぁ、相変わらずお上手ですね。アルフォード様もお人が悪いわ、ダイナ様が戻っていらっしゃるのなら、教えてくださっても良かったのに」

「いや。実は、アルには知らせていないんだよ。これでも急いだんだけど、王都へ辿り着いたのが今朝でね。大慌てで正装を準備して、何とか夜会に間に合わせるので精一杯だったから」

「それほど遠くへ行っていらしたのですか?」

「マミア以西をぐるっとね。興味深い遺跡が多くて、研究に没頭しているうちに三年も経ってしまった。エドみたいに長距離乗馬が得意なら、もう少し早く戻って来られたんだろうけれど」


 研究にのめり込むと時間を忘れてしまうのは、三年前とちっとも変わらない。貴族としては不安要素が大きいけれど、歴史研究の大家、スウォン伯爵家としては、これほど頼りになる跡取り息子もいないだろう。

 現スウォン伯爵の長男にして、ジュークの側近アルフォードの実兄である、ダイナディル・スウォン。アルフォードとは真逆で、運動神経はからっきしだが学者としての能力はずば抜けており、専門である歴史学のみならず、あらゆる分野に深い造詣がある。特に、古文書の解読と遺跡の発掘においては、現在のエルグランド王国において彼の右に出る者はいない。

 彼はその能力を有効活用するべく、年中王国内の遺跡を巡っては、発掘と古文書解析に精を出しており、貴族社会どころか王都にすら顔を見せることは滅多にない。年齢一桁の頃にはスウォン家が所蔵する数々の文献からクレスター家の真実を見抜き、クレスター家の地下に所蔵されている古文書を求めてこっそりクレスター地帯を訪れていたため、もちろんディアナとも顔見知りだ。エドワードより十も歳上なダイナは、幼い頃のディアナにとって憧れのお兄様で、彼がクレスターを訪れる度纏わりついていた。調べものをしたかったダイナにとっては迷惑この上なかっただろうけれど、当時からとても優しかった彼は、嫌な顔一つせずディアナの相手をしてくれたものだ。

 ――昔の癖でディアナの頭を撫でようとして、夜会用にきちんと整えられた髪型であることに直前で気付いたらしいダイナは、上げた手を彷徨わせてから苦笑して自身の頭を掻いた。


「それにしても、本当に綺麗になったね。三年前とは見違えるようだ」

「大袈裟ですわ。確かに背と髪は三年前より伸びましたけれど、それ以外は特に変わりません。夜会中につき、格好は盛られていますけれど」

「いや、今のディアナの美しさは格好のせいだけではないと思うよ。君は昔から素直で明るくて、とても魅力的な女の子だったけれど、今はそれ以上に、内側にあるものが君を輝かせている。……沢山の良い出会いがあったようだね」

「ダイナ様……相変わらず、お見通しですね」


 ダイナの洞察力は、ある意味でデュアリスにすら匹敵する。研究者には必須の力であり、三年の遺跡調査で更に磨きがかかったようだ。

 ディアナの素直な感嘆に、ダイナはいたずらっ子のように笑う。


「凄いだろう……と言いたいところだが、実は違う。王宮で何が起こっているのかは、大まかにではあったけれど、アルに教えてもらっていたんだ。『紅薔薇様』となったディアナが、側室方や王宮侍女、女官たちと力を合わせて、現状を正そうと頑張ってきたとね。ディアナに……というよりクレスター家に頼らねばどうにもならないところまで事態を拗らせてしまったのは、王宮の恥ではあるけれど」

「仕方のないことですわ。内務省が過激保守派の巣窟と成り果ててしまった以上、内宮に足を踏み入れることが難しい殿方だけでは、好転させるにも限度がありますもの」

「だけど、ディアナだって後宮に行くのは気が進まなかっただろう?」

「もちろん、好き好んで行きたい場所ではありませんでしたが」


 優しいダイナらしい気遣いに、ディアナは微笑んで首を横に振った。


「ですが今は、結果論ではありますが、側室内示の勅命を無理矢理潰さなくて良かったと思っています。後宮へ入らなければ、『紅薔薇』になることがなければ、わたくしはきっと今もこの国の貴族階級に絶望し、わたくし自身を見てくれる人など居ないのだと拗ねたままでした。……それが思い違いだと、貴族であろうがなかろうが分かってくれる人はいると気付けたのは、後宮で『紅薔薇』をしたからこそです」

「……そうだね。君が今、それほどまでに美しく輝けているのも、そうやって理解し合える友に出会えたからこそだろう」

「美しく輝いているかどうかはともかく……誰かと心を交わし合う喜びと大切さは知ることができましたね」


 後宮内にはリタしか信じられる人がおらず、夜会の場では家族しか頼れなかった一年前に比べれば、今のディアナの何と恵まれていることか。ディアナを気にかけ、疲れているなと感じたら、休息を取れるよう即座に連携してくれる人が、家族以外にあれほど沢山いてくれるのだ。その出会いは、気付きは、後宮で過ごさなければ得られなかった。


「大変なことも多かったですし、まだまだ乗り越えるべき壁は多いですが……それでも今、わたくしは幸福ですよ」

「それは良かった。……本当に」


 ディアナの言葉が本音だと分かったからだろう。ダイナの瞳にあった、ディアナを案じる色が消える。それほど心配してくれていたのだと、ディアナは温かい心地に包まれた。


「ありがとうございます、ダイナ様。こんなにも心配して頂けて、わたくしは果報者ですね」

「なに。私にとっても、ディアナは妹のようなものだからね。なまじ本物の弟が、あれほど図体も態度も大きな可愛げのない奴に育ってしまったものだから、余計にディアナが可愛く思えるよ」

「まぁ、アルフォード様が聞いたら落ち込まれますよ。あまり表には出されませんが、ダイナ様のこと、とってもお好きなのですから」

「アイツの好意は表に出ないからねぇ」


 笑いつつ、ダイナがこちらへ手を伸ばしてくる。


「ついつい長話をしてしまった。そろそろ戻ろうか?」

「はい。……エスコートしてくださるのですか?」

「心配しなくても、幕が途切れる直前までだよ。下手に君を晒し者にはできないからね」

「わたくしの評判はどうでも良いですが、ダイナ様のお名前に傷がついてはいけませんから」

「私の名前など、それこそ守ってもらうほどの価値はないよ。スウォン家はもともと、王宮の権力からは遠い家だからね」

「それはそうですが、権力から遠いことと貴族社会で毛嫌いされることは、同一ではありませんし」

「こちらが気にしていないのだから、ディアナがそれ以上に気遣う必要はないさ」


 互いに謙遜しつつ、ディアナは素直にダイナの手を取る。


「だっ、ダイナ。ここにいた、の?」


 ――否、取ろうとしたところで、新たな声に止められ振り返る。

 ディアナにとっては幸いなことに、その新たな声も聞き覚えのあるもので……しかし、ある意味ダイナ以上に、その声の主がこんな場所にいることは想定外だった。

 高くか細い、まるで女性のような声質だけれど、幕の隙間からおどおどとこちらを覗き込むその人の背は高い。一応夜会用の正装に身を包んではいるが、着丈も袖丈も短く、それをごまかすためか長めのローブを被っているため、ちょっとした魔術師のような不気味さを醸し出している。

 頭に被ったフードの隙間から細長い銀髪がさらさらと零れ落ちる様に確信を得て、ディアナはダイナの向こう側にいるその人へ呼び掛けた。


「フィガロ様……でいらっしゃいますよね? 大変ご無沙汰しております」

「ディ、ディアナ? その声は、ディアナだよね!?」

「は、はい」


 次の瞬間、ローブを被ったその人は、幕を大きく揺らして一足飛びにディアナの前へ躍り出た。その勢いでフードが外れ、腰より長く伸びた美しい銀髪がひらりと靡く。

 男性にしておくのはもったないほど繊細かつ儚げな美貌で、彼はふんわりと笑った。


「本当にディアナだ……! 久しぶりだね、元気だった?」

「はい。フィガロ様も、お変わりないようで何よりです」

「僕は変わりようがないよ。……あぁもう、ディアナに会えるんだったら、研究ファイル持ってくるんだった! ディアナに見せたい実験結果、沢山あるんだよ」

「それはとても興味深いです。わたくしは最近、あまりフィールドワークができておりませんので、尚更フィガロ様の研究を教えて頂けたら勉強になりますわ」

「あぁ……うん、それは仕方ないよね。なんていったって『紅薔薇様』だもん。そうホイホイ後宮を空けて出掛けられないよね……」

「わたくしが『紅薔薇』となったとご存知だったのですか?」

「うん。その辺のことは一通り、父上から聞いてるよ」


 ふわふわと嬉しそうに笑う彼の名はフィガロ・モンドリーア。その家名が示す通り、『第二の王家』と名高いモンドリーア公爵家唯一の嫡子である。ヴォルツと夫人の間に生まれた唯一の男子であり、あまり表立っては言われないけれど、王位継承第二位というとんでもない地位を持っていたりする。ちなみに、第一位は現モンドリーア公爵であるヴォルツだ。

 ジュークに嫡子がいない現状、王家に不満を持つ者によって王位継承争いに担ぎ出されかねない地位にあるフィガロだが、現在の王国にフィガロを王にしようとする者は皆無といって良い。

 その理由は、至極単純で。


「ヴォルツ様も、愛息子殿にはつくづく甘いと見える。お前はいつまで、そんな趣味の研究にばかりかまけるつもりだ?」

「うっ、うるさいな……誰にも迷惑掛けてないし、良いじゃないか」

「跡取り息子が自分の仕事を引き継ごうとしないという意味で、ヴォルツ様にはご迷惑をお掛けしていると思うぞ?」

「ばっ……! 僕に、(まつりごと)なんて、で、できるわけないし! さささ、宰相は、別に、絶対世襲の役職じゃ、ないし!」

「宰相職はともかく、モンドリーア領の領地運営はお前の仕事だろう」

「りょりょりょりょ、領地、運営はっ! ぼぼ、僕より、家の皆の方が、よく分かってるから、ぼ、僕の出る幕は、ないよっ」

「……ダイナ様。昔と変わらず仲がよろしいのは良いことですが、あまりフィガロ様をお揶揄い遊ばされませんように。外へ出るお仕事はフィガロ様に不向きだということは、わたくし以上にダイナ様がご存知でしょう」


 さすがにフィガロが可哀想になってきて、ディアナはひとまず仲裁に入る。まるで襲われている小動物が救いに出会ったときのような眼をフィガロから向けられて、心中だけで苦笑した。背が高くて、叔母であるリファーニアを彷彿とさせるような美しい顔立ちで、これで社交的な性格なら男も女も放っておかないだろうに、彼は極度の人見知りをひたすら拗らせているのだ。平時なら普通に話せるダイナとすら、話題によってはこの通りである。

 この人見知りなモンドリーア家の嫡子とディアナの付き合いは、息子の対人関係をどうにかしたかったヴォルツが、〝植物の薬効探し〟というディアナの趣味を知って、密かにモンドリーアの屋敷へディアナを招待し、フィガロと引き合わせたことに端を発する。幼い頃から人見知りが激しかったフィガロは日がな一日屋敷の書庫へ籠り、膨大な量の書物を読み耽るうちに薬学の分野に強い興味を示すようになり、ついには自室を実験室へと改造するほどのめり込んだのだ。モンドリーア公爵家の跡取りともなれば世俗とも無縁ではいられず、どうにか学院へ通わせはしたが、そこでも仲良くなれたのはダイナだけ。卒業できる最低限の授業だけ受けて学院時代を乗り切り、卒業後は変わらず自室で怪しげな実験ばかりを繰り返す息子をどうにかしたいと考えたヴォルツが白羽の矢を立てたのが、デュアリスが常々親馬鹿を発揮しているクレスター家の末娘だった、というわけである。

 初めて会ったのは確か、まだディアナが十にも届かないほど幼い頃。モンドリーアの屋敷へ招かれ、見るからに挙動不審なフィガロを「薬学の研究者」だと紹介され、しばらくお茶を飲みながら話をした。クレスターではディアナ以上に動植物の薬効に詳しい者はおらず、皆の〝声〟を聴きながら新発見を繰り返すのも楽しかったけれど、独学ではやはり限界があった。フィガロの薬学は動植物だけに止まらず、鉱石や土といった様々なものを組み合わせており、それらから新たな性質のある物質を生み出したり、人体に有効な薬を開発するなどしていた。遠い遠い昔には『錬金術』と呼ばれていたそれを、フィガロは楽しそうにこう称す。


「ディアナは僕のこと、本当によく分かってくれているよね。僕の『化学(かがく)』をこんなに理解して認めてくれるのは、ディアナだけだよ」

「そんなことはないと思いますけれど……父も兄も、わたくしから話を聞いて興味を示していたではありませんか」

「クレスター家の人たちは特別だもん。それに、デュアリス様やエドワードがそう言ってくれたのだって、ディアナが説明してくれたからこそだろうし」

「わたくしは別に何も……全てはフィガロ様の『化学』が素晴らしいからですわ」


 物質が『化ける』学問、略して『化学』。それが、フィガロが薬学を探求する中で辿り着いた、新たな学問だ。動物も植物も、美しい鉱石も何の変哲も無い石塊も――ただの砂粒一つでさえ、フィガロの前では有益な物質と化す。この世界に存在するありとあらゆるものを組み合わせ、普通ではあり得ない効能のある新たな物質へと化かす。確かに薬学と繋がってはいるけれど、薬学よりもっともっと奥が深くて世界そのものを変化させる可能性すら秘めていると、ディアナは考えている。

 ディアナは、あらゆる命の〝声〟を聴くことで、これまで知られていなかった動植物の様々な薬効を発見してきた。しかしながら、その薬効が具体的にどのような成分で、何故その効果を発揮するのかまでは分からない。フィガロと出会った当時はまだ幼かったから尚更に、「理屈は分からないけれどこうなるのは知っている」状態だった。それをフィガロへ伝えたところ彼はいたく興味を示し、ディアナが伝えた動植物で実験を繰り返して、次々と新成分を発見していったのだ。「薬学繋がりで話が合うだろう」というヴォルツの狙いは正しく、フィガロの人見知りはディアナ限定でみるみる解かれ、普通に話せるようになったという。……ヴォルツにとって想定外だったのは、人見知りが解かれる対象があくまでも〝ディアナ限定〟だったという一点に尽きるだろう。それでも昔よりは随分マシで、ディアナの紹介であれば、悪人面と名高いデュアリスやエドワードとも(ややどもりがちではあるが)話せるようになったし、ディアナと会う前から唯一の友人だったダイナとは、学院時代以上に打ち解けることができたらしい。


「あ、そうだ、ダイナ。君が戻ってきているって知ったアルフォードが会いたがっているって、父上が言っていたよ」

「あぁ。そういえば、まだちゃんと挨拶していなかったな。アルもそうだが、さすがに陛下に帰還の挨拶をしていないのはまずいか……」

「ダイナったら、いつの間にかいなくなっちゃうんだもん……探したんだからね」

「久々の王宮夜会で疲れたんだよ、休憩くらいさせてくれ」

「ホント、人、増えたよね……」

「しばらくぶりな私はともかく、お前まで年寄りじみたことを言うんだな?」

「ダイナがいないのに、一人で王宮夜会になんか、出られるわけがないよ。今日だって本当は来る気なかったんだ。父上から直前に『ダイナが来る』って連絡もらって、大急ぎで準備したんだから」

「なるほどな。それで、そんなサイズの合っていないつんつるてんの正装を着ているわけか」

「前着たときはぴったりだったんだけど……」

「それ、何年前の話だ?」

「十年……くらい前?」

「まったく……二十歳過ぎても変わらずにょきにょき伸びているんだな。しばらくは王都にいるつもりだから、今度一緒に仕立て屋へ行くぞ」


 優しく面倒見の良いダイナに、どことなくアルフォードと似たものを感じ取る。アルフォードも何だかんだで世話焼き気質な、懐に入れた人間を放って置けないタチだから、その辺りはやはり兄弟ということなのだろう。

 ――それはともかく。


「ダイナ様、陛下へのご挨拶がまだお済みでないのに、わたくしなどに構っていてはいけませんわ。わたくしは一人でも大丈夫ですから、どうぞ陛下に元気なお顔を見せて差し上げてくださいませ」

「最後に会ってから、もう五年ほど経つのか……覚えていらっしゃるかな?」

「陛下はとても記憶力の優れたお方ですよ。アルフォード様のお兄様でもいらっしゃるダイナ様のことを、お忘れのはずがありません」

「それは嬉しいね。――ちょうど良い、フィガロ、お前も行くぞ」

「えええぇ、僕も?」

「会うのは子どもの頃以来だろう。お顔を覚えて頂ける、またとない機会だ」

「やや、ヤダよ……。僕、今日はダイナに会いに来ただけで、しゃ、社交するつもりなんて……」

「こんなもの社交といえるか、単なる従兄弟君への挨拶だ」

「だ、だとしても、めめ、目立つじゃん……」

「一瞬だ、それくらい乗り切れ」

「あの、フィガロ様。先にヴォルツ様かアルフォード様へ繋ぎを取れば、人目の少ないところでご挨拶できるかと思いますので……わたくしからもお願い致します。どうか陛下と――ジューク様とお話頂けませんか?」


 幼い頃に両親と引き離され、過激保守派の操り人形にされるべく育てられたジュークは、肉親の情に飢えている。結婚相手にあれほど愛情を求めるのもその片鱗の表れだろう。フィガロはこの通り、王位継承権第二位ではあっても王座にはまるで興味がないし、そもそも自分を貴族として認識しているかも怪しい節がある人なので、純粋に従兄弟としてジュークと接してくれるだろう。そんなフィガロの存在は、ジュークにとっても救いとなるはずだ。

 ディアナの懇願に何かを感じ取ったのか――フィガロはその美貌に、困ったような、諦めたような笑みを浮かべた。


「……仕方ない、ね。他ならないディアナの頼みじゃ」

「あ、いえ……どうしてもお嫌なら、無理にとは申しませんけれど」

「ううん。僕だって、王宮でずっと頑張っている従兄弟君には、いつか挨拶しなきゃって思ってたからね。……陛下は、ジュークは偉いよ。僕には絶対真似できない」

「……ありがとうございます」


 話はまとまった。三人で垂れ幕の切れ目まで進み、ダイナはもう一度フードを頭から被ったフィガロを連れ、王族席へと向かう。


「それじゃ、ディアナ。さっきも言ったけれど、私はこれからしばらく、王都にいるつもりだから。私の助けが必要なことがあれば、アルにでも伝言を頼んでおくれ」

「ぼ、僕も! 何か困ったことがあったら、できる範囲で力になるからね!」

「頼もしいお言葉、感謝します。ダイナ様、フィガロ様、今後ともよろしくお願い致しますね」


 挨拶を交わして会場へと戻っていく二人を見送ってから、ディアナもそっと、光溢れる大広間へと戻るのであった。


Q.どうしてアルの兄ちゃんとヴォルツさんの息子はこれまで存在が空気だったのですか?

A.研究バカと引き籠りオタクだからです。


としか言えない新キャラ二人でした。予想はしてたけど、まぁ初見から勝手に動いてくれることくれたこと……アベルとクロードの方がまだ言うこと聞いてくれるぞ? 三十過ぎて人の話聞けないのってどうかと思うよ?

そして感想欄でも突っ込んでくださっている方がおられましたが、次々出てくる新キャラたちに、天井裏で某仔獅子さんはそろそろキレそうになっていることと思われます(笑)

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[気になる点] 愛息子 ではなく 愛息 なのでは?
[一言] ダイナ&フィガロコンビ好きです(*´ω`*)
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