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30 王家の秘密とさらなる謎

「……どうやって入ってきた?」

「使用人が顔見知りだったので泣き落としました。護衛は外に待たせています」


 セオドア殿下の王子らしからぬ回答に、嘆息するシルヴァ様。


 彼らの後ろに、青い顔をした老齢の使用人男性がいた。

 シルヴァ様に仕えている者の選択としては明らかに間違っているとはいえ、平民が夜間に王子を館から閉め出し続けるのは精神的に困難だったろう。

 でも、館に入れるなり、止めるまもなく王子たちがここまで走ってきた、と。

 お二人とも舞踏会で着ていた盛装そのままだ。私たちもだけど。


 それにしても使用人夫婦は元王宮勤めだとはいえ、王宮には途方もない数の人がいる。

 セオドア殿下かルーク殿下がその顔まで覚えていらしたことに、私は場違いにも感心した。

 ……感心している場合ではなかった。


「おまえたち、とりあえず座れ。ジョン、護衛たちを食堂に通して何か酒以外の飲み物を出してやってくれ」


 ホッとした様子の使用人は深く頭を下げ、去っていった。

 セオドア殿下とルーク殿下に席を譲るつもりで、私はソファから立つ。するとシルヴァ様に別の椅子を勧められ、そちらに座った。


「で。婚約は嘘だったのですね? 兄上」

「だとしたら国王陛下(ちちうえ)に言うのか?」

「今すぐチクりに王宮に戻りたいけどね。あいつらが持ってきたのがあんな胡散臭い話じゃなければ……」


 追求するセオドア殿下と、かすれた声のルーク殿下。お二人とも顔が疲れきっている。



「……信じてほしいのだが、メリディアナ嬢。我々は、あんな話は聞かされていなかったのだ」

「あんな騙し討ちみたいなことするなんて……聖女になんて聞いてない。聖皇庁は……何考えてるんだよ」


「お二人は、ご存じなかったんですね?」


 一応は、その言葉を信じようか。


「ですが、なぜ国王陛下が私を王子殿下と結婚させようとしているのか、その目的にお心当たりは?」

「「!」」

「具体的に言えば、お二人の私に対する態度が明確に変わった去年ぐらい、何か変化があったのですか」

「……それは……」「……その……」

「何があったのですか?」


 顔を見合わせ、そうして二秒ほど目で会話した二人は、しばらくしてため息をついた。

 切り出したのはセオドア殿下だった。


「…………この前、マクシーナ嬢が魔力暴走を起こしただろう」

「? はい」

「本来なら非常に稀な事案なのだが、実は……去年も王族の魔力暴走が起きているのだ」

「…………???」


 非常に珍しい事例のはずの魔力暴走が?


 シルヴァ様も眉をひそめる。


「俺は聞かされていないが」


「ええ。実は、七十年ほど前から、およそ十年に一度ぐらいの頻度で、王族の魔力暴走が発生していたのだそうです。が、王家の威信のために歴代の国王陛下と宰相が全力で隠蔽し、急死扱いにしていたとか。私たちも去年初めて聞かされました……」


「ここのところは……二十年以上起きてなかったらしいんだ。だけど……去年久しぶりに、ある王族の子どもに魔力暴走が起きた」


「その時はたまたま魔法医師が対処できて事なきを得たのです。ですが、その一件のあと、聖皇庁からひそかに情報提供があったのだそうです。同様に、かつて王族がしばしば魔力暴走を起こしていた国があったのだと」


(…………ん?)


「それらの国も、うちと同様に国王の貴賤結婚禁止のルールがあり、近い血筋での結婚が何代も何代も続いていたとか。

 それゆえ、その国の人々は、これは遺伝病ではないかと疑いました。近い血筋での結婚を重ねすぎて血が濃くなってしまい、体質的に魔力暴走を起こすリスクが上がってしまったのではないかと...…」


 確かに、国王がただの貴族を結婚相手に選ぶことができない国では近親婚が多くなりがちだ。

 敵対している国から王子王女を迎えることは難しいし、友好国の王家はだいたい近い親戚だし。


「そこで、それらの国が貴賤結婚禁止を撤廃し、国王の伴侶を王族だけじゃなくただの貴族からも選ぶようにしたところ、王族の魔力暴走が今では皆無なのだとか……」


「だから、その……それを聖皇庁からきかされた国王は、俺とテオをひそかに呼び出した」


「王家に新しい血をいれなければならない。近い将来、貴賤結婚禁止の法を撤廃する、と。

 ただ我々の婚約に関しては、ウィール宰相とドラウン公爵の両方を切ることはできないとおっしゃいました。

 ゆえに、私かルークか、どちらか一方だけなら王族ではない相手と結婚しても許す。

 それも我が国でトップクラスに強い魔力の持ち主、オーリウィック家のメリディアナならば認めよう……とそのようにおっしゃったのです」


「いまさらかい!て叫びたくなった……メリディアナの扱いに不満もあった。だけど……」


 なるほど、それが例のセオドア殿下とルーク殿下の無茶苦茶なアプローチにつながった……?


「つまり、婚約者がいる王子に『その婚約者をキープしたまま他の女を落とせ』と、仮にもこの国を統べるお方がお命じになったと……?」


「そう言われると身も蓋もないが、そうなるな」


「─────断れよ」低い声でシルヴァ様がバッサリ切って、二人の王子はウッとうめいた。


「いや、兄上、我々も悩んで...…」

「いま婚約者のいないあんたが言うのはズルいだろ!」



(……でも……だとすると……変……?)



「……あのさ、俺たち二人とも、もうこの機会を逃せなかったんだ……」

「せめて話だけでも聞いてくれないだろうか、メリディアナ嬢。私は決して、君を愛人にしようと思ったわけではないのだ。ずっと君のことを愛して……」

「! おい、待……」

「俺だって、本気で君が好きで……って……メリディアナ? 聞いてる?」


「────ああ、すみません、ちょっと妙だなと思って考え込んでしまいました」


 なぜかセオドア殿下とルーク殿下がガクッと体勢を崩し、シルヴァ様が安心したようなためいきをついた。

 シルヴァ様が続ける。


「そうだな。メリディアナの言うようにおかしな点がある。一つ目。徹底して隠蔽したはずの魔力暴走をどうして聖皇庁が知りえたのか?」

「ええ。しかも、去年の件だけじゃなくそれまでのことも知っているわけですよね」


 王宮にスパイがいるのだろうか?


「二つ目。聖皇庁はこれまでウィール宰相と結び付きが強かった。なのになぜわざわざ、その娘の婚約が望ましくないとでもいうような情報を伝えてきたのか」

「聖皇庁も一枚岩ではないということでしょうか?」

「あるいは宗教勢力がウィール宰相と手を切ろうとしているのか……逆にドラウン公爵は接近しているようだな」


「それから私、国王陛下がわざわざ私を名指ししてらっしゃるのが不思議です」

「? 魔力が強いからではないのか?」

「でも、本気で魔力暴走を防ぎたいなら、むしろ魔力の多くない伴侶が良いと思うんじゃないかと……。

 それに、血筋を気にするのならば、私は母がいまだに行方不明で、どこの誰かわかりません」


 その場が、シン……としてしまった。

 私としてはもう特に気にしていないことなのだけど、この話題を出すと、どうも周りに気を遣わせてしまう。


「……本当に大丈夫なので、気にしないでください。それに、ちゃんと調べないと本当に遺伝病かはわからないですよ。他にも原因があるかも知れませんし。王族の魔力暴走を防ぐなら、もっと確実な方法が……」

「────ルーク、どうした?」


 シルヴァ様の声に、ルーク殿下の方をみる。

 さっきより、ずっと顔色が悪くなっている。脂汗をかいて、目を見開いて手を握りしめている。


「ル、ルーク! 大丈夫か!?」

「体調、お悪いんですか?」

「………………酒……」

「……え?」

「舞踏会……アイツに、盛られた……」


 毒物? 舞踏会で?

 容態の急変、見るからに危険な状態だ、診なきゃ、と思った瞬間、ぐらりとルーク殿下の身体が大きく揺れ、ドサッと床に崩れ落ちた。


「─────────ルーク!!!」


 セオドア殿下の絶叫が部屋の中に満ちた。



     ***

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