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23 シルヴァの報告

     ***


 褒章の授与式当日を迎え、私たちはあわただしく準備に追われた。


 よく夜会になると緊張のせいか体調を崩しがちな義姉レイチェルは、今回も当日の朝、気分が悪くて吐きそうだと言って寝込み、結局欠席せざるを得なかった。


「……残念……本当に……行きたかったのよ」


 ベッドで青い顔をしながら、義姉は繰り返してため息をつく。


「メリディアナの晴れ舞台、ちゃんと見たかったのに……しょっちゅうこういうことになるから、私……かなり長い間お会いしていない方がたくさんいらっしゃるのよね」

「残念ですけど、今日はしっかりお休みになって身体を治してください」

「ほんとに残念…………ねぇ、帰ったら話を聞かせてね。褒章式なんて、そうそうないことだから」


 全員で出席できないのは残念だけど、レイチェルにも護衛はつく。彼らに任せて出掛けることにした。


 慣れない化粧をしてもらい、ドレスをまとい、髪を大人のようにセットしてもらい、宝石類を身につけると、鏡の中の私は何だか別人に変身したかのようだった。

 やっぱり、慣れない。


 義姉を除く家族4人に従者・侍女たちが分かれて馬車に乗り、王宮に入る。


 今日の式典は、午後遅くに褒章の授与式、夕刻に晩餐会、そして舞踏会という構成になっていた。


「たった一人への褒章の授与にしては少し大がかりすぎるのでは?」

と義父も義母も首をかしげていたけれど、そのあたりの規模感は私にはよくわからない。


(予算はかなりかかっているんだろうし、今からでも亜竜(デミゴラゴン)の隠蔽を撤回して、シルヴァ様にも褒章が授与されることにならないかな)


 そんなことをチラッと思ったり。


(シルヴァ様のお戻りは間に合っただろうか)


 結局まだお会いできていないままだ。


 褒章式前に、私は家族から離れ、侍女とともに控え室に入った。

 他の出席者たちが全員、王宮の大式典の広間に集合する中、私は一人後から広間に入るのだ。


 緊張で息が止まりそうな中、何度も深呼吸を繰り返していると、扉をノックする音がした。


「失礼。入っても良いだろうか」

「(! シルヴァ様のお声!)は、はい!」


 左右に開く扉を開けて入ってきた長身の男性は、間違いなく、シルヴァ様だった。

 本当にお久しぶりだ。ご無事でおかわりない様子で、ただただ安心した。

 入ってくるなり、シルヴァ様は目を見開く。


「そのドレスは……」

「え?」

「ああいや、何でもない。よく似合っている」

「あ、あの、ありがとうございます。そんな」

「本当だ。とても……美しい」


 青の瞳に見つめられ、鼓動が早くなる胸を思わず押さえる。

 シルヴァ様に他意はないだろう。子どもの頃からよく知っている私が珍しくドレスアップしているからそんな風に褒めてくださっただけだ。きっとあれだ、東方の言葉で『馬子にも衣装』。そんな感じなのだろう。

 なのにこんなにドキドキしてしまって恥ずかしい。


「……すまない。見すぎた」ゆっくり目をそらしたシルヴァ様。


 顔が熱い。耳が熱い。もしかして顔が真っ赤になってしまってはいないだろうか。お化粧しているから大丈夫?


「ド、ドレスがきっと良いんですね! このドレス、中等部の卒業式の時に義両親が知らない間に用意してくれていたようなのですが、私はご存じのようにあの時出席できませんでしたから……」


 跳ねる鼓動を隠したくて口が軽くなる。

 ふわふわした気分で頬が火照りっぱなしだ。

 気持ちが隠せなくなりそうで、本当に困る。


「そうだな。そのドレスを着られて良かった」

「は、はい。とても気に入っていますっ……あの、シルヴァ様……聖皇庁(せいおうちょう)にいらしていたと伺いました」

「ああ、アバクスから聞いたのか」

「とても危険なところにいらっしゃって……その、心配でした、とても。ご無事なお姿を見ることができて、心から安堵しました」


 シルヴァ様はうなずき、私に一歩近づく。


「……俺も会いたかった、君に」

「! そ、そう、なのですね!?」


 些細な言葉が嬉しくていちいち意識してしまう自分を抑えようと苦心していると「暗殺の黒幕のほうは片がついた」とシルヴァ様は言う。


「黒幕……?」


「ああ。国の中で粛清を受けた。一派ももう一網打尽にされている頃だ。念のためしばらくは警戒を続けるべきだが……それは伝えたかった」

「……どの国の要人だったのです?」

「いずれ伝える。すこし待ってほしい。また、実行犯ともいうべき聖職者はすでに処分され、召喚魔法の管理も今後より厳重に徹底していくそうだ。詫びを兼ね、今回の式典にも聖皇庁から二人の高位聖職者が出席している」

「…………それは……承知いたしました。ありがとうございます」


 きっとそれは、シルヴァ様が自分の身を危険にさらして、その身ひとつで高位聖職者や外国の権力者たちと闘って勝ちとったものなのだ。

 それがありがたすぎて、そして、自分の無力さが悔しい。


(────もっと強くなりたい。もっと、魔法だけじゃなくて、武力だけじゃなくて…………自分を守れて、望みを叶えられるような力がほしい)


「では俺は戻る。式典が始まってしばらくすれば呼ばれるだろう。がんばれ」

「そうですね。途中で転ばないようにがんばります」


 クスッ、と笑いがシルヴァ様の口から漏れた。


「ああ、それぐらいでいい」

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