16 褒章の理由
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「あっははははははっ!! それで一緒にメリディアナに操られちゃったんだ!」
大会議室の大きな円卓の向こう側で、ルーク殿下がゲラゲラ笑う。
セオドア殿下がたしなめる。
「やめろ。笑いすぎだ、ルーク」
「いやー見たかったぁ。何やらされたの?」
「……大したことではありませんでしたわ」
「やめろと言っているだろう。淑女に対して無礼だぞ」
怒りと羞恥を理性で無理矢理押さえつけたらしいアナスタシア様に連れられて、私がやって来たのは、学園の最奥にある貴賓用の会議室。
王子二人がそこに待っていた。
先ほどの件を話すつもりはなかった。
なのに、ルーク殿下がめざとく私とアナスタシア様の様子がおかしいことに気づき、根掘り葉掘り聞いてきた。
仕方ないので(三回まわってワンとかの)詳細をぼかして話したのだ。
「あの、アナスタシア様には心より謝罪申し上げます」
「別に謝らなくて良くない? メリディアナの方が普段遥かに迷惑かけられてるでしょ」
「迷惑のそもそもの原因が何おっしゃってるんです?」
他人事すぎる言いぐさに、思わず素で突っ込んだ。
ルーク殿下が「ええ……そこまで言わなくても……」と途端にシュンとしてみせる。
(というか……さっきのは、さすがにアナスタシア様までかかるような強さじゃなかったけど……)
マクシーナ様よりは劣るけれどアナスタシア様も魔力は強かったはず。
総合成績は不動の学年一位だと有名だけど、魔法の成績も優秀だそうだ。
あんな弱く調整した脳干渉魔法にかかるわけがないのに……よっぽどお疲れだったんだろうか。
体調が悪くなれば魔力量は一気に落ちる。確かに目元は、化粧でクマを隠しているっぽい。
「でも残念だなぁ。俺が迎えにいけばよかった。
魔法医学界の伝説オーリウィック先生直伝の脳干渉魔法を体験してみたかったよ」
「ルーク! さらに無礼だぞ! メリディアナ嬢は治療のために腕を磨いたのだ」
弟をたしなめながら、ふと、婚約者の物言いたげな視線に気づいた様子のセオドア殿下。
「何だ、アナスタシア嬢。我々兄弟が魅了魔法にかかっているという噂を本気で信じていたのか?」
「い、いえ。そういうわけでは」
「ありえないでしょ。だって俺たち、何だかんだで公務で頻繁にシルヴァに会ってるし」
「……あ」
アナスタシア様は漏れてしまった声に口を手で押える。
初めて思い至った、という反応だった。
私も補足する。
「ルーク殿下のおっしゃる通りです。魔法や呪いをかけられても、シルヴァ様の近くに行けば解けます。魅了魔法、脳干渉魔法も例外ではありません。高頻度でシルヴァ様に会ってお話していれば、たとえかけられてもすぐ解けて軽症で済む可能性が高いですね」
そういえば、脳干渉魔法に関する内容は、学園の魔法の教科書からは数年前に抹消されたらしい。
私の父も含めた魔法医師たちが、脳干渉魔法の危険性に警鐘を鳴らし続けた。
その結果、違法な魔導書の取り締まりが強化され、刑罰も強化されたのだが、その余波のようだ。
だから、確かにアナスタシア様ですら詳細を知らなかったとしても仕方ない。
だけど、知識すら断たれたことで『いやらしいことを考えているから魅了魔法なんかにかかる』なんて誤解が広まるのは危険だ。
(やっぱり最低限の知識は授業で教えた方がいいよね。今後の被害を生まないためにも……)
いや、脱線している。
さすがに魅了魔法の話をするために呼び出したわけじゃないよね?
「あの。校則違反をしたのは事実ですので、罰は甘んじてお受けしようと思います。それより本題は
?」
「高等部女子生徒会長殿。メリディアナ嬢への罰はどれぐらいになる?」
「前例にのっとれば反省文十枚と奉仕活動ですわ」
「えー十枚も!? 三枚ぐらいにできない?」
「いや、十枚ぐらい書きますし。それより、私がここに呼び出されたのは、そもそもなんのご用でしょうか?」」
王子殿下お二人は、決闘以降学園には来ていなかった。久しぶりの登校のはずだ。
それで私を会議室によびだす理由とはなんなのだろう。
うむ、と、うなずいたのは、三人の真ん中に座っていたセオドア殿下だった。
背筋を伸ばし、殿下は改まった様子で口を開く。
「メリディアナ・オーリウィック侯爵令嬢どの。
第二王子セオドアならびに第三王子ルークが、国王の名代として申し上げる。
違法召喚された危険魔獣討伐の功に報いるべく、貴君への褒章の授与式を執り行いたい」
「……?」
言われた言葉を、数秒、咀嚼した。
「それは、シルヴァ様と同時に、ということでしょうか?」
「否。亜竜の召喚は公表されないことになった。ゆえに、褒章を授与されるのは君だけだ。シルヴァ兄上の手柄はなかったことにされる」
「なんでそんな……ウィール宰相へのダメージを減らすためですか?」
「国民の、王家への信頼を毀損しないため、でもある」
つまり、亜竜の召喚は重大すぎるので隠蔽……?
いや、待って。
「セオドア殿下もお分かりですよね? あの場にシルヴァ様がいらっしゃらなかったら、どれだけの人が亡くなったか」
「もちろん。陛下には、私からも何度も申し上げた」
「だったら……」
「『だからこそ公表できない』だそうだ。だが、決闘の場で何かモンスターが召喚されたところまでは皆に目撃されてしまっている」
「なるほど、それで、召喚されたのは崩壊闇狼だけということにしておきたい、と」
言いたいことは理解できる。
そんな魔獣が召喚されてしまったなんて公表したら、国民の不安を大いに煽るだろう。
亜竜は召喚途中で全貌を現してはいなかったし、誤魔化せると踏んだのか。
だけどそれでシルヴァ様だけ割を食うのはおかしい。絶対に。
「では、私の手柄をシルヴァ様のものにしていただくことはできないのですか?」
ふつふつと沸く憤りをこらえ、できるだけ声を冷静に保ちながら返した。
セオドア殿下は眼鏡の奥の目を見開く。
「君は、本当に兄上のことが……大事なのだな」
そう言いながら寂しそうに笑った。
「だが今回の褒章の理由はそれだけではないのだ」




