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14 学園の変化

     ***



 マクシーナ様とアナスタシア様を順に魔法治療したあとは、憲兵と騎士団による、いろいろな……それはもう大変長い事情聴取が待っていた。


 私が聴取を受けている間に、観客の学生たちは順を追って帰宅させられた。

 そして先生方やシルヴァ様、王子二人は、あわただしく対応に動いていたようだ。


 目を覚ましたマクシーナ様は、違法な召喚魔法を行った嫌疑で拘束されたらしい。

 半狂乱になりながら私への呪詛の言葉を吐いていたとか。

 私の魔法治療を受けたことを聞かされたらどんな顔をするやら。


 例の魔杖は、とりあえず騎士団によって差し押さえられ、厳重に管理されながら王宮へと運ばれていった。


 色々終わって解放され、私が侯爵家に帰りついた時にはもう夕方だった。


 馬車を降りると、待ち構えていたように義母が駆け寄ってきて面食らう。



「おかえりなさい。知らせはきていたけど、本当に怪我はないのね?」

「は、はい、全然大丈夫です。ありがとうございます」

「聴取がずいぶん長かったのね。何か食べることはできたの?」

「一応軽食を少しいただきました」

「じゃあ足りないわね。(うち)に入りましょう」


 いそいそと背中を押され、邸に入る。


 義母はわりといつも冷静なのに。

 ……もしかして決闘のこと、実は気になってたの?

 気にしていたけれど、気にしないふりをしてくれていたのだろうか?


「お義父様は王宮に緊急招集されたわ。高官以外は箝口令が敷かれているみたい」

「さすがに、モンスターの違法召喚、しかも亜竜クラスなんて、そこまでの事態ですよね……」


 箝口令がしかれるのもわかる。

 王都のど真ん中で亜竜召喚なんて、大量殺人未遂、ひいては反乱と見なされても仕方がない行為。

 それを、王族令嬢で宰相の娘で王子の婚約者……なんて立場の女性がやったとなれば、王権にとっても大スキャンダルだ。


 そうは言っても、たくさんの観客の生徒たちも目撃していた。

 魔法防壁の外からでは何の魔獣が召喚されたかまでは、わからなかったかもしれないが、『何か大変な事態が起きた』ことは確実に察するはずだし、人の口に戸は立てられないだろう。


「マクシーナ様と宰相閣下はどうなるでしょう」

「いまの時点では何とも言えないわ。ただ宰相は宗教勢力の後ろ楯が大きいからそうそう失脚はないでしょうね」

「ああ……聖皇庁(せいおうちょう)とのコネがものすごく強いんでしたっけ」


 聖皇庁は世界を二分する宗教勢力の一つ、聖皇教会の中枢だ。


 事情聴取でも話したのだけど、たぶん召喚はマクシーナ様の意思じゃない。あれは何か魔杖に仕掛けがあった。恐らく時限式の。

 むしろ直前の魔力暴走も、魔杖に触発されて起きたのかも。


「それより疲れたでしょう。すぐに食事を用意させるわ。

 食べたら、ゆっくり休みなさい」


「はい……はい、ありがとうございます」


 『親』に心配される感覚が久しぶりで、子どもの頃に還ったようで、何だかちょっとこそばゆい。

 それでいて力が抜ける感じがする。

 義理の両親とはいえ、『親』というのはやっぱりありがたいなと思った。


      ***


 週明け、学園は臨時休校となった。

 翌日には通常通りの授業が始まったのだけど、学校のなかでも重職の先生方はずっと王宮に出ているようだ。

 義父もあれから毎日、朝から晩遅くまで長時間王宮に拘束されている。

 それは他の高官たちも同じらしい。

 また、シルヴァ様やセオドア殿下も事態の対処にお忙しいのか、決闘の日以来、学園でお見かけしていない。


(あの時シルヴァ様は、何か私に言いかけていらっしゃった気がするけど、何だったのかな……)


 ……決闘から二週間近くたった。

 その後のことをほとんど何も知らされないまま、私はいつも通り学園に通っている。

 いや、強いて言えば『いつも通り』ではないことが一つある。



「────また?」



 登校早々、もう一体何百回めになるのか、という言葉を思わず口にしてしまった。



『メリディアナ嬢、万歳!!』

『見事な勝利おめでとう!』

『ずっと憧れていました! ぜひ一度デートを!』



 私のロッカーの前に、そんなメッセージカードとともに花や贈り物が積まれていた。


「今日もみんな、朝早くからすごいわね……」


 珍しく同じ馬車で一緒に登校してきた義姉レイチェルが、感心したように言う。


 決闘以来、マクシーナ様は学園には来ていない。おかげで私に対する嫌がらせも減っている。

 そのせいなのか何なのか、最近はこんな風に堂々と花や贈り物が置かれるようになったのだ。


 同行してきた侍女たちが、苦笑いしながら花束と贈り物を拾い上げていく。

 通常貴族社会では、未婚の女性の外出には、侍女や付添人の同行必須だ。

 だけど、学園の中では生徒の自立を促すため、使用人の同伴は禁止されている。

 

 とはいえ、王子たちのように護衛をつけている場合もあるし、私も今は、この贈り物の対処に必要なので、学園側に特別な許可をとって朝と帰りに侍女に来てもらっている。


「ねぇメリディアナ。今日も、これ全部贈り主に返してしまうの?」

「ええ。受け取る理由もないですし」

「そうなの……もったいないわね。だって、もしかしたらこの中の誰かと運命のロマンスが...…」

「始まりませんから」

「もう、ほんとドライなんだから! じゃあね」


 義姉は惜しそうに言って、先に教室に向かった。

 彼女はああ言うけれど、そもそも私は『ピンク髪の尻軽』という扱いなので、贈り物を置く男性陣の目的も推して測るべし、だ。


「じゃあ、後はお願いね」

「「はい。行ってらっしゃいませ」」


 この場は侍女たちにまかせて、取り急ぎ、必要な学用品を持って教室に向かおう。

 ……と、思ったら、ブワッと進路を塞ぐように大きな花束が差し出された。


「あっ、あのっ! メリディアナ様!」

「……?」


 花束のかげから、知らない女子生徒が顔を出した。

 制服に入っているラインから、同じ高等部一年のようだ。

 貴族クラスの子はもちろんわかるし準貴族クラスの子も顔は大体知っているから、高等部から入学する郷紳(ジェントリ)クラスの子だろうか。


 なぜか頬を染めながら「あの……遅くなってしまったんですけど、ま、魔術決闘の勝利、おめでとうございます! こ、このお花は心ばかりのものですが……」と、花束をこちらに差し出してくる。

 ピンクの芍薬(ピオニー)をメインにした、華やかで可愛らしい花束。

 女の子に花束を差し出されるのは初めてで、混乱しながら「ええと、ありがとうございます……?」と受け取ってしまった。


 女子生徒はもじもじしながら続ける。


「あのっ……先日の地震災害の折りには、うちの領地にも救援に来て頂いて……」

「ああ、三月の?」

「は、はいっ! 私、サウニー王領の行政官の娘です! おかげで……崩れた邸に閉じ込められていた家族も使用人たちも、みんな助かって………」


 三月、南方で地震が起きた。

 通信魔法で地震発生の報を得た王家から要請を受け、魔法医師の国家試験に通ったばかりの私は救援に向かうことになったのだ。


 幸い義父が、災害対処の専門家を何人も知っていた。

 彼らと一足先に被災地入りした私は、助言に従いながら各地の役人たちとともに救助を指揮、救援所を設置させ、重傷者の魔法治療を行った。

 救援隊の本隊到着後は治療に集中した。

 それでも全然、すべての命を救えたわけじゃないけど。


「あ、あのときは本当にありがとうございましたっ!」

「え……あ、はい。お父上も直接お礼を言いにいらっしゃいましたし、改めてそんな」

「メリディアナ様のことっ、いつも応援していますっ。ほ、本当に、あ、ありがとうございました!」


 真っ赤な顔でどうにかそう言って頭を下げた女子生徒は「失礼します!」と踵を返して去っていった。


 寄ってきた侍女が、花束を受けとる。


「こちらは、持ち帰りますね」

「………………うん、お願い」



     ***

※固有名詞について一部修正しました。

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