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10 『心臓』を奪い合え

「なっ……何よ!」

「いいえー。第三王子のご婚約者様はお忙しくて大変ですものねー! 予習復習の時間もとれないですし、点数ごまかしてほしくもなりますよねー!」

「!? ……あなた、って人は……!!」


 いつもの仕返しにわざと大きめの声で吹聴してやると、マクシーナ様が目を白黒させた。


 妃教育をサボっていることや、魔法以外の成績がボロボロなのに父親の権威を笠に着て教師に加点を迫っていること。

 ロマンス小説を始め、いろんな商人からお気に入りの品を献上させていること。

 これもルーク殿下から愚痴を聞かされていた(だから文句は本人に言えと)。


「ふざっ……ふざけないで! そんなの、デタラメよ!」


 顔を真っ赤にして叫ぶマクシーナ様。

 ざわざわする観客席。

 特別審査員席でルーク殿下がおなかを抱えて笑っている。

 セオドア殿下は顔の前で手を組んでカッコつけたポーズでごまかしているけれど、プルプル震えて笑いをこらえているのは隠せていませんよ。


「で? 私に『ざまぁ』するんでしたっけ?」

「ええ、そうよ! あなたなんて……」

「『ざまぁ』ってなんの略か知ってます?」

「え? え? …………えっと……?」


 平民のスラングの語源なんて知りませんよね。

 むしろ『ざまぁ』って言葉を何で知ったんだろう。あ、小説か。


「────静粛に!」


 ざわめきを一刀両断する声がコロシアムに響いた。

 いそいそとフィールドの反対側に戻るマクシーナ様。

 抗うことなく広がる静寂。

 その中を、軍装のような正装で歩いてくるのが今回の主審、生徒会長アナスタシア様。


 正方形のフィールドの中央に立った彼女の前に、小さな魔法陣が浮かび上がり、拡声魔法が展開される。


 

「これより、魔術決闘を開始します。

 今回選ばれた種目は『六人の将軍』。

 伝統的な魔術決闘のひとつです」

 

 アナスタシア様の手には原稿などはない。

 すべて頭のなかに入っているのだろう。


「両者にはそれぞれ、石膏で作られた六つの将軍像が渡されます。

 外見はそっくり同じ形の六つの像のなかに、ひとつだけ、胸に『心臓』と呼ばれる球体の赤瑪瑙(めのう)または青瑪瑙が埋め込まれた像があり、それを『将軍』、あとの五つを『影』と呼びます。

 対戦する両者は、六つの石膏像を念動魔法(テレキネシス)で宙に浮かべ、そのお互いの石膏像を破壊しあいます。

 破壊されればその像は死体(デッド)となり地面に落ちます。

 また念動魔法を失敗して地面に接触させてしまえばそれも死体(デッド)です。死んだ像は地面から動かせなくなります。

 相手の像が一つ死体(デッド)となるごとに1ポイント加算されます」


 ここまでの説明だとポイントが多い方の勝利なのかと思われそうだが、そういうわけではない。


「勝利条件は、先に相手の『将軍』を破壊した上で『心臓』を手中におさめること。

 『将軍』を破壊できても『心臓』を奪わない限り勝負は決しません。

 相手の『心臓』をどちらも得られないまま試合時間終了となった場合のみ、ポイントの多い方が優勢勝ちとなります」


 説明の間に、私の前に、青く染められた石膏像が六つ並べて置かれていく。

 マクシーナ様サイドには赤い石膏像が。

 どの像が『将軍』か、本人にさえ知らせないルールなのだ。


 フィールドの四隅の外側に、副審である先生方が四人立った。

 皆、それぞれ赤と青の旗を持っている。

 フィールドの中に立つアナスタシア様もまた、同じ旗を手にしている。


「勝利は、副審の判定をもとに主審である私が判定します。

 赤はマクシーナ・ウィール、青はメリディアナ・オーリウィックです」


 審判たちは、マクシーナ様が勝ったと判断すれば赤の旗を、私が勝ったと判断すれば青の旗を上げるわけだ。


「両者、フィールド内へ」


 アナスタシア様の指示に従い、私はフィールドの中に入る。

 マクシーナ様もフィールド内に入り、お付きの人々が、持参の魔道具も中に置いた。

 あちらは付添人も侍女もたくさん来ている。


(ほんと、あれ、持ってきちゃったんだ……)


 『あれ』とは、ウィール公爵家が家宝として大事にしている『処刑車輪』。

 周囲に鋭い(とげ)のついた、一対の金属製の車輪。

 かつて戦場で数多の敵を(ほふ)ったという武器で、マクシーナ様のお祖父様が叙爵されたときに王家から下賜されたという代物だ。


 それに加えて、マクシーナ様はその手に、魔力を増幅する杖、『魔杖(まじょう)』を携えている。

 彼女の魔杖はかなり大きく、金属製で、無数の歯車を組み合わせたような凝った細工がなされている。


「────試合場封鎖!」


 副審の先生方が四隅に置かれた水晶玉に魔力を注ぎ込み、正方形のフィールドが一気に透明な壁でおおわれる。

 強固な魔法防壁である。

 観戦者と副審が魔法攻撃の巻き添えを食らわないようにするためのものだ。


 フィールドの中には、私とマクシーナ様、主審アナスタシア様の三人だけ。


 マクシーナ様がニヤリと笑って魔杖を振り、石膏像と処刑車輪を魔法で宙に浮かべる。

 これ見よがしに処刑車輪をグルグル回してみせながら。


「これで石膏像を一瞬のうちに割ってあげるわ!

 勢いあまってあなたも車輪に巻き込んで潰してしまうかもね~。

 謝って全面降伏するなら今のうちよ!」

 

(そんな歴史的遺産をこんな使い方しないでください)


 心中でつぶやきながら、こちらも石膏像に念動魔法をかけて持ち上げる。

 計十二体の石膏像が地面から離れたのを見計らい、

「開始位置について!」

とアナスタシア様が号令をかける。


 …………カアアアアン!

 銅鑼(ゴング)の音が鳴った。


「いくわよ尻軽売女! ────え?」


 ゴングと同時に赤い石膏像のうち五つが音を立てて爆発した。

 マクシーナ様が赤い粉塵を見上げて呆気にとられているうちに、私は残り一つの石膏像を手中に収める。


「さっきの話ですが」


 そのまま像を宙にひょいと放り投げ、力を調整しながら撃ち砕く。

 粉々になった中から赤く煌めくものが落ちてきたのをパシッと受け止めた。


「『ざまぁみろ』の略ですよ、マクシーナ様」


 赤瑪瑙の球を、よく見えるよう掲げて見せてあげる。

 私サイドの青い石膏像は六体とも無事なまま、私がさっき居た場所の周囲に浮いている。

 処刑車輪が音を立てて地面に落ちる。


「……え?」


 何が起きたのかわからないらしいマクシーナ様が口をパクパクさせている。


 フィールドの四隅にいた副審の先生方は、バッ!と旗を上げた。

 全員、青い旗を。

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