第1話 おんもは怖いところ
「お嬢様。そろそろ出ても良いのではないのですか?」
ライラが神妙な顔で言う。そんな顔しても私は騙されないぞ。
「イヤだ!絶対イヤだ!」
「そう言われましても……。一体いつまでこうしているつもりですか?」
「ずっと!!」
皆さまご機嫌いかがですか?あの後私は神によってレヴィ・アラクイアという人物となって異世界に転生しました。
転生した結果私はこの異世界で手に入れたチートを活用して盛大に引きこもっているわ。
引きこもった理由は神にすぐ死ぬよって言われて臆病になった訳ではないのよ。この世界にある魔法にはどハマりしたからなのよ。
この世界の魔法ってお約束通りというか、かなり自由度が高かったのよ。やろうと思えば地球での空想科学を実現させられるのよ。こんな楽しいことはないわよ。こればっかりはこの世界に転生させてくれた神に感謝したわね
魔法という無限の可能性に魅せられるのに時間は掛からなかったわ。そして私は魔法の研究に没頭したわ。今も研究は続けているのよ。
魔法の研究は色々やってるけど私が初めに行った研究は結界の魔法だったわ。本当は派手な魔法を研究しようと思ってたのよ。だけど当時の家の近場にいた野犬に殺されかけたことがあったのよ。
あれは本当に怖かったわ。そして私は自分の身を守ることの重要性を知ったのよ。
本当に神の言った通りあっさり死ぬ可能性があるということが身を持って知ったわ。本当にあの時死ななくて良かったわ。
そして今はいつも通りの魔法の研究で引きこもっている私を外に出したいライラと外に出たくない私の仁義なき戦いが行われているのよ。
「ずっとなんて。お嬢様。この前研究は終わったと仰っておりましたよね」
「この前のは終わったけど、また新しい研究を始めるから終わってないわ!」
魔法の探究に終わりはないのよ。今度はゴーレムを作って1年戦争ですら勝ち抜いて見せるわ。
「だから終わるまで出ない!」
「そう言ってお嬢様。以前屋敷の外に出られてのがいつだと思われるのですか?」
「以前外に出た時?」
何時だったかしら?この前の前の研究が始まる前に出たとはずよね。
必死に思い出そうとするけど思い出せないわね。魔法の事は忘れないのにね。
「もう100年前でございます」
100年!
「なんだ。まだ100年なのね。それならまだ出なくても問題ないでしょ」
びっくりした。100年なんてつい最近じゃない。ライラは脅かすのが上手いわね。
「お嬢様。まだではございません。もう100年なのです」
ライラが呆れたようにため息を吐く。
「いや、100年でしょ。そんなのあっという間じゃない」
またため息を吐かれた。
「お嬢様。お忘れかも知れませんが100年とは人の一生とほぼ同じ長さです。普通で見たらお嬢様は一生を引きこもって過ごしている状況です」
「一生を引きこもる!?………なんて魅力的な言葉」
それは怖いお外に行かずにずっと好きな魔法の研究をやって過ごすという事。魅力的すぎるわ。
「その様な事だからお嬢様は何時まで経っても社交性が0なんです。大体私たち以外で他の方とお会いしたのが何時以来だと御思いですか?」
ライラ達以外で会った人?
「ちょっと待って。考えるから」
「そこは思い出すでございます」
うるさいわね。ちょっと黙ってて。
「……あぁ!あの5人組がいたわね!」
なんか新しい国の為にとかなんか言って暫くうちに居候してた変な集団。
なんで国の為にって言ってうちに居候したのかしら?変人の考えることは分からないわ。
「思い出せてようございました。それでは彼らと会ったのは何時でしょうか?」
何時会ったか?え〜っと、確か丁度やりたい事も一息ついたって思って暇だった時だから……。というと。
「5日……ぐらい前?」
「500年前でございます!」
ひ〜。ラ、ライラが怒った。目尻が限界以上に上がってる。
「ちょっと、ライラ。怖い。怖いから」
その恐怖顔で近づいてこないで。本当に怖いから。夜夢に出てくるやつだから。
「どれだけお嬢様が引きこもっているかお分かり頂けましたか?」
離れた途端にライラの顔から表情がなくなった。この対比が余計に恐怖感を煽るわね。
「お分かり頂けましたか!」
あまりの恐怖に私は頷く事しか出来ない。
「ですので、せめて屋敷の外に出るぐらいはしてくださいませ」
「それはイヤだ!」
ライラは怖い。超怖いけど、お外はもっと怖いからイヤだ。
「こんなに魔法を極めた状態で何が怖いんですか。普通にお嬢様を害する者なんていませんよ」
ライラが首を横に振っている。何か言ってたけど小声だったから聞こえなかったわ。何を言ってたのかしら?
「これは方向性を変えないといけませんね」
方向性って何よ。私はお外には出ないわよ。
「お嬢様の魔法の研究は意味があるのですか?」
は?意味があるのかってどういうことよ?
「魔法は至高よ。これの研究に意味がない訳なんてないじゃない」
私がカチンと来たのが分かったのかライラは言葉を続ける。
「その研究を何百年と続けておられますが、お嬢様はいまだに恐怖で外に出たくないと言われる様子。それで意味があると言われましても。その様なポンコツなもの」
小馬鹿にするように顔を横に振るライラ。
「私の魔法がポンコツですって!?冗談じゃないわ!ライラ!あなたは魔法の凄さを分からないようね!」
「素晴らしくても外にも出られない様なものでは」
今度はため息を吐いてるし。
「私の魔法があればお外なんて怖くないわよ!私が本気を出せばどこへでも行けるわよ!!」
「言質…取りましたよ」
ライラがニヤリと笑う。その笑いを見たら身体中の血の気が引いたのが分かった。今私は勢いに任せてとんでもない事を言ってしまったかも。
「あのライラさん。まずはお庭とかがいいと思うのよ」
「魔法とは素晴らしいものですね。お嬢様がどこへでも行けるというのですから」
あぁ、こいつ私の話を聞こうとしてないわね。
「大丈夫です。お嬢様。お出かけの際は私だけでなく執事のマルコも一緒に行きますので」
ライラ、私は付き添いの人数を心配しているのではないのよ。
あぁ、なんかメモ帳に何か書いてるし。お願い!私の話を聞いて!
こうして私の初めてのお出かけが決定してしまった。どうしよう。お外怖いんだけど。




