「いつまで待たせんの」
少々散らかった部屋、壁には黒っぽいポスターと派手な刺繍のジャンパー
「眠い……」
朝早くから野球の練習をしていた鉄は、部屋に美優を招き入れるなりそう言った。
ここまで連れて来られて、そんなことを言われましても。
まだ夕方にもならない時間だし、シャワー浴びて着替えたらどこに行こうかって話だったのに。
練習用のユニフォームのまま、鉄はベッドに寄りかかって目を閉じている。
いくらフローリングだとはいえ、砂埃を纏っていることに変わりはない。
かと言って脱がせてやるわけにも行かないし、鉄が眠ってしまったら美優がここにいる理由がない。
「てっちゃん、せめて着替えないと」
「うん……」
億劫そうにユニフォームを脱いで丸め、コンプレッションウエアだけになった鉄は、そのままベッドに這い上った。
ちょっと待ってよ、本格的に寝ちゃうの?
「寝ちゃうの? 寝ちゃうんなら、私は帰るよ」
半分くらいオカンムリで、美優は鉄の鼻をつまんだ。
「……ダメ」
目を閉じたまま美優の手首を掴んで、鉄が口の中で言う。
「俺が起きたとき、みーがいてくれないとダメ。だけど限界。十分だけ寝かせて」
それだけ言って、呼吸が寝息に変わる。
本当に限界だったらしい。
起きたときにいないとダメとか、一体どこの幼稚園児ですか。
しかも十分だけって、もう二十分過ぎてますけど。
唇を尖らせたまま、ベッドに寄りかかって、美優は投げてあったコミックスを読んでいる。




