「人は変わっていく」
都内某所、ネクタイを外しながらの夫。
「お土産」
慧太が差し出した包みを暁が受け取り、瑞穂にリレーした。
「旨いって聞いたからさ」
早速包みを開いた瑞穂が、暁の手の届かない場所へそれを移す。
夕食前に見せていいものじゃない。
共稼ぎの夕食は、慌しい。
急いで洗い物を片付けて風呂に導いてしまわないと、小さな子供は眠くなってグズグズする。
のんびり食後のお茶ってわけにいかないのだ。
「ぱぱのおみやげはー?」
一人前に主張する暁に、瑞穂は棚の上から包みを取り出した。
梅の花の形の煎餅は、軽い。
「お、パパも食べようっと」
食器を下げた慧太が暁と一緒に食卓に戻り、お茶を淹れている。
自分だけがバタバタと家事をこなすのも、なんだかつまらない話だと、瑞穂も食卓に戻った。
「あ……おいしい」
「だろ?野口さんが好きなんだって、山口さんが買ったから」
「へ?」
瑞穂が知っている山口は、プライベートなんか他人に見せたがらない。
仕事中に家族へのお土産を買うなんて、想像もできない。
「山口さんが、家用に買ったの?」
「ああ、なんだか嬉しそうに買ってた。野口さんが育休中だから、気ぃ遣ってんじゃない?」
他人にどう映るかよりも、そちらのほうが大切になったのか、と瑞穂は少し感心する。
人は、変わるものだ。
「暁くん、お煎餅持ったまま寝ちゃダメ!慧太、お風呂!」
「おおっと!暁くん、ほら、パパとお風呂!」
グズりはじめた暁を脇に抱え、慧太はバスルームに向かう。
平日の夜に気は抜けない。




