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「頭上のバレンタイン」
埼玉県某所にて、自分の頭上に皿を持ち上げる男。
「返せって言ってるじゃない!」
蹴ったってビクともしない足を蹴ってみる。
ヤツの頭上にあるのは、失敗したアーモンドのカカオパウダーがけ。
ちょっとローストし過ぎたかなーと思ったアーモンドは、余熱で更に焦げた。
カカオパウダーを甘めにすれば大丈夫かと思ったのに、カカオだけじゃなく苦い。
そんなものを食べさせたとあっては、後で何を言われるかわかったもんじゃない。
「俺に食わせようと思って作ったんだろ?決死の覚悟で食う」
「食べるなっ!作り直すっ!」
「いや、世界には食べることもできずに……」
「そんなこと言ったってダメっ!」
飛び跳ねても届かない位置で、ヤツは皿からアーモンドを取る。
「口に入れるなって言ってるでしょうがっ!」
叫ぶ間もなくいくつかを口に放り込んで、熊はニヤっと笑った。
「努力の味がする」
……来年は挽回してやる。




