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お喋りバードは自由に生きたい  作者: Mikura
勇者の相棒

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93.魔王と勇者と不死鳥の晩餐

視点が変わります。セイリア→アロイスです



 魔王との晩餐である。前回は二人だったが、今回はアロイスが加わって三人の晩餐だ。魔王と勇者と不死鳥の晩餐という字面には中々のインパクトがあるのではないだろうか。

 私とアロイスは並んで、ラーファエルと向かい合うように席に着いている。現在の私は小鳥の姿であるので、席につくというよりはテーブルに乗った少々行儀の悪い格好だ。鳥に行儀が良いも悪いもないかもしれないが。

 それでも真向かいにある顔がとても機嫌良さそうに見えたので、安心して並べられたご馳走に舌鼓を打っていたら「そういえば」とよく響く声が話を切り出した。



「セイリア、俺の渡した魔術具をなくしただろ?」


「ごふっ」



 せっかくアロイスが私のために細かく切分けてくれたお肉だったのに、噴出してしまった。とても勿体無いし品もない。恐る恐る目を向けた銀眼の魔王は、とても愉快そうに私を見ているだけであり、怒ってはいなさそうなのでひとまず安心する。

 ……貰った物を捨ててしまったというか、勝手に譲ってしまったことにちょっと罪悪感があるんだよね。後ろめたい気持ちがあると過剰な反応をしてしまうのが人間の心というものである。鳥だけど。



「ああ、別に怒ってないからそう構えるな。どうせあの女狐に唆されたんだろ?」


「えっと……」



 女狐という言葉が誰を指すのかは直ぐに分かった。ラゴウで神と崇められている九尾の狐、サクヤのことだ。彼女に何か言われたから貰った魔術具を置いてきたのではなく、私がその魔術具を持ち続けることにアロイスが反対したから置いてきたのである。しかしそれを言ってしまうと、ラーファエルの中でアロイスの心象が悪くなってしまいそうで口篭った。

 アロイスならば色々と分かってしまうだろう私の態度だが、鳥であるためかラーファエルに伝わってしまうことはなかった。彼はそれ以上言わなくていい、というように一つ頷く。



「新しいのを作っておいたから、それを持っていけ。今回お前を呼んだのはそのためだ」


「あ、うん。……え、それだけなの?」


「ああ、それだけだ。勇者には別の用があるがな」



 なんと、私を呼んだ理由はたったそれだけだったらしい。そんなことで人間の国に一騒動起こしてしまうなんて困った魔王だ。アロイスも蒼褪めて動揺していた王城の人間を思い出したのか、少し渋い顔をした。



「ラーファエル、君の行動はもう少しで国軍を動かす程の騒ぎを起こすところだった」



 王女の名前が“セイリア”で、魔王が姫を寄越せと言ってきた!という勘違いが巻き起こり、王族とその臣下達が慌てたことをアロイスが伝えれば、形のいい眉を片方だけ持ち上げたラーファエルは不服そうな声を出した。



「俺にとってのセイリアはお前だけだ。王女の名前なんて記憶になかったな。次があるなら気を付けてみてもいいぞ」



 ……ラーファエルってちょっと俺様入ってるよね。

 三者の晩餐は雑談を交えつつ和やかに終了した。ご馳走をお腹いっぱい食べて大満足の私は、男同士の話があるという二人を残して先に部屋に戻る。私は女の子なので男同士の話には交ざれないし、大人しくお部屋で待っていることにする。うん、女の子だからね!鳥だけど!




―――――――――




「さて、あちらに席を移そう。このテーブルじゃ話しにくい」



 セイリアが退室すると、ラーファエルはそのように言って直ぐに立ち上がった。部屋の隅の方に用意された小さな丸テーブルに向かう彼に続き、アロイスも席を立つ。食事をしていた長テーブルが片づけられていくのを横目に見ながら移動し、アロイスは魔王と向かい合う席に着いた。先ほどよりも距離が近く、相手の顔がよく見える。



「おい、誰か酒を持ってこい。お前も飲むか?」


「頂こう」



 ラーファエルが誰もいない空間に向かって声をかけると、直ぐに数種類の酒が積まれているカートを押した女性が入室し、丸テーブルの隣に設置して出て行く。

 ラーファエルが酒精の強い酒を選び己のグラスにたっぷりと注いだ後、瓶を持ち上げて軽く振って見せる。これが飲めるか?と言わんばかりの挑発行為である。ならば受けて立つべきだ、と考えたアロイスもラーファエルから酒瓶を受け取り、同じものを飲むことにした。



「さて、勇者アロイス。腹を割って話そうじゃないか」



 悠々と足を組んだ魔王は口角を吊り上げてニィと笑う。薄い唇から覗く牙は鋭く、人形のような顔には不釣り合いな野性味があった。勇者と呼ばれ人間の中で卓越した能力を持っているアロイスでも、魔物を統べる強者の存在感に飲まれそうになる。強い酒を口に運ぶことで気を持ち直し、鋭い銀の瞳を強く見つめ返した。



「では、私から訊いてもいいだろうか」


「ああ、なんだ?」


「君はセイリアの何を望んでいる?」



 アロイスにとってこの世で最も大事な存在となっているのが、親友であり相棒であるセイリアだ。魔王という強大な存在が彼女をどうしたいのか、それを知るのはアロイスにとって重要な事である。

 セイリアに恋慕をして、彼女を欲しているのかと思ったがそれは違った。目を見れば、自分との違いがよくわかる。だからこそ、何を求めているのか全く見当がつかなかった。



「俺も最近分かったんだがな、俺に必要なのはセイリアの魔力だ」


「……あの箱か?」


「そうだ。あれは一定量溜まった魔力を送信する機能がつけてあるからな」



 ラーファエルがセイリアに渡していた連絡の魔術具は、持ち主の溜まった魔力を作り主に届けることで位置情報を知らせる仕掛けがなされていた。一定量が溜まれば勝手に送信されるため、持ち主がどれほど魔力を持っているかによって送られる頻度が変わるらしい。持ち主がセイリアならば、その頻度はかなり高いものだっただろう。



「セイリアの魔力は膨大だな、一日に一度は魔力が届く。おかげで俺の渇きは大分癒えた。このまま毎日それが続くなら、数十年くらい待ってやろうと思ったんだが……」



 ラーファエルの言葉に一つ引っ掛かりを覚え、自然とアロイスの眉が寄った。数十年くらい待つ、とはどういう意味か。思い当たることは人間である自分の寿命くらいのものだ、と気づき直ぐにそれを問う。



「私が死ぬまで、という意味で合っているか?」


「ああ、そうだ。だが、お前らは女狐に会った。何か聞いただろ?」


「……ああ。私は死を捨てるつもりだ」



 不死鳥であるセイリアが居なければできないことだが、魔力の高い人間であれば不死となれる方法がある。それを聞いた瞬間にアロイスは死を捨てる決意を、不死者として永遠の時を生きる覚悟をした。他の誰に置いて逝かれたとしても、セイリアを置いて逝くことだけはしたくなかったからだ。

 そう答えたアロイスを、ラーファエルは糸のように目を細めながら見つめた。唇は弧を描いているのに、その目は全く笑っていない。



「そうなってくると、俺の予定が狂う。お前が死んだあと、俺はセイリアをこの城に迎え入れるつもりだったんだ」


「……残念だが、私は死ぬつもりはない」


「じゃあ、今のうちに死んでおくか?」



 魔王が笑みを浮かべながらゆったりと首を傾けた。同時にアロイスを襲う、喉元に鋭い刃を添えられたような感覚。アロイスの手も瞬間的に剣の柄に伸びていたが、ラーファエルは笑っているだけだ。相手は本気でない、そう分かっても背中に冷たい汗が伝った。



「冗談だ。今お前を殺せば、アレは暴走する。そうなれば俺も殺されるからな」


「……冗談で殺気を向けるな。笑えない」


「何、ちょっとくらい憂さ晴らしをしてもいいだろ?素直に死んでおけばいいものを、お前のせいで俺の予定が崩れたんだからな」



 随分と勝手な話だ。人が何を望んでどのような行動をとるかは個人の自由である。少なくとも魔王のために死ぬつもりは毛頭なく、アロイスが望むのはあくまでセイリアと共に在ることだ。そのほかは二の次でしかない。



「とにかく箱は捨てさせるな。そうでないなら押しかけるぞ」


「……なんて迷惑な男だ」


「魔王だからな。俺は自分の望むままに生きている」



 一生親しくなれそうにない相手だと悟った。酒でも飲まなければやっていられない、とグラスの酒を一気に飲み干せば、強い酒が喉を熱く通り過ぎていく。そんなアロイスの様子を面白そうに見ていたラーファエルもまた、グラスを傾けて空にした。

 セイリアの魔力を必要としている彼は、生きている限りその魔力を求めるだろう。魔王の傍にセイリアを置くよりは、箱を持たせて離れていたい。しかし、常に魔王へ居場所が伝わるのもあまり良い気分ではない。だからといって箱を捨てれば押しかけてくるか、また呼び出されるか。面倒なことこの上なく、何か解決策はないものか、とアロイスは酔いの回り始めた頭で考えてみる。



「……ラーファエル。セイリアの魔力でなければならないのか?例えば、他の光属性の……そう、スライムなどを育てるのはどうだ?アレならすぐに見つかるだろう?」



 そうは言ってみたものの、その程度の事を目の前の男が考えつかないはずもない。予想通りに首を横に振られてしまった。



「俺は魔王だ。どれだけ強くなろうと、弱い魔物が俺を満たせるはずがない。まあ物は試しと一度育ててみたこともあるけどな、衝動を抑えきれず食ってしまった」



 あまり美味くはなかった、と付け加える魔王にため息を吐きたくなる。不死であるセイリアに、長寿である魔王はずっと付き纏うだろう。この先ずっとセイリアの傍にいる予定のアロイスにとっても、彼は頭痛の種だ。



「ハハ、安心しろ。俺は別にセイリアを愛している訳じゃないし、お前から奪いとるつもりはないぞ」



 自分の感情を親しくもない相手に知られているというのは気分のいいものではなく、顔を顰めながら誤魔化すように酒を口に運ぶ。



「俺が欲しいのはセイリアの魔力。お前に必要なのはセイリア自身。別に同じものを求めている訳ではないし、争う必要はない」


「……そう言う割に、君の視線は私を刺すように鋭い」


「俺にも独占欲があるからな。あの魔力を俺だけのものにしたいが、セイリアにとってお前という存在が大きすぎる。アレを閉じ込めておくのは無理だろうよ。だから、お前に嫌がらせをしてるんだ」



 憂さ晴らしに付き合え、と堂々と言われてしまったアロイスは堪えきれずため息を吐いた。喉を通る酒は酷く苦く、頭を揺さぶるような味がする。

 ラーファエルの視線から逃げるように飲んだ酒はよく回り、部屋へと戻る時には大分酔っていた。自分の姿を見て「おかえり!」と嬉しそうに飛んできた親友に構うことすらできず、直ぐベッドに倒れ込んだ。



「ギャッ」



 短い悲鳴のようなものが聞えた気がしたが、酔いによる眠気に襲われてどうにもならない。そのまま眠ってしまっていたようで、気が付いた時には既に日が昇っていた。

 軽く痛む頭を押さえつつ目を覚ますと羽を膨らませた小さな親友が枕元に立っていて、飲み過ぎを注意される。



「普通の鳥なら潰れてるからね!私は潰れないけど!」


「……すまない」



 どうやらセイリアを下敷きにして眠ってしまったらしい。眠る前に聞こえた悲鳴も気のせいではなかったようだ。アロイスはそれを反省し、膨れて怒る親友に謝罪をしつつ、もう二度と魔王なんて存在と酒を飲むものかと胸に刻んだ。



アロイスはちょっとお酒に弱い。ラーファエルはザルです。


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お暇がありましたらこちらもいかがでしょうか。竜に転生してしまったが同族を愛せない主人公がヒトとして冒険者を始める話
『ヒトナードラゴンじゃありません!』
― 新着の感想 ―
っていうか、魔王と飲み合えるくらいには強いのでは…?
[一言] 現実に置き換えてみたら、魔王って気になる女の子にGPS持たせてたみたいなものですよね(ヤバスンギ)
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