part19
後日、輝たちの自宅にて──
「へえ、もうすぐ昇格か。1ヶ月くらいだっけ?秋希ちゃんの飲み込みが早いのか、美咲ちゃんの教え方が上手なのか」
「いやいや、私は基本的なことしか教えてないから。それにシエラさんとか輝くんも時々教えてるんでしょ?」
秋希の成長ぶりについて報告しに来た美咲と秋希。実は秋希と美咲が組むようになってからまだ一月程しか経過しておらず、秋希の成長速度は凄まじいものだった。
「ん?私は魔法と詠唱時間の短縮は教えたけど、それが出来てるのは秋希の魔力が多いのと、頼れる前衛がいるからじゃない?」
「僕も後衛としての立ち回りはちょっとだけ教えたけど、1人での戦い方じゃないからなぁ」
「輝の場合それ応用してソロでもいけるようにしようとしてたでしょうが」
「あれ?そうだったっけ?」
秋希のこの成長には輝やシエラの知識や経験が役に立っていることは事実であり、2人ともそれは理解した上で尚美咲の功績が大きいと感じている。
それは自らの経験から来るものであり、2人とも澪だった頃のアヤカや男だった頃のエリカが前衛を務めていたからこそここまでの技能を得たと思っているからだ。
「どちらにせよ、秋希ちゃんが昇格すればより探索の幅が広がるし、僕たちのパーティに所属することもできると思う。頑張ってね」
「は、はいっ」
「あれ?私と秋希ちゃんってパーティじゃないの?」
「ん?ああ、パーティの掛け持ちもできるよ?実際、結構な実力者とかはいくつもパーティ掛け持ちしてる人とかいるんだよね」
「そうだったんだ…知らなかった」
「あはは、まあやろうと思わなければ知ることもないからね」
「そういえば輝くん、私と探索してた時は私とパーティ組んでたっけ?」
「そうだね。僕も美咲ちゃんと組んでるパーティと、今の『電光石火』とを掛け持ちしてるよ」
「そうなんだ。ふ〜ん、その割に最近私と一緒に探索してないのに、アヤカさんたちとは行ってるんだ。へぇ〜」
この時、輝は自分が選択を間違ったことを確信した。美咲という美少女からの責めるような視線は1部の男にとってはご褒美だが、こと輝のような性格の男子には致命傷を与える一撃である。
「あ、いや、ほ、ほら美咲ちゃんはずっと秋希ちゃんと組んでたでしょ?」
「秋希ちゃんも大変だろうからって週3で休みなさいって言ったのは誰だっけかな〜?」
「うぐっ」
「まあ私も鬼じゃないし、輝くんがいつの間にかハーレムを築いてても怒らないよ?ちょっとだけ嫉妬はするけど」
「かはっ」
「ま、まあ美咲さん、そのくらいで…。それに美咲さんは配信で忙しいじゃないですか」
次々に致命傷を受け続ける輝。そこに秋希の一言によって一筋の光が差し込む。
「そ、そうだよ美咲ちゃん…。配信の邪魔になっちゃいけないでしょ…?」
なぜか息も絶え絶えの輝が反論。
「う、けどリスナーさんからは輝くんをのぞむ声も多いんだよ?」
「けどほら、僕はあんまり注目されるの好きじゃないからさ。それに僕のやり方はあんまり世界に見られないほうがいいやつだから」
「うむむ…はあ。分かったよ。これ以上は追求しないでおくわ」
「ほっ…」
「そのかわり!たまには私とも探索してよね?」
「う、うん。分かった」
諦めるかと思いきや、さらりと言質を取る美咲。彼女もなかなか強かになってきたようだ。
「へぇ、美咲もなかなか強かじゃない」
「そうね。無自覚人たらしの輝にここまで意識させるなんて」
「やはり美咲さんもこちら側に来るべきではないですの?」
輝と美咲の痴話喧嘩を見守っていたアヤカたち。
美咲が輝にトドメをさしたと判断し、話に介入する。
「え、え?」
「美咲、私たちはいつでもウェルカムよ」
「な、なっ」
「こらこら君たち、これは本人の意思を尊重すると決めたじゃないか」
「え、御門さん?」
「そうだけど、囲める人材は囲っておきたいじゃない?」
「そうそう。それにほら、2人とも輝が好きなタイプじゃない?なら他の男に取られる前に囲っておきたくて」
かなりぶっとんだ事を言っているが、アヤカもシエラも真面目な顔で言っている。
「私はまだ早いんじゃないかと思うんだけどねぇ。もう少し、美咲くんが輝を失うと壊れると思えるくらいになってからでないと」
「何言ってんですか姫芽さん!?」
「そうですわよ御門さん。輝を失ったとしても、またどこかで会えると信じればどうということはありませんわ」
「はっはっは、確かにエリカくんの言う通りだ。しかしね、私のように残された者のことを考えたことはあるかい?…う、言ってたら涙が。輝、ハグ」
「なんで自分で言って自分で被弾してるんですかあなたは…よしよし」
得意気に話していた姫芽だが、なぜか自分の地雷を自分から踏み抜いてしまい、輝に抱きついた。
輝は姫芽を押し退けるなどすることなく、優しく頭を撫でる。
「なるほど、そういう手も」
「いやどう見ても自滅しただけだよね?」
「そうすれば輝になでなでをしてもらえる…」
「いや、だからってこうなると僕の精神が持たないからやめてね?」
「…むぅ、まだ壁は高いなぁ」
「あの、皆さん?え?」
アヤカたちはそれを見て模倣しようとし。
美咲は輝へ至る壁の高さに気合いを入れ直し。
そして何も知らない秋希は取り残されるのだった。
『某らもいるのだがのう』
『仕方ないわ、妾たちのことなど眼中にないようじゃからの』
『嬢ちゃんの子どもを見る日も近そうだねえ』
そしてそれぞれの相棒たちは部屋の隅から暖かく見守るのだった。
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迷宮省福岡支部・食堂
普段から人がごった返す、支部併設の食堂。今日も探索者で賑わっている。
「なあ、聞いたか?『電光石火』の子たち、また第3ダンジョン踏破だって」
「ああ、聞いた。ファンクラブの中じゃあその話で持ち切りよ。このままいけばB級、いやA級もいけるんじゃないかって噂だ」
ぽりぽり。
「すごいわよね、『電光石火』。女の子5人組でしょ?私も憧れちゃうなぁ」
「やめときなって。噂じゃあの「氷の帝」様も参加してるらしいわよ」
「え、あの方が!?うわー、先越されちゃったかー」
「あんたあの方狙ってたの?」
ぽりぽり。
「しっかし、最近美咲ちゃんの配信で見ないな、輝くん」
「あれ、お前知らないの?輝くん、『電光石火』のリーダーやってんだってよ?」
「マジで?あのちっぱい…もとい、小さい子って輝くんだったのか。道理で」
「お前そのうち刺されても知らんからなw」
ぼりぼり。
「やっぱ輝きゅんといえばあれよね、あのかっこいい銃!」
「わかるー!あの銃一発でバッタバッタと…はぁあ、推せる〜!」
「はぁ、早くファンクラブ動画更新ないかな〜」
「ね〜。けど、毎回更新してくれるこの『MH』って、誰なんだろうね?」
「さぁ?」
ぼりぼり…ガリッ
「フゥ…お腹いっぱいにゃ」
真っ白な髪をした少女が呟いた。彼女の頭部にはぴこぴこと動く耳があり、腰からはしなやかで上品な二又の尻尾が生えていることを見るに、彼女は猫系の獣人のようだ。
(あの銃といい、見た目といい…あれはご主人様のパクリ野郎なのにゃ。結城輝…もっと調べる必要がありそうだにゃ)
彼女は食器を返却するとどこかへと去っていった。
そして、彼女の1連の動きを認識していた探索者は、食堂には誰1人いなかった──。
やあやあ諸君、久しぶりだね。
「ほんと、なんか久しぶりに呼ばれた気がするよ」
「今回はなんですの?」
なに、もうじき美咲ちゃんもこっちに来れるようになりそうだし、なんとなく?
「帰っていい?」
ああちょっと待って、輝くんに言っておきたいことが。
「…なに」
ちゃんとゴムはつけるんだよ☆
「はっ、な、は?」
「作者さん、見てたの?」
「ヘンタイだー」
「破廉恥ですわ」
待って待って、覗きは認める!けど聞いて欲しい。ここはなろうだから、描写はしないけど君たち結構深いとこまで行ってるみたいだね!?
「………」
「………」
はいそこ、黙らない。目をそらさない。私だって禁止とは言わないよ。ただ、気をつけてね?
「…善処します」
はい、よろしい。
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