part9
???の世界・人里離れた集落
「長様、妖魔の群れが現れました」
「むう、最早これまでか」
とある集落にて、長と呼ばれる老人と、報告をする少女が1人。その様子は時代劇を見ているようであるが、違いは彼女らの頭部には狐の耳が、腰からは尻尾が生えていることであろうか。そう、彼女らは狐族の獣人である。
「諦めるというのですか?」
「しかし、それ以外あるまい。里を捨て、新たな地を探すまで」
「長様・・・」
少女は思う。
(この状況、勇呀だったらなんて言うかな。多分、博が作戦を思いついて、梓が乗っかって。勇呀がまとめるんだろうな)
根幹にあるのは、「彼らなら諦めはしないだろう」ということ。
「長様。私は最後まで戦いますよ」
「な、なにを」
「このまま座り込んで終わりを待つ腰抜けに成り果てたいのなら結構。というか、最早私と長様しかいないというのに、新たな地を探して何になるというのです?」
「それは、儂とお主で子をなして」
「馬鹿言ってる暇があるなら武器をとれ!」
「は、ハヒッ」
長を一喝した少女は己の武器である刀を取り、戦う。
(勇呀たちと会えるまでは、死ぬわけには行かない。けど、ここで逃げたら私が私ではなくなる気がする!)
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輝が有名になってしまってから一月が経過した。その間、何度か美咲の配信にお邪魔して更に話題になったり、美咲との関係を疑われたりしたが、概ね平穏に暮らしていた。そんな時、とある連絡が輝に届く。
曰く、「勇呀たちの武器を見せる手続きができたから見に来い」ということだった。
これまでのやらかしにより、正直御神楽夫婦にはバレたんじゃないかという気がしている輝は、いつカミングアウトするかを考えながら博物館へと向かうのだった。
「おお、輝君。よく来てくれた」
「お久しぶりです、御神楽さん。それと──」
輝はそこにいた3人目に顔を向ける。
「ん?ああ、はじめましてかな。私は御門姫芽。よろしく、輝くん」
「よ、よろしくお願いします」
(まじかー、御門さんも居るのか。これはほぼ確バレてるな。にしても、御門さん変わんないなぁ)
「どうした?私の顔に何かついているかい?」
「ああいえ、美しい方だなぁ、と」
「っ、そ、そうかい」
「立ち話もなんだ、早速行こうじゃないか。着いておいで」
繁樹に促され、地下の保管室へ向かう一行。そしてそのまま保管室を通り過ぎ、重厚な扉を開けると、そこにそれらはあった。
「これが、疾風迅雷の遺した形見だよ」
ガラスケースに収められたそれらは、当時の輝きを残したままで保存されていた。
(強力に封印魔法かけたんだけど、この状態で保存するの大変だろうに。頑張ってるんだなぁ)
「これが…」
「うむ、これらが彼らの使用していた相棒たちだ。左から順に、勇呀さんの使っていた狙撃銃」
(そういや最後弾切れだったから、ボルト開けっ放しになってたんだっけか)
「そして博さんの使っていたハンマー」
(ドラゴンの鱗硬かったもんな、ハンマーもボロボロだ)
「折れてはいるが、澪さんの愛刀」
(そういやポッキリいっちゃったんだっけか)
「梓さんの杖」
(うん…、梓の杖はあんま変わったとこがないんだよなぁ)
それぞれの武器を見ながら、当時を思い出す輝。
「すごい保存状態ですね、まるで昨日まで使われていたみたいです」
「そうだね、管理してくれている職員には我々も頭が上がらない。・・・そうだ、君は銃を得意とするんだったね。持ってみるかい?」
不意にそう問われ、ビクッとする輝。
(バレてたのか?・・・くそ、何考えてるか分からん)
しかし輝は見逃さなかった。3人がそれとなくアイコンタクトを交わしていたことを。
(これは100パーバレてんな。はー、しゃあないか)
「・・・いつから気づいてた?」
「なんのことやら」
「全く、僕の知らないうちにすっかりタヌキ爺になりやがって」
「やっぱり勇呀さんだったんですね」
「本当は隠しとこうと思ったんだけどね。ここまで誘い込まれたら隠し通せないと思ったから」
「・・・・・・」
「…御門さん?」
「・・・・・・」ガバッ
「うわぁっ!?」
無言の御門に疑問を抱いた輝。すると御門は無言のまま、輝に抱きついた。
「勇呀・・・ひどいじゃないか。恋する乙女を置いて勝手に死ぬなんてさ」
「ちょ、御門さん?柔らかなものが当たってるんですが!?え、てか恋?」
「もう私も格好つけるのはやめるよ。私は勇呀、いや輝。キミが好きだ。・・・って、50年前に言っていればキミが死ぬことはなかったのかな」
御門の柔らかなマシュマロに包まれている輝は御門の顔を見ることは出来ないが、声色から後悔と自責の念が感じ取れた。
そしてそれを感じた輝は抵抗するのをやめ、しばらく身を任せるのだった。
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「満足したかな?」
「うん。恥ずかしい1面を晒してしまったな」
「大丈夫ですよ、そのこと知ってる面子しかいませんから」
「それはそれでどうなんだろうねぇ…?」
「御門さんにも可愛い1面があったんですね」
「御門じゃなくて、姫芽と呼んでくれって言っただろう?」
「う…姫芽さん」
「さんもいらないが…まあ今はこれでいいや」
現在進行形で輝とイチャイチャしている姫芽だが、普段の姫芽しか知らない人間は混乱するだろう。なぜなら、普段の彼女は探索者を引退しており、他人と顔を合わせる機会が少ない上、その美貌からよく言い寄られたり告白されたりするが、「短命種だから」と全て断ってきていたからだ。その状態の姫芽は、探索者から「氷の帝」と呼ばれて「その話はそれ以上言わせないよ?」あ、ハイ。スンマセンデシタ。
「御門さん、今のは…?」
「ああ、気にしないでくれ。そうだな、世界に文句を言っておいた」
「は、はぁ…」
「そうだ、輝。早速勇呀の相棒を持ってみてはどうかな?」
「(話逸らしたな…)そうですね、やってみます」
輝は愛銃の前に立つと、ゆっくりと手を伸ばし──
──手に取った。
「…ははっ、やっぱこいつの方がしっくり来るや」
「良かった、これで持てなかったらどうしようかと」
「まだ疑ってたのかい、光莉君は」
「私も信じたかったですよ?でもほら、私たちって結構責任の大きい立場なものですから」
「まあそれは分かっちゃいるがね」
「姫芽さん、そのくらいにしましょう」
「むぅ…、輝がそう言うなら」
この男、なかなかに手綱を掴むのが早いようである。
「さて、それじゃ出ましょうか」
「え、でもこれどう説明する?」
「大丈夫ですよ、どうせ展示は出来ないんですから。『あるべき場所へ戻った』とでも言えばなんとかなります」
「えぇー…」
ただの一般爺が言えば妄言と扱われるだろうが、なにせ言うのがレジェンド級の探索者である。その肩書きが発すると、意味を持つ。持っちゃうのである。
「あ、あともう1個問題がある」
「なんですか?」
「それだよ」
「それ…?」
「かな〜り偉い立場にある2人が、駆け出しの探索者のはずの僕に敬語を使うのはおかしいでしょ?」
「「…はっ」」
どうやらこの問題は2人の頭にはなかったようだ。
「まあ…僕たちだけの時ならいいよ」
それが輝の最大限の妥協案だった。
(だから正体明かさないでおこうと思ったんだよ…)
諸々の手続きが終わり、博物館の外に出た一行。
「それじゃ、僕たちは先に失礼するよ。ああそうだ、輝くんにはこれをあげよう」
繁樹から手渡されたのは、1枚のカード。
「これは?」
「僕の探索者名刺。これがあればあの場所にフリーで入れるよ」
「ありがとうございます…?」
繁樹の本意を探っている間に2人は帰ってしまい、輝と姫芽のみが残った。
「さて、私も今日のところは帰るとしようかああそうだ、輝」
「姫芽さん?」
姫芽は輝の耳元に近づき──
「今の日本は、多重婚が認められているよ」
と囁いた。
「ぇ、は、え?」
「その解釈はキミに任せるよ。またね」
そう言って姫芽は行ってしまった。
「姫芽さん…最後にでっけぇ爆弾置いていくのやめてもらっていいですか?」
その呟きは木々のざわめきに吸い込まれていった──。
多重婚が認められた理由↓
政府「探索者人気が高いのはいいけど死亡率も高いなあ。人口減少が著しくなってきたなあ。・・・せや、多重婚認めたろ!議会どうや?」
国会「さんせーい」
政府「という訳で今年から多重婚オッケーです。みんなたくさん子供作ってね☆」
以上!
「あまりにも端折りすぎじゃないかな?」
なんですか姫芽さん、氷の帝について細かく語りますよ?
「なら私は今よりも検閲を厳しくするぞ?」
だったらあなたのおっぱいより揺らしますよ?
「それはまあ…いいよ」
それはいいんかい( ̄▽ ̄;)
「勿論。それにおっぱいは等しく尊ばれるべきものだ。巨乳も貧乳も個性じゃないか」
でも輝くんは大きなおっぱいが好きらしいですよ?
「やはり巨乳は正義だな」
手のひらクルックルやないかい( ̄▽ ̄;)
「なあ繁樹、私たち蚊帳の外だな」
「そうだね光莉」
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