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第四章 魔法の粉……? 2話目

「これでも学校は皆勤賞の真面目君で通ってるんだから、それを阻害してまでやる価値のある仕事なんだろうね?」

「…………」


 マンション近くのファミレスにて、久瀬は朝食のセットに手をつけながら、少女に問いかける。対する少女はひたすらに周りを警戒するようにキョロキョロと見回すばかりで、久瀬の言葉が届いていない様子。


「……おい。話をするつもりが無いならここでおさらばになるが」

「っ! ち、違うんです! 組織の者が来ていないかだけを確認したんです!」

「組織、ねぇ……」


 この都市には幾つもの企業、国、その他色々の集団が影ながらに人を送り込んでいる。無論、全ては力帝都市内で発達した戦闘技術――つまり戦争に使われるような技術を盗み取ることを目的としている。

 外界より一世代、二世代先の技術が手に入るとなれば、自ずと競争は激化する――全ては戦いのため、『最強』の座を取るためにうまく都市システムとして組み込まれていた。


「それでその組織の名前は? どうして追われているの? そもそも名前聞いてないし」


 丸いパンを片手に質問攻めにする久瀬に対して、飲み物としておかれたコーヒーすら手をつけずにいた少女は、ここでようやく話をする姿勢となって久瀬と向き合う。


「……組織の名前は、アポカリプス。元々はこの街で起きていた別の製薬会社の子会社のようなものだったのですが――」

「それって五月頃のやつ?」

「っ! どうしてそれを?」

「その辺はSランクの情報網を舐めない方が良いってこと。それで、二つ目の質問。どうして君が追われているの?」

「それは……えぇと……」

「言えないならこの話は無かったことに――」

「それは! ……このカプセルを作るのには、私の力が必要だから……」


 それはそれは随分と興味深いことを言ってくれるな――と、久瀬は心の中で呟いた。恐らくは能力を通して何らかの抽出を行い、その成分によって能力を無理矢理開花させるか、あるいは擬似的な力を植え付けるかの二択だと、久瀬は推理を立てていた。


「じゃ、最後の質問。……そんなとんでもない力を持つ君の名前は?」


 素直な会頭を期待する久瀬に対し、少女はまるで一大決心するかのように息を呑み込むと、ハッキリとした声でこう述べた。


「……カーシャ……カーシャ=ガルギナ」


 自分の名前を、まるで呪文でも唱えるかのように静かに告げるカーシャであったが、久瀬はというと早速その名前でもって能力者の検索を始めた。


「…………うーん、それって偽名じゃないよね?」

「偽名じゃありません! 本名です!」

「あっそう。それじゃ――」


 ――そもそも力帝都市に名前を登録していないとか?


「――ッ!?」

「……ビンゴって感じ?」


 もう一つの可能性――名前自体が機密情報とあれば久瀬は大人しく手を引くつもりだった。いくら力帝都市最高格であるSランクでも、開示されない情報が関わった案件に手を出すつもりは微塵も無い。


「まっ、“裏”の連中が関わるような案件じゃないなら俺も気軽に受けられるってものかな」


 情報リスクも少ない上に、このまま解決まで持って行くことができれば、倫内に多大な恩を売ることができる。オマケにこれ以上面倒事を押しつけられることもない。久瀬にとっては渡りに船に近い頼み事だった。


「オッケーオッケー、かくまうっていうより逆にその組織潰してあげるよ」

「本当ですか!?」

「うんうん、だってその組織って偶然にも潰さなくちゃいけない組織と被ってるみたいだからさ」


 そうと決まれば早速行動開始――


「――って、これも君の仲間?」

「……えっ?」


 ――カーシャは自分の目を疑った。

 一瞬の瞬きの間に久瀬の背後から、正確にいえば久瀬が寄りかかっていた背もたれの後ろから、巨大な剣が突き出ている。

 そして久瀬の首から上と下とを分断するように、その剣はカーシャの目の前にまで迫っている。


「ねぇ、ちょっと――」

「きゃぁあああああああああっ!?」

「あーもう、うるさいからこれ引っこ抜いてくれる? それに今の一撃効いていないことくらい分かるでしょ?」


 首を貫かれたにもかかわらず、久瀬は何も変わらぬ今まで通りの口調のまま、後ろのテーブル席に座っているであろう最初の刺客に話しかける。


「流石にSランクが相手だと私達も不意打ちを使わせていただきますよ、『雷帝』さん」


 常に戦いに身を投じているのか、髪を短く後ろで束ねた少女が大剣の柄に手をかけている。

 そして久瀬はというと、またしても呼ばれたくない異名で呼ばれたことに怒りのスイッチがプチッと入ってしまう。


「だーかーら、その名前で呼ぶなって……言ってるだろうがッ!」


 突然大剣を握り返し、そこに大電流を流し込む。するとそれまで大剣を握っていた手が離れ、少女は即座にファミレスの通路へと離脱する。


「なるさん起きてください! Sランクとのバトルですよ!」

「あっそー、適当にやってて。私はもう一眠りするから」


 なんともやる気の無い声と、だらりとした雰囲気が隣の席のもう一人から漂ってくるが、そんなことなどどうでもいい。今の久瀬の敵は、この大剣を喉に突き刺した目の前の少女ただ一人。


「迅速丁寧! 即日遂行! 『首取屋ネックハンガー』の獅子河原ししがわら神流かんな椎名しいな鳴深なるみがお相手いたします!」


 その異名を耳にするなり、久瀬は目を細めつつも得物を取らせまいと首に刺さった大剣を抜き取って通路の奥へと蹴り飛ばす。


「よっと! ……それはそうと、『首取屋』ねぇ……“裏”じゃないとはいえ面倒な輩を向こうは雇ったようだね」

「なぁっ!? 剣を蹴るとは何事ですか!?」

「うっさいなぁ。俺に喧嘩売った時点でこうされることくらい考えてよ」


 準備運動という訳ではないものの、軽く手足をパタパタと動かして獅子河原と名乗る少女を見据える。


「……それじゃ、職業殺し屋相手なら本気でやらせて貰いますよ」

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