第四章 魔法の粉……? 1話目
――とある高級マンションの一室。一人暮らしにしては広々としたもので、壁や床も暗めで落ち着いた色合いのシックな空間が、部屋の持ち主の懐具合がどれだけ余裕のあるものなのかを知らしめてくれる。
そしてそれを一人の高校生が借りている部屋だと、誰が想像できるだろうか。
「う……ぅん……」
端末で設定しておいたアラームが、そんな静かな部屋に鳴り響く。部屋の主はというとだだっ広いベッドに寝そべったまま、顔を上げることなく手探りで端末を探している。
「もうちょっと寝かせて……」
今日もまた補修があるにも関わらず、こうして久瀬は睡魔に負けかけており、通算何度目かの寝坊を繰り返そうとしている。
「……あった」
ベッドの上を這うように手をバタバタとさせながら端末を探していた久瀬は、ついにベッドとは違う触感の何かに手を当てた。端末を探り当てた久瀬は、それをギュッと握りしめて手元にたぐり寄せようとしたが――
「んん! 痛い!」
その瞬間、久瀬の身体を起こすようにして、バチンと電気が全身を駆け巡る。
「ハッ、誰!?」
握った何かをそのままに久瀬は勢いよく跳びはねるようにして起き上がると、 “目の前の少女”が痛みを訴えるような表情に顔を歪めている。
「……ちょっと待って!?」
久瀬が握っていたのは、少女の左手だった。色白で柔らかく、決して携帯端末のような固いものとは間違えることのないもの。しかしそれが現実として久瀬が握っているのがそれになる。
流石にこの状況には全くもって理解が追いつかず、久瀬は自分を守るように急いで布団にくるまって、改めて目の前の少女と顔を合わせた。
「どうやって入ってきたの!? ていうか本当に誰だよ!?」
「えっ!? あっ! あわわわわわわ!」
質問攻めに慌てふためくばかりで応えることができない少女であったが、久瀬の方も一呼吸置いて落ち着いて少女の観察をすると、とあることに気がつく。
「……ていうか、そっちの服ボロボロじゃん」
久瀬の言う通り、少女の姿は酷く痛々しいものだった。本当ならば少女の魅力を引き出すために着飾ったものでも、ほつれた糸を携えた穴が開いてしまってはみずぼらしさが先に出てしまっている。
本来ならば鮮やかな金色をしていたであろう髪の毛も、ここ最近の生活レベルを物語っているのか汚れが目立つ。そして本来ならば天真爛漫でどこまでも澄み切っているはずであろう瞳も、陰りが目立っている。
「ったく、一体どこのどなたですかって話だよ。ここ一応高い家賃(Sランクだから全額免除されてるけど)を支払ってるってのに、どうしてこんな貧乏くさい人が俺の部屋に上がり込んでいるんだよ……」
久瀬は悪態をつくついでに少女を外へと放り出そうとしたが、少女は久世の姿をジッと見つめて何かを確信したのか、真っ白なベッドの上で突然頭を垂れて土下座を始める。
「貴方を『雷帝』と見込んでのお願いです!! 助けてください!!」
「えぇー……家に上がり込んでいたと思ったら、今度は何? 別にここは均衡警備隊じゃない感じなんだけど――ッ!?」
そこまで言いかけたところで、少女の手から差し出されたあるものを見るなり、久瀬は黙りこくってしまう。
「このカプセルを作っている組織から追われているんです! お願いします! 一週間だけでも良いので匿ってください!」
それは倫内が追っているはずの組織が作っているとされる、例のカプセルと全く同じ代物だった。
「……まあ、とにかく話だけでも聞こうか」




