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第三章 連戦連勝……? 1話目

「――それで? 今度は応援を連れてきた感じ?」

「そうよ! 私の姉さんなら、魔導師ヘックスの姉さんならSランクに勝てるはず!」

「いやいや、確かに私は魔導師ヘックスだけど、Sランクって……無理に決まってるじゃない」


 翌日になって早速何か対策でも練ってきたのかと思いきや、これまでこの場にいなかったはずの第三者がここで姿を現わす。レイチェルと、そして鮎原の代わりに今回一人の魔女がこの場に連れてこられている。

 魔女といえばお決まりともされるつばの広い黒い三角帽子の奥で、挙動不審に揺れる視線。服装も黒を基調としたシックな雰囲気を漂わせていて、一目で魔女だと分かるようなものをしている。


「……自分から言うのも不本意だけど、俺って世間から『雷帝』って言われてるんだが」

「やっぱり……妹がいつもお世話になっています」


 どう考えても勝ちに来たというよりもこの場を何とかして切り抜けたいという思いが、お姉ちゃんと呼ばれた魔女からひしひしと伝わってくる。


「そりゃ丁寧にどうも。それより、大丈夫なのか?」

「だから、私の姉さんのランク! 聞いて驚くなよ! Aランクの魔導師ヘックスなんだからな!」

「だからSランクより一個下のランクなんだけど……レイチェル聞いてる?」


 久瀬の問いに対して自信満々に答えるレイチェルであるが、対する姉はというと先程から何度もこの戦いは無理があると主張を続けている。

 この力帝都市で力を評価される際に、魔法使いは四つのランクに分けられる。魔法使いの時点で通常はDランクから外されるため、一番下のCランクから順に呼ばれ方が魔術師マジシャン魔法師ソーサラー魔導師ウィザード魔導王ロードと呼ばれる。ちなみに魔女の場合、魔術師ウィッチ魔法師ソーサレス魔導師ヘックス魔導王女ローヤルの順となる。


「お前の姉さんが言うのが正解だと思うぞ。えーと、名前は――」

「ラシェル=ルシアンヌです。こう見えて魔導師《Aランク》でやってます」

「うん、無理だわ。流石に俺もAランク相手に詠唱時間を与えるつもりはないし、一撃で仕留めるつもりだけど」

「ほらー、流石にお姉ちゃんでも無理だってばー。しかも傍若無人の『雷帝』が相手って、逆にレイチェルが今までけがしていないのが不思議なくらいだってばー」


 レイチェルから前に出るように腕を引っ張られているが、ラシェル側には全くもってやる気など無かった。戦う前から勝負が決まっている――Cランクの妹では感じ取れない圧倒的な力量差を、Aランクのラシェルは理解できていた。


「……とりあえず、帰っていい? 俺この後録り溜めしておいたギルティサバイバルを消費しておきたいし」

「そっちの方が私としてもありがたいです……」

「っ、姉さんの意気地無し! だったら私一人でも!!」


 姉の消極的な態度に痺れを切らしたのか、結局何の策も用意することなく妹であるレイチェルが背を向けた久瀬に向かって杖を構え、魔法の詠唱を開始する。


「光よ鋭く空を切り! 貫け我が敵! 天敵を――」

「――馬鹿が」


 久瀬はそれまでにないドスの利いた口ぶりで、そして僅かに青筋だったような横顔を見せながら、レイチェルの横顔数ミリのところを電撃でぶち抜いてみせた。

 ラシェルはその瞬間から妹を守るために魔方陣を展開していたが既に遅く、そしてそれから一拍呼吸をおいて、妹であるレイチェルは自分の横顔を通り過ぎたのが何かを理解した。


「……ひぃっ!?」

「俺がまだ“半ギレ”で済んでいる内に帰れ。それとも次はいきなり雷落とした方が早いか?」

「分かった! 分かったから止めて! 妹はまだSランクという意味を分かっていないのよ!」


 姉として、そしてSランクを知る者として、ラシェルはその場にへたり込むレイチェルを庇うようにして座り込む。


「……ならいいけど。それとしばらくは関わってこないでね。ちょっと別件の方で頭を使っているから、相手をする余裕がないんだ。また暇になったら、遊びに付き合ってやるよ」


 そうしていつものごとく、否、いつも以上に余裕を持って背を向けて手を振る久瀬であったが、姉であるラシェルは予想通り、といった苦虫をかみつぶしたような表情でその背姿を見送る。


「……やっぱSランクってヤバい奴ばっかり。レイチェルもこれで懲りたでしょ? 今まではあの人も相手してくれたけど、これから先は控えなさい」


 君子危うきに近寄らず。その言葉の通りにラシェルは妹に注意したが、肝心のレイチェルはというと――


「……っ! うるさいっ!」


 ラシェルの手を振りほどいて立ち上がると、レイチェルは今まで以上の屈辱と悔しさを噛み締めるようにして、久瀬の背中が見えなくなるまで睨みつけ続けている。


「……絶対に勝ってみせる……どんな手を、使ってでも……!」


 レイチェルのその目に宿っていたのは、久瀬の苛立ちを遙かに上回る程の執念の塊だった――

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