第一章 久瀬陣作の日常 3話目
「えぇーと、正式に申し込んできた訳だから、それなりの報酬も貰えるはずっと」
夕焼けが街を赤く染め始める頃、久瀬はこの力帝都市だけで使える携帯型情報端末――通称『VP』を片手に街道をフラフラと歩いていた。
「……おっ、あれだけで百万はチョロすぎる。また受けてやろうっと」
戦いにおいてこの街は基本的にルール無用。どこで野試合をやろうが、一切お咎めがなし。加えて公式戦ともなれば正確な成績も必ずつけられるようになり、その分本人の強さの評価への反映も早い。更に条件によっては今の久瀬のように、戦った相手側から報酬を貰うこともできる。
しかし実際には野試合が後を絶つことはない。何故なら先程も述べたとおり、野試合であればいつでもどこでも仕掛けて問題ないからだ。ただし勝敗を明確に決める者などその場にはおらず、基本的にはどちらかが負けを認めるまで勝負は続いていくことになる。従って勝負を仕掛けた結果どちらかが負傷する、あるいは致命傷を負う事態も出てくるが、それは力帝都市からは一切保証をされることはない。
保証が無い中で不意打ちなどといったことはどうするのか――ということになるが、これはきちんとした都市の自浄作用というべきか、それに対応した警察的組織が自然と出来上がっている。
「ん? ……ああ、噂をすれば遊具破損の犯人を見つけたわ」
「いきなり悪口を言ってくるから誰かと思えば……なんだ、均衡警備隊か」
「なんだで済まされる辺り、流石はSランクサマってことか?」
――均衡警備隊とは力帝都市の治安を維持するために結成された、民間でありながら半分公的な立ち位置となった組織のことである。役割としては日本国における警察と同じ、治安維持と犯罪者の取り締まりを行っている。犯罪者の中には不意打ちを主として不正に実力を積む者も少なからずいて、そういった卑怯者を追い回す役割も均衡警備隊は担っていた。
そして今回久瀬の目の前に立っていたのは、勤務時間外でありながら均衡警備隊としての使命を忘れぬ一人の女性だった。
「だったらどうするの? 弁償すれば気が済む感じ?」
「Sランクにとって弁償なんて、それこそ意味の無いことだろ?」
「そういうこと。ってな訳で、公園のゴミ掃除を頼みましたよ、倫内さん」
久瀬はそうして面倒事を避けるかのごとく、自らが倫内と呼んだポニーテール姿の女性隊員のすぐ側を通り抜けようとした。
しかし実際には久瀬の思い通りにはいかず、後ろから肩に手を置かれることに。
「ちょっと待った。流石にこのまま黙って見過ごすのは、均衡警備隊として許すことができない」
「……へぇ」
近郊警備隊として少しでも背負った武器以外で鎮圧ができるようにと、倫内は女性の中でもアスリートのように常日頃から鍛えている。対する久瀬は能力を除けばただの男子高校生、身体能力も平均的。つまりこの時点で久瀬は能力を使わない限り、力尽くで倫内の手から逃れることは不可能である。
「大人しくついてこい。取り調べついでに晩飯としてカツ丼くらいは出してやる」
倫内はあくまで自分の正義のために動いており、その為には相手が自分より遙か格上であろうと怖じ気づくことはない。
「高校生の段階で前科者になるとか、俺としては嫌なんだけど。能力使えばこんなの簡単に振りほどけるし、やっちゃおうかな」
「やってみればいい。あたしがこの場で傷つけば、お前は本格的に均衡警備隊を敵に回すことになる」
「たかが組織力Bの癖に、随分と強気じゃん?」
既に久瀬の体には電荷が溜められているのか髪の毛先が浮いて逆立っており、倫内の手にも時折静電気がバチッ、バチッ、と通電し始める。
「痛ッ!」
「早めに手を離したら? 次は痛いじゃすまないかもよ?」
「……それであたしが離すとでも思ってるのか?」
しかし倫内は手を離すことなく、ジッと久瀬を睨みつけている。
「……分かったよ。また奉仕活動もセットでついてきますってか?」
「そういうこと。まっ、悪いようにはしないから」
とうとう根負けしたのか、あるいは当初から単なる脅しだったのか、久瀬は肩をすくめて体中に溜めていた電気を地面に放電をし終えると、素直に倫内の後をついて行くこととなった。
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