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第四章 魔法の粉……? 3話目

「くっ、ズルいじゃないですか!」

「ズルいも何も、喧嘩を売ってきたからにはそれなりの覚悟ってものがあるはずだよね?」


 他の客の避難もままならぬまま、久瀬は容赦ない攻撃を獅子河原に浴びせていた。

 ――Sランク対Aランク。たった一つの格の違いが、ここまでの隔たりを生み出すだろうか。それは雷帝という存在そのものがSランクの中でも更に特筆する程の強さを持つことが起因しているだろう。

 能力者は主に二つの種類に分けることができる。自分自身やそれに近いものに影響を与える身体強化フィジカルチューン型と、周りに影響を与える空間影響エリアエフェクト型の二つの二つである。

 これらにはそれぞれハッキリとした特徴があり、自分の身を守ることに関しては身体強化型が有利であり、相手への攻撃に関しては空間影響型に軍配が上がる。

 そして身体強化の中でも特にAランク以降に顕著に表れるのが、能力による変化を身に纏うのではなく、身体そのものを変化させるという点である。久瀬の場合であれば、自身を電荷へと変換することで、大抵の物理攻撃を無効化することができる上、移動スピードも光速に近い速さでの移動が可能となる。

 そして――


「ほらほら、逃げないと死んじゃうよー?」

「だぁー! めちゃくちゃじゃないですか!!」


 身に纏った電荷を利用した電撃が久瀬の得意技であり、そして相手を推し量るのに一番敵した技でもある。


「結構ギリギリで避けるじゃん。やるねぇ」

「そりゃ伊達に『救世主セイバー』の能力名を語っていませんからね!」


 どこの世界に殺し屋をする救世主がいるのか、と苦笑を浮かべながら、久瀬は仕上げを行うためにそれまで片手で放っていた電撃を両手へとスイッチングする。


「さて、両方から迫り来る電撃を避けてみなよ!」

「はぅっ!?」


 突如として目の前を横切った電撃に足を止めたその瞬間――


「ぐげぎゃっ!?」

「おっと、女の子が挙げるべき悲鳴じゃない何かが聞こえた気がするけど気のせいでしょ」


 そうして気絶しかけている獅子河原に片足をかけながら、久瀬は一つ尋問をすることにした。


「さて、教えて貰おっかな。一体どこの誰に雇われたのかを」

「うぐぐ……」


 獅子河原は僅かな力でもって、ポケットにしまい込んでいた携帯端末に手を伸ばす。


「ん? 端末(VP)なんて出してどうするのさ?」

「……なるさん……起きて、ください……」


 幸運にもショートをおこしていなかった端末に登録されたある音を鳴らすために、獅子河原は力を振り絞って画面をタッチする。


「後……頼み……ま……した……」


 そこでぐったりと力尽きる獅子河原であったが、それと同時にけたたましい程の目覚まし音が鳴り響く。


「目覚まし……? それが一体何に――」

「あ゛ぁー、よく寝た。っつぅかうぜえからその目覚まし。邪魔だっての」


 久瀬が振り返ると、そこにはついさっきまで目を閉じて爆睡していた筈の大人しい女性――椎名しいな鳴深なるみがハッキリと両目を見開いて、ハスキーボイスで暴言を吐き散らしている。


「ったく、普段は『怠惰』に過ごせって言っておきながら、肝心要の時にアタシを都合良く表に呼び出しってか? 役立たずの糞ガキが!」


 既に気絶し倒れているはずの獅子河原の身体を蹴り飛ばす様に、流石の久瀬でも引いてしまう。


「おいおい、自分の相方だろ?」

「相方ぁ? こいつはただの営業兼経理兼雑用だ」

「それって殆ど任せてるってことじゃん……」

「うるっせぇ!」


 椎名の放ったひと言に、とてつもない威圧感が乗って襲い掛かる。


「アタシは戦闘専門。そしてこいつはオマケ。つまり――」

「つまり今からが本当の戦いってことか」


 久瀬は獅子河原の時には感じ取ることが無かった妙な威圧感を前に、気を引き締めて取りかかろうと地面から電荷を集める。


「一応冥土の土産にアタシの名前と検体名を教えてやるよ……『重圧プレッシャー』、椎名鳴深だ。文字通りぶっ潰してやるから覚悟しなぁ」


 親指を下に下げるサムズダウンを行いながら、椎名鳴深は肉食獣のようなギラついた笑みを浮かべる。

 対する久瀬は冷や汗をかいてはいるものの、『雷帝』という異名の通りに決して屈する様子を見せない。


「おー、怖いこわい。これはもうちょっと本気を出すしかないかな?」

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