第54話 刺客3人
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現れた3人の姿は異様だった。
1人はまるで日本の忍びに扮したような黒装束。腰に差したところを見ると、クラスは【暗殺者】だろう。
2人目はとにかくデカい巨漢。
特注と思われるフルプレートの鎧に身を包んでいるが、おそらく騎士じゃない。何故なら象徴たる剣や槍を持たず、代わりにやたら分厚い鉄甲を腕にはめていたからだ。たぶん【拳闘士】か、それに近いクラスと思われる。
その大柄な男が動く。
突然、両拳についた手甲を突き合わせた。シンバルを鳴らしたような盛大な音が大森林に響き渡る。それは己を鼓舞するためだったのだろうか。一瞬、俺がその意味を見出そうと頭を回転させた瞬間、背後で声が聞こえた。
「戦闘能力のチェックは済んだか?」
反射的に振り返ると、黒装束が立っていた。嬉しそうに舌を出した後、頬を膨らませる。
「ぶぅっ!!」
吐き出したのは如何にも身体に悪そうな毒霧だ。至近で食らった俺とミィミが咳き込む。
一瞬だ。大型な男が拳を打ち鳴らした次には、俺たちの背後にいた。
(巨漢に注意を引きつけておいて、黒装束の隠匿スキルで移動……。背後について毒攻撃か。まずい!)
「2人とも距離を取れ。ミクロ、炎だ!!」
『くわー!!』
ミクロはお返しとばかりに炎を吐いた。ミクロを選択したのは、毒の攻撃が通じていないように見えたからだ。
霊獣で、星火竜だけあって、耐性がついているのだろう。
ミクロの炎をまき散らす。
辺りは木や草など燃えやすいものばかりだ。
自然を壊すことに多少後ろめたさがあるが、仕方ない。
おかげで刺客たちから距離を取れた。
「2人とも毒消しだ」
〈収納箱〉に入れていた毒消しをミィミ、アリエラに渡す。
しかし、炎の向こうから飛来したものに破壊される。
「クロノ!!」
〈切り払い〉!
アリエラがスキルを使う。飛来したものを細剣で討ち払う。風を切り、元の持ち主の手元に戻ってきたのは、1本の槍だ。受け取ったのは、最後の1人。長身痩躯の鎧の男だった。
「槍……。【竜使い】? いや、【竜槍士】か……」
以前、俺と一緒に召喚された勇者の中で、1人ショウと名乗る子どもが【竜騎士】だった。【竜槍士】はその下位互換のスキルだ。
そして、そのスキルの特徴は中遠距離による狙撃――――。
「固まるとまずい! 相手の思うツボだ。2人とも分散を……」
「あるじ、ミィミ! まだどくが……」
「あ。そうか」
「判断が遅いな! 魔法使い!!」
〈三槍牙〉!!
再び【竜槍士】は投げる。名前の通り、1本の槍が3つとなって俺たちに向かって飛来した。おそらく先ほどの攻撃と一緒だ。
俺はまだ毒の影響で動けないミィミの前に立つ。
「もう1度いけるか!!」
〈シールドバッシュ〉!!
もう1度ミスリルガードに内包されたスキルを使う。
見事3つの槍を弾いてみせた。
「ほう! やるな!!」
【竜槍士】がギザ歯を見せて笑う。プロの殺し屋が感心するのも無理はない。成功させた俺も実は驚いていた。
〈シールドバッシュ〉〈ジャストガード〉のようなスキルには、成功か失敗かの判定が存在する。スキルツリー――つまりレベル合計の値が開いていると、その分タイミングの取り方が辛くなるという具合にだ。
ミスリルガードのレベルは最近やっと7になった。対して向こうのスキルツリーレベルは、およそ10倍近くはあるだろう。なのに俺は成功させた。
理由は1つだ。
「引きこもっていた時に、音ゲーをやり尽くしたのでね」
「はっ?」
【竜槍士】は首を傾げる。ちょっと間が空いたおかげで、ミィミとアリエラの毒の回復が間に合った。
「2人とも死角を潰すぞ」
俺、ミィミ、アリエラ、ついでにミクロが背中を合わせる。視覚を消し、【暗殺者】の奇襲を防ぐ。
「へぇ……。すかさず奇襲攻撃に対応したか」
「馬鹿ではなさそうだ。だが、少々消極的すぎはしないか?」
「どうでもいい。潰せ! どうせ紙屑同然だ!!」
【暗殺者】と【竜槍士】が、巨漢に合図を送る。直後、巨漢は大猪のように下品に吠えた。
「ぶほおおおおおおおおお!!」
およそ人の声とは思えない。
ハッと息を弾ませ、巨漢は突撃してきた。
「ミクロ!!」
『くわー!!』
ミクロが炎弾を放つ。
直撃するも、巨漢は止まらない。特急電車のように突っ込んできた。
「ミィミ!」
「まかせて、あるじ!!」
巨漢の突撃を止めたのは、ミィミだ。
たとえ小さくとも、ミィミは緋狼族。持ってるポテンシャルがそこらにいる種族と違う。
「止めた!!」
「アリエラ! 気を抜くな! 来るぞ!!」
巨漢の突撃を止めることはできたが、陣形は崩された。死角が生まれる。俺とアリエラはだけは背中を合わせて、【暗殺者】の気配を探る。
〈竜牙槍〉!!
ドンガの上から槍が降り注ぐ。
槍の回避に成功したが、ついに俺とアリエラは離ればなれになる。
仲間との距離が開き、分散させられた。
(【暗殺者】の襲撃に見せかけて、今度は【竜槍士】で攻撃か!!)
エイリアさんとの戦いでも思ったが、隠遁系のスキルって相手にするとかなり厄介だな。相手のペースに飲まれると、一気にやられる。
「クロノ、後ろ」
アリエラの冷静な声が飛ぶ。
だが、その前に俺は反応していた。
「だと思ったよ!!」
刀を抜くと、振り向きざまに切り払う。手応えは浅い。だが、アダマンタイト処理され、より強固となった俺の刀は易々と【暗殺者】が来ていた鎖帷子を切り裂いた。薄皮Ⅰ枚だが、何とか反撃の狼煙を上げる。
しかし、【暗殺者】の口元は笑っていた。
「まだ何かあるのか?」
「ぐおおおおおおおおおお!!」
気勢を上げたのは巨漢だ。
ミィミと押し合う状況が続いていたが、先に手を引っ込ませたのは巨漢の方だった。
そこにすかさずミィミが潜り込む。
巨漢のお腹に自分の拳をかざした。
〈崩拳〉!
【ナックルマスター】のスキル。
極端に距離のない状態でも、破壊力抜群の一撃を繰り出す。
うまくいけば相手を気絶させることが可能だ。
ミィミの〈崩拳〉を巨漢はまともに食らう。
ぐらりと姿勢が歪み、巨漢の顎が下がったように見えた。
だが、意識まで失っていない。空いた両手を再びミィミの前にかざすと、反撃に転じようとする。手の先には魔力が収束していた。
(あのガードもマテリアルデバイスか!! あの魔力……。まさか!!)
「ミィミ!! 逃げ――――」
ドンッ!!
巨漢の男の手が爆ぜる。
大爆発とともに、爆風に吹き飛ばされていき、近くのドンガに叩きつけられる。しかし、フルプレートの鎧が爆風と爆炎から巨漢を守ったらしい。その上タフであるため、すぐに立ち上がった。
(あいつ……。【拳闘士】だと思ったらとんでもない。おそらくあのなりで【魔法使い】だ)
今のは【魔法使い】の中でもかなりの威力のある〈エクスプロージョン〉だろう。
いずれにしろ頭がおかしいのか? 鎧で守られているとはいえ、爆裂系の魔法を至近で破裂させるなんて自殺行為だぞ。
「ふひゃははは! どうだ驚いたか?」
「まずは1人か」
【暗殺者】と【竜槍士】が口元だけを見せて笑う。
しかし、笑っていたのは、刺客たちだけじゃない。
「そいつはどうかな?」
「あ!?」
「よくもやったな!!!!」
頭上から怒りに燃えるミィミの声が聞こえてくる。
やや頭や肩に煤がついていたが、基本的にピンピンしていた。
〈フルスイング〉!
「くそっ!!」
暗殺者たちは舌打ちしながら回避する。
「隙ありだ! ちびっ子!!」
大振りの一撃を見て、【暗殺者】が反撃する。
小刀ぐらいの剣を抜くと、ミィミに迫る。
「どこを見てるんだよ」
「なっ! いつの間に???」
俺は〈シャドウステップ〉を使って、【暗殺者】の背後に移動していた。慌てて、防御しようとしていたが遅い。俺の攻撃は上からの振りではなく、下からの攻撃だからだ。
〈蹴り〉!!
ミスリルブーツに付与されたスキルの一撃は、綺麗に【暗殺者】の股間を痛打する。
「qあwせdrftgyふじこlp;」
もはや表現できぬ悲鳴を上げて、【暗殺者】は悶絶した。そのまま泡を吹いて倒れる。
「まずは1人だな!」
俺は残った【竜槍士】と【魔法使い】睨む。
倒れた仲間を見て、【竜槍士】は一旦距離を取ろうと、スキルを発動する。
そこにミィミが追いついた。
「にがさないよ!!」
「くそ! ガキが!!」
【竜槍士】から槍の雨が放たれる。しかし、ミィミはその悉く避けた。
〈高速回避〉!
【獣戦士】のスキルだ。
一秒にも満たない刹那、爆発的な反応を以て回避するスキルである。爆発を避けることができたのも、このスキルのおかげだろう。おかげで、物理防御面でミィミの穴はなくなった。〈高速回避〉はかなり優秀なスキルだ。それにミィミには数時間痛めつけられても耐えられる緋狼族の頑丈な身体がある。
強力な回避スキル。
そして当たっても怯まない身体。
今のミィミは対人においてはほぼ無敵に近い。
「やあああああああああああ!!」
「ちょっ! 待て!!」
ミィミがついに間合いを支配する。 回転の勢いと加速がかかった右拳がついに【竜槍士】の顔面を捕らえた。
〈フルスイング〉!!
渾身の一撃に細い【竜槍士】が踏ん張れるはずもなかった。一気に後方に吹き飛ばされると、ドンガの硬い幹に叩きつけられる。しかし、勢いは収まらず、森林の中をまるでパチンコ玉のように跳ねて、奥へと消えていった。
「ふん! すっきりした!!」
ミィミは鼻息を荒くする。
そこに再び巨漢が気勢を上げた。
小さなミィミに襲いかかる。手を広げ、どうやらまた〈エクスプロージョン〉を決めるらしい。だが、他の2人が牽制しているならまだしも、鈍行運転のバスのような突進ではあっさり捉えることができる。
巨漢の前に出でたのは、アリエラだった。剣を鞘から抜き放つ、すでに刃には大量の魔力が込められていた。
〈兜斬り〉!
いつ斬ったのかわからないほど、その斬撃速度はあまりに速く、そして美しかった。
巨漢の兜がパカッと開くと、そのまま切り口が開いていく。盛大に血しぶきを上げて、巨漢は悲鳴を上げるまでもなく後ろに倒れるのだった。






